すっかり暗くなった帰り道、琴音ちゃんが途中まで送ってくれた。
「あのピアノ、ちょっといいかもね」
琴音ちゃんがそう言ったので私は跳ね上がった。
「でしょ、でしょ?」
「あっ、テッキン・マリンバ!」
後ろからノーテンキな声が聞こえて、誰かが走ってくるのが見えた。
「シータン」
泥だらけで近寄って来たところをみると、どうもサッカーやって来たらしい。運動会であれだけ走った後に、まだサッカーやるなんて、いったいどういう神経なのか。
すぐ近くまで寄って来た椎太は、二人の〇前に回り込んで変なステップを踏んでいる。
「あれー、お二人さん、シューシュースプレー使ったねー」
からかい調子でステップを踏む椎太。この体力馬鹿。
「それがたしなみってもんなの」
琴音ちゃんの言葉に椎太が顔をしかめる。
「タシナミ?なにそれ?」
このおちゃらけた奴は、シズカちゃんが誰かのためにクッキー焼いたなんて、想像もしていないんだろう。
「あんたにはわからなくてもいいんだよ」
私がそう言うと、
「はーっ?何でマリンバはわかって、おれはわかんなくていいわけ?」
「自分で調べな。マリンバ、じゃーね」
そう言って元来た道を引き返す琴音ちゃんの背中に、私は手を振った。
「琴音ちゃん、私はねえ、琴音ちゃんが、カメムシじゃなくてよかった!」
振り向かずに小さく手を振り返した琴音ちゃんは、うつむいているみたいだったけど、その足どりが軽いことは私でもわかる。私たちは大人と違って、太陽なんか昇らなくても元気になることができる。
「カメムシ?」
いぶかしげに問う椎太の顔を見て、夢のことを話し忘れたことに気づいた。もし、ハマ君がカメムシだったら、琴音ちゃんは竜宮につれてってもらえたのだろうか?
「ねえ、カメムシってなんの話?」
人の腕をぶんぶん振りまわして叫ぶ椎太を見ているうちに、意地悪な質問を思いついた。
もし、シズカちゃんがカメムシだったら、どうする?
でも、椎太にそんなこと言ったらショック死してしまうかもしれない。
「ねえ、椎太はさ、もし私がカメムシだったらどうする?」
椎太が一瞬キョトンとしてから、胸を張って答える。
「ぶっつぶす!」
まったく憎たらしい奴だ。
「はっ。そしたら、めっちゃくちゃ臭いにおい出すから、あんたも死ぬね」
言われてうっと言葉に詰まってる椎太の肩をぽんぽん叩いて、じゃあねと家の門をくぐる。
「そしたら俺だってカメムシになるから大丈夫ですー」
わけのわからない捨て台詞をはいて、椎太も自分の家の玄関に消えていく。
「あ、そうですかー」 椎太に聞こえているかわからないけど、私も、そう叫んで、家の中にかけ込んだ。