けものみちにかがり火が燃えている。乾いた音と共に火の粉を舞わせている。まだ日が落ちきっておらず、草木を照らして踊る火影はいかにも弱々しい。闇が降り、力を得る時を待っている。
数歩先にまた一つ、灯りがともっている。その先にもまた一つ、また一つ、木々の合間を縫ってかがり火は続く。その更に奥に社が設けられている。木作りの社は、いつ建てられたものなのか、古くなって炭のように真っ黒だが、まわりの物を映し出しそうなほどに磨き上げられている。正面の扉は閉まっているが、隙間からかすかに光が漏れている。
深森の社から続くかがり火道の終わりは、そのまま木々の終わりでもあった。うっそうと茂る草木が突然開けた所には踏み固められて草もまばらな広場があり、その先は湖だ。湖には小山のような中島が一つ浮かんでおり、その奥に対岸の山々が低く連なって見えている。暗い湖面にはかすかな波があり、岸辺の砂地へ、静に打ち寄せている。
湖の静かさとは裏腹に広場は随分にぎやかだ。腕っ節のいい若い衆が祭り用の焚き火のために薪を組んでいるところだ。何十人もの人で囲む焚き火だ。薪を組むだけでも一仕事だ。
焚き火の脇には小さなやぐらが設けられている。大人の男がやっと一人座れるくらいの小さなものだが、高さは十分にあり、雨よけの屋根が葺かれている。飾り気のないごく素朴なつくりで、床にはなめした毛皮が重ねて敷かれている。
年長の者たちから指示を受けながら働きまわる若者たちからは力と興奮が溢れ出している。何しろ一年に一度の大祭だ。このあたりのすべての集落から、老いも若いも男も女もみんな集まって踊りあかす。その上、今年の祭りはいつもの年より特別だった。
薪がすっかり組みあがり、火を入れる頃になると、方々から人も集まってきた。隣の村へ嫁にいった者や親戚同士などが久し振りに顔を合わせて賑わう一方、普段顔をあわせることの少ない離れた集落同士、若い者同士ほど、空気が張り詰め、交わされる視線も鋭さを増す。
各集落の決まった場所に大方の者が落ち着くといよいよ祭りの始まりだ。
集落ごとのまとめ役たちが勢いを増し始めた焚き火の前に集まり、その手に携えた酒を一つの杯に注いでいく。すべて注ぎ終わると、まとめ役たちは用意されていた上座に座す。
日は完全に沈んでいた。炎はますます力を増し、闇が大地を支配していく。朱の衣をまとった幾人かの若者達が前に進み出た。朗々と歌い上げる声が響き一人がゆっくりと舞いながら杯を手にした。彼らは踊り手だった。杯の酒が波立たぬほど滑らかに手足を動かしながら、杯を次々と手渡していく。火に照らされた手足の長い影がゆらゆらと地を飛び跳ねている。
一人がやにわに酒を手ですくい、炎に振りかけた。それを合図に太鼓が拍子を刻みだす。踊り手たちの踊りが変わる。滑るような足さばきに替わって力強く地面を踏み鳴らす。周りから手拍子と掛け声が上がる。踊り手たちは足並みそろえて地面をたたきながら徐々に酒を炎に振りかけていく。杯が空く頃には衣の朱に汗がしみこんで濃さを増している。酒をかけ終わり、空の杯が宙に放られると、女たちが用意してあったかめの水を踊り手たちにかけ始めた。踊りは次第に激しさを増していく。座ってみていた者たちも履物を脱いで踊りの輪に加わりだす。水で湿った土が音を立てて跳ね上がり、裸の足や衣にしみを作る。地を踏み鳴らす音がとどろき渡る。思い思いの足運びで踏み鳴らされる足音は乱れてそろわないが、一つの大きなうねりを作り出し始めている。
炎を囲んだ狂喜乱舞は最高潮に達しようとしていた。