マメ科植物

1)マメ科植物と根粒菌の共生窒素固定における硝酸阻害機構の研究

マメ科植物は根粒菌と共生することで根粒を作成し、根粒内で共生する根粒菌(バクテロイド)により大気中の窒素を固定し、窒素源として利用できる。また、酸化的土壌(畑の状態)の主な窒素形態である硝酸態窒素も窒素源も利用できる。しかしながら、土壌中に硝酸態窒素が多く存在すると、根粒着生や窒素固定活性(ニトロゲナーゼ活性)が阻害されることが知られている。本研究ではニトロゲナーゼ活性の硝酸阻害機構に着目し研究を行った。この機構を解明し、固定窒素と硝酸態窒素の両方を有効に利用できるようにすることが、本研究の目的である。

まず、根粒内に吸収された硝酸態窒素(硝酸イオン)の代謝において、もっとも重要な硝酸還元酵素について調べた。硝酸還元酵素は硝酸イオンから亜硝酸イオンへの還元を触媒する酵素である。材料にはマメ科のモデル植物である、ミヤコグサを用いた。ミヤコグサの硝酸還元酵素はシングルコピーであり、他の植物と相同性の高いアミノ酸配列を持っていることがわかった。硝酸イオンを処理することで、27時間後に明らかなニトロゲナーゼ活性の阻害がみとめられた。このとき、硝酸還元酵素は硝酸処理していない対照区と比べて、明らかに活性が上昇していた。一方、硝酸イオンを処理していない根粒においても、硝酸還元酵素遺伝子は発現しており、活性もあることがわかった。このとき硝酸イオンは根粒内に存在していないことから、硝酸イオンに依存しないで、硝酸還元酵素遺伝子が発現するという、極めてユニークな性質をもっていることがわかった。発現部位をin situ ハイブリダイゼーションで調べたところ、感染域で発現していた(Kato et al. 2003)。

次に、硝酸イオンの代謝経路に着目した。硝酸イオンは、硝酸還元酵素により亜硝酸イオンに、亜硝酸還元酵素によりアンモニウムイオンに還元され、アミノ酸へと代謝される。一方で、亜硝酸イオンは硝酸還元酵素により一酸化窒素に還元される経路も存在する。一酸化窒素はシグナル伝達分子として知られており、硝酸阻害機構において重要な役割を果たしている可能性が考えられた。そこで、ミヤコグサを用いて、硝酸処理により一酸化窒素が合成されているかどうか調べたところ、明らかに一酸化窒素が合成されていることがわかった。また、一酸化窒素発生材であるSNPを処理したところ、ニトロゲナーゼ活性が1mM以上の処理により阻害されること、一酸化窒素消去材とともに処理することにより、その阻害が回避されることが明らかとなった。硝酸処理により一酸化窒素が合成されることから、一酸化窒素消去材を処理することにより、硝酸阻害が回避されるかどうかを調べたところ、硝酸阻害は回避されることがわかった(Kato et a. 2010)。

以上の結果から、硝酸阻害機構において、硝酸還元酵素により合成された一酸化窒素が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。

Kazuhisa Kato, Yoshimichi Okamura, Koki Kanahama and Yoshinori Kanayama (2003) Nitrate-independent expression of plant nitrate reductase in Lotus japonicus root nodules. Journal of Experimental Botany, 54: 1685-1690.

Kazuhisa Kato, Koki Kanahama and Yoshinori Kanayama (2010) Involvement of nitric oxide in the inhibition of nitrogenase activity by nitrate in Lotus root nodules. Journal of plant physiology 167: 238-241. BioMedLib Top 10 Articles Published in the same domain

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