3)趣味の山野草の花色と花色素に関する研究

3)趣味の山野草の花色と花色素に関する研究

①日本のヒルガオ属

ヒルガオ属(Calystegia)は世界に約25種あり、日本には4種が自生しています。これら4種全てをまとめて探す場合は北海道の深川市と留萌市がおすすめです。アントシアニンはヒロハヒルガオ以外からcyanidin 3-glucoside, cyanidin 3-rutinosideおよびcyanidin 3-malonylglucosideが検出されました。

Tatsuzawa, F., Mikanagi, Y. and Saito, N. 2004.

Flower anthocyanins of Calystegia in Japan. Biochemical Systematics and Ecology 32 : 1235-1238.

②エゾエンゴサクをはじめとするコリダリス属(ケマンソウ科)

コリダリス属はアフリカやアメリカ、ユーラシア大陸に約440種が分布し(Lidenら1997)、日本には約20種が分布しています(Fukuhara, 1998)。花色は白、黄、桃、赤、紫および青色等があり一部は観賞用植物としても使われています。日本原産でスカイブルーの花色のエゾエンゴサクをはじめとした、いくつかの種(写真参照)の花色素の分析をしたところ、全てからシアニジンの配糖体が検出されました(Fig.1)。そして、外花弁の花色は種によって含まれる主要なシアニジン配糖体の種類が異なるのに対し、内花弁では全てシアニジン 3-ルチノシドが主要アントシアニンであることが分かりました(第2表)。

エゾエンゴサクやコリダリス・ブルーパンダのスカイブルーの花色がデルフィニジンではなくシアニジンの配糖体からなることが分かったことから、メコノプシス(Yoshida2006)やオキシペテラム(Saito2012)と同じような発色機構かな?と予想しています。詳しい発色機構はこれから調べていく予定です。

Tatsuzawa, F., Mikanagi, Y., Saito, N., Shinoda, K., Shigihara, A. and Honda, T. 2005. Cyanidin glycosides in flowers of genus Corydalis (Fumariaceae). Biochemical Systematics and Ecology 33 : 789-798.

Norio Saito, Kenjiro Toki, Toshio Honda, Fumi Tatsuzawa. (2012) Floral pigments isolated from the sky-blue flowers of Oxypetalum caeruleum. Heterocycles,85(6): 1427-1436.

ツリフネソウ

ツリフネソウ(Impatiens textori)は日本、朝鮮、中国東北部に分布する赤紫色の花色の山野草です。漢方薬としても用いられていることからエタノール抽出物中における多くのフラボノイドが同定されています(Uenoら2003)。花色に関わるアントシアニンはマルビジンの配糖体が同定されていますが(Uenoら1969)、詳しいことはわかっていませんでした。

そこで、標準物質とのコクロマトグラフィーや未知色素の構造解析の結果、第1図のような7つの既知アントシアニンと1つの非常に珍しい有機酸でアシル化したマルビジン 3-グルコシド(第2図)が検出されました。

Tatsuzawa, F., Saito, N., Mikanagi, Y., Shinoda, K., Toki, K., Shigihara, A., Honda, T. 2009. An unusual acylated malvidin 3-glucoside from flowers of Impatiens textoriMiq. (Balsaminaceae). Phytochemistry 70: 672-674.