Research (as of 20211014) 

建物スケールから,敷地,街区,地区,そして広域スケールまで,都市空間の計測・理解・改善に資する研究に取り組んでいます.
(このページは一部工事中です.徐々に内容を充実させます.)

建物敷地の規模及び形状(の多様性)と地区の建物棟数密度及び道路延長密度の関係(2010年 - )
都市空間は様々な規模や形態の建物で構成されています.その下地多様な規模や形状の建物敷地によって複雑に構成されています.この複雑な構成を理解することは,都市空間の理解と改善のために極めて重要です.一見すると,この複雑な構成を理解するのは難しそうに思われるかもしれません.ところが,地区の建物棟数密度と道路延長密度(+平均道路幅員)がわかると,地区における建物敷地の規模及び形状の平均像がわかります(下表).さらに,建物敷地の規模及び形状の多様性(確率分布)もわかります.逆に,建物敷地の規模や形状の多様性を考慮することで,適正な道路延長密度と建物棟数密度の基準を確率論的に設定することもできます(下図の水色の領域).研究成果については,Environment and Planning B: Urban Analytics and City Scienceなどの都市解析分野における主要国際誌にて論文を発表するとともに,都市計画論文集などの主要国内誌にて論文を発表しております.また,書籍も出版しております.一連の研究成果は,地区における延焼リスクの評価街路景観の調和を促すための制度設計,科学的な知見に基づく建築基準法集団規定の再考や密集市街地の条件の再考,住環境評価全般の基礎になります.

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建物群と道路網は都市空間の主要な構成要素であるものの,両者の関係を理解するのは意外と難しいです.建物群については,地区の建蔽率や建物棟数密度を計測することで,平均的な隣棟間隔から建て詰まり具合を評価することができます.道路網についても,地区の道路率,道路延長密度,交差点密度,平均道路幅員を計測することで,道路網の整備状況に基づく地区の基盤整備状況を評価することができます.ところが,建物群と道路網の両者の量の関係やそれぞれの適正な量については,理論的に解明されていませんでした.

薄井・浅見(2011)では,建物敷地の平均間口と平均奥行に着目することで,建物棟数密度と道路延長密度の関係を見通しよく理解するための理論を構築しました.敷地を介して建物と道路の関係を理解することは,urban morphologyにおけるオーソドックスなアプローチです(Oliveira, 2016).工夫した点は,定式化において,道路幅員,建物敷地の接道義務規定,一敷地一建物の原則を明示的に考慮したことです.建物敷地の接道は,世界の都市空間に共通するルールの一つであり,'urban syntax'と言われています(Marshall, 2009).

理論は主に三つの基本方程式二つの基本定理で構成されます.三つの基本方程式は,それぞれ,建物敷地の平均間口,平均面積,平均奥行を地区の建物棟数密度,道路延長密度,平均道路幅員の関数として定式化したものです.基本定理1は,建物敷地の平均奥行は道路延長密度の単調減少関数であり,建物棟数密度に依存しない.基本定理2は,建物敷地の平均間口は道路延長密度の上の凸の二次関数であり,かつ,建物棟数密度に反比例する.これら二つの基本定理から,道路延長密度に応じて建物敷地の平均奥行が定まり,かつ,建物棟数密度に応じて建物敷地の平均間口が定まります(下表).

この帰結から,道路延長密度が主,建物棟数密度は従,という関係を見出すことができます.地区において,良好な居住環境を実現するための望ましい建物敷地の平均像(平均奥行と平均間口)が定まると,基本定理1から,道路延長密度が定まります.そして,基本定理2から,基本定理1で定まる道路延長密度を所与として,建物棟数密度が定まります.このように,建物敷地の平均像に着目することで,建物敷地という地区の部分と,地区という全体における道路延長密度及び建物棟数密度の関係を,見通しよく考察することができます.とくに,建物敷地の平均像から,地区の道路延長密度と建物棟数密度が定まるという知見は,都市計画において非常に重要です.たとえば,密集市街地の基準を建物敷地の平均像から設定することもできます.

現実の都市空間では,建物敷地の規模や形状は狭いものから広いものまでさまざまありますから,平均像だけでは不十分です.では,建物敷地の規模や形状の多様性をどのように定量化すればよいでしょうか.この問題は,敷地間口が地区の街区境界線をどのように分け合っているのか,敷地面積が地区の街区をどのように分け合っているのか,という問題となります.実は,いくつかの仮定の下で,地区の建物棟数密度及び道路延長密度から,建物敷地の規模及び形状(間口と奥行)の確率分布を推定することもできます(Usui, 2018; Usui, 2019; Usui and Asami, 2020Usui(2021)では,建物敷地の規模や形状の多様性(確率分布)を考慮することで,適正な道路延長密度と建物棟数密度の基準を確率論的に設定する方法を構築いたしました(下図の水色の領域).

Berghauser Pont and Haupt(2009)は,urban formとdensityの関係を理解したりurban formを分類するための道具として,Spacematrixを開発しました.Spacematrixは,地区の建蔽率,道路延長密度,容積率をそれぞれx軸,y軸,z軸とする三次元空間であり,各地区のurban formはSpacematrixの一点で表されます.地区における建物敷地の規模及び形状の多様性と道路延長密度及び建物棟数密度の関係を理解するための道具としても,Spacematrix有効です.地区の建蔽率は建物棟数密度から推定することができます(腰塚, 1988腰塚・古藤, 1989).そこで,道路延長密度と建物棟数密度をそれぞれx軸とy軸としたものを「修正版Spacematrixとして再定義しました(Usui, 2021Usui, 2019).地区における建物敷地の規模及び形状の平均像及び多様性は,修正版Spacematrixのx-y平面上の一点(地区の道路延長密度と建物棟数密度のペア)に縮約されます(下図の黒色の点群).

建物配置による地区の空間構成の定量化と住環境評価への応用(2017年 - )
向こう三軒両隣,というように,市街地を構成する建物群は互いに隣り合っています.では,ある建物と隣棟関係にある建物はどれでしょうか?隣棟関係にある建物の壁面間距離(以降,「建物壁面間距離」と記します.)の計測は,延焼リスク,騒音,におい,プライバシーなどの市街地の空間性能に基づく住環境評価に欠かせません.では,建物壁面間距離はどのように計測すればよいでしょうか?地区において,建物壁面間距離の分布を簡便に知る方法はないでしょうか?地図を眺めながら考えてみてください.一見すると,建物配置が複雑な市街地ほど,これらの問いに答えるのは難しく思うかもしれません.

実は,建物の隣棟関係を幾何学的に定義する方法があります.建物の隣棟関係を定義する非常に簡単な方法は,建物の平面形状を表す多角形の図心(重心)に基づいて定義する方法(点ドローネ網に基づく方法)です.ところが,大小さまざまな面積をもつ建物群で構成される市街地の場合,この方法は不適切であり,建物の平面形状を図心に単純化せずに,多角形に基づいて幾何学的に定義する方法(面ドローネ網に基づく方法)のほうが適切です.この方法の欠点は時間を要することです.

そこで,両者の方法で建物の隣棟関係を定義する場合の相違の程度を明らかにしました(下図(左)).確かに,面ドローネ網に基づく方法のほうが点ドローネ網に基づく方法よりも精度は高いものの,その差は高々1%程度であることがわかりました.研究成果については,地理情報科学の主要国際誌であるInternational Journal of Geographical Information Scienceにて発表しております.

建物の隣棟関係がわかると,つぎに直面する問題は,建物壁面間距離の定義と計測方法です.建物壁面間距離とその確率分布についても,理論研究と実証研究を進めております.いくつかの仮定のもとで,地区における建物敷地の面積の確率密度関数の変数変換により,建物壁面間距離の確率密度関数を導出いたしました.この関数は,建物棟数密度,(個々の建物敷地における)法定の建蔽率制限値,平均道路幅員,道路延長密度から推定することができます.さらに,建物壁面間距離の関数として公理的に導出された延焼確率関数を用いて変数変換を施すことにより,地区における延焼確率の確率密度関数(延焼確率分布)を導出いたしました.

際立った特徴は,建物配置による地区の空間構成の多様さ建物壁面間距離の確率密度関数として定量化し,延焼確率関数という火災学の知見(建物単体に関する研究)建物壁面間距離の確率密度関数という空間解析の知見融合することで,上述の密度指標とくに建物棟数密度や建蔽率制限値の変化に対する延焼確率分布の変化見通しよく考察できるようにした点です.とくに,建物棟数密度や建蔽率が減少すると,地区の延焼リスクはどの程度改善するのか,見通しよく評価することができます(下図(右)).

この研究は,建物敷地の規模及び形状(の多様性)と地区の建物棟数密度及び道路延長密度の関係を解明した一連の研究を基礎としております.地区の道路延長密度と建物棟数密度のペアとともに,法定の建蔽率制限値を用いることで,建物壁面間距離の多様さを確率密度関数として定量化できます.他方,仮定に基づく理論研究であるため,実証研究とともに,理論の適用範囲とその限界を明示することも重要です.多様な規模と形状をもつ建物敷地を正方形に等積変形することが,建物壁面間距離の算出に及ぼす影響を実証的に評価し,理論モデルを実市街地へ適用する際の留意点を明示しております.研究成果については,都市計画論文集にて発表しております.一連の研究成果は,地区(とくに密集市街地)における延焼リスク,騒音,においなど,市街地の空間性能に基づく住環境評価の基礎となります.

都市の拡大と縮退の過程において一貫性のある市街地の画定方法の開発とその応用(2017年 - )
意外かもしれませんが,市街地の画定方法は都市の科学における最重要な研究課題の一つです(Batty, 2018; Pumain, 2020).市街地の範囲はその画定方法によって変わります.画定方法が適切でないと,都市の拡大と縮退の過程において,市街地の範囲はどのように変化してきた/していくのか,適切に評価することはできません.

市街地の範囲は人口集中地区(densely inhabited districts, DID)として画定されることが一般的です.人口集中地区,あらかじめ基本単位区と人口密度の基準を設けて市街地(administrative urban areas)を画定したものです市街地を人口集中地区として画定する問題点は,市街地の範囲が基本単位区の設定と人口密度の基準の設定に依存することです.実際には,人口集中地区の内外において,同程度の建物棟数で構成される市街地が散見されます(下図(左)の拡大部分).

今後,市街地の拡大と縮退を評価するためには,①(過去や)現在の市街地の範囲を建物の分布に基づいて画定し,②建物の除却等によって空閑地が発生・蓄積し続けると,市街地の範囲はどのように変化するのかモニタリングする必要があります.そのためにも,建物の分布に基づく一貫性のある市街地の範囲の画定方法は欠かせません.インフラ維持管理費用とその変化の視点も欠かせません.

そこで,建物の分布に基づくbottom-upな市街地(morphological urban areas)の画定方法を開発しました.際立った特徴は,①道路網をglobal road networksとlocal road networksに分類し,建物の分布に対して前者と後者に係る費用をそれぞれ固定費用と可変費用とみなし,③建物の分布(最寄りの建物までの距離)と道路網等の維持管理費用の関係を定式化し,平均費用最小化問題の最適解を市街地の基準(最寄りの建物までの距離の上限)としている点です.建物の分布に基づくbottom-upな市街地の画定道路網等の維持管理費用との関係定式化した研究世界的にも皆無です研究成果については,都市解析分野における主要国際誌であるComputers, Environment and Urban Systemsにて発表しております.

空閑地が空間的・時間的にランダムに発生・蓄積しているかどうかを定量的に評価するためにも,一貫性のあるbottom-upな市街地の画定は極めて重要です.たとえば,下図(右の左)のように,町丁目という範囲でみると,空閑地は集積しているように見えるかもしれません.ところが,町丁目において,建物の分布自体がランダムであれば,空閑地の発生・蓄積もランダムになるかもしれません.評価すべきは,下図(右の右)のように,町丁目のような範囲にとらわれずに,建物がある程度集積した市街地において,空閑地が空間的にランダムに発生・蓄積しているかどうかです.研究成果については,都市解析分野における主要国際誌であるEnvironment and Planning B: Urban Analytics and City Scienceにて発表しております.際立った特徴は,上述の建物分布に基づくbottom-upな方法で画定した市街地において,空間統計学における点分布パターンの評価方法を適用し,空閑地がランダムに発生・蓄積している/していない市街地を明らかにしている点です(下図(右の右)).千葉県を対象とする実証分析の結果,空閑地がランダムに蓄積しはじめると,蓄積し続ける傾向にあることもわかりました.

一連の研究成果は,道路網等のインフラ維持管理費用を考慮した最適な市街地の画定(下図(左)),インフラ維持管理費用負担のあり方の検討,市街地の範囲の変化予測,立地適正化計画における居住誘導区域の設定の基礎になります.

三次元都市空間においてsocial distancingを満たしていない滞在者人口とその変化の推定方法の開発(2020年 - )
スマートフォン等の携帯電話の位置情報を使用することで,人々の空間的な分布状況をリアルタイムで把握することができつつあります.ところが,携帯電話の位置情報は秘匿性を有するため,入手することは難しい状況にあります.また,携帯電話の位置情報は標高データをもたないため,三次元都市空間において人々の空間的な分布状況を把握するためには,ひと工夫を要します.

そこで,確率幾何学の理論に基づき,モバイル空間統計などの滞在者人口(500m四方の領域内)とその変化のデータをうまく活用することで,social distancingを満たしていない滞在者人口とその変化を簡便に推定する方法を開発しました.研究成果については,地理情報科学の主要国際誌であるInternational Journal of Geographical Information Scienceにて発表しております.たとえば,複数の建物で構成される施設において,入館者数の制限値を設定するための基礎にもなります.

滞在者人口の増減率については,マスコミ等でも日々報道されております.ところが,滞在者人口の増減率だけでは不十分であり,基準となる(延べ床面積当たりの)滞在者人口密度に応じて,滞在者人口の増減の程度を評価すべきですたとえば,2020年4月7日15時の新宿駅周辺における滞在者人口は32,000人であり,水戸駅周辺(4,500人)の約7倍です.滞在者人口の増減率(2020年5月1日15時の滞在者人口 / 4月7日15時の滞在者人口)のみに着目すると,新宿駅周辺(0.44)のほうが水戸駅周辺(0.63)よりも減少しているように見えます.ところが,social distancingを満たしていない滞在者人口の変化に着目すると,新宿駅周辺では7,820人から1,633人へ減少し,水戸駅周辺では333人から134人へ減少しています.134/1,633 = 約1/12ですから,水戸駅周辺のほうが新宿駅周辺よりも十分に減少しているといえます.見方を変えれば,新宿駅周辺のほうがまだまだ多く,減らす必要があるともいえます.

理論上,social distancingを満たしていない滞在者人口の増減率は,滞在者人口の増減率の二乗となります.

滞在者人口は十分に減少しているかどうかの判断基準の考え方も提案しております.たとえば500m四方の領域内において,感染防止の観点から,social distancingを満たしていない滞在者人口の上限値を定めたうえで,確率論的に設定することができます.

継続歩行距離を考慮したシティベンチの設置密度及び配置基準(2017年 - )
ある程度の距離を歩き続けていると,座って休みたくなることはありませんか?そんなときに,ベンチや着座可能な場所はとても重要です.とくに,高齢者の場合,休むことなく継続して歩行できる距離(以降,「継続歩行距離」と記します.)は限られています.もちろん個人差はあるものの,人によっては50m,長くともせいぜい数百メートルです.なるべく多くの高齢者の継続歩行距離に対応できるようにするためには,ベンチの設置個所や着座可能な場所はどの程度必要でしょうか?そもそも,現状のベンチの配置は,高齢者の継続歩行距離に対応できているのでしょうか?もし,対応できていない場合に,ベンチの設置個所や着座可能な場所をどの程度増やす必要があるでしょうか?

これらの重要な問題に答えるために,ベンチの設置個所や着座可能な場所を点分布として表し,空間解析や空間統計学の理論を応用することで,現状のベンチの配置はどの程度の継続歩行距離を必要とするのか評価する方法を開発いたしました.あるベンチからその周辺のベンチまでの距離を計測することで,必要とされる継続歩行距離がわかります.もし,ベンチを等間隔に配置できれば,必要とされる継続歩行距離を簡単に計測することができます.ベンチを100mの等間隔で配置することを推奨する文献もあります(Gehl, 2011).ところが,都市空間において,ベンチを等間隔に配置することは困難です.実際は,ベンチとベンチの間隔は短いものから長いものまでさまざまありますから,確率論的に考えるのが妥当です.

そこで,あるベンチと隣接関係にあるベンチのうち,最も遠いベンチまでの距離(最大近隣距離)に着目して,必要とされる継続歩行距離の確率密度関数を推定しました.この関数を推定するときには,ベンチを等間隔に配置する場合の配置間隔(下表の「格子状の配置間隔:rgrid」)が重要な役割を果たします.たとえば,東京駅周辺(大手町地区と丸の内地区)の場合,現状のベンチの配置(設置個所の総数は82)では,最大近隣距離はほぼ確実に100m以上となります.もし,最大近隣距離が100m以上となる確率を0.18程度に抑えたいならば,ベンチの設置個所の総数を436まで増やす必要があります.これは,ベンチを50mの等間隔で配置する場合の設置密度に相当します.研究成果については,日本建築学会計画系論文集にて発表しております薄井・樋野, 2018;   薄井・樋野, 2019

意外なことに,ベンチの位置情報はありません(あれば教えてください).下図(現状)は,スマートフォンを使用して位置情報を取得しました.ご覧のみなさまも,自宅や職場の周辺のベンチとその配置について,継続歩行距離の観点から考えてみませんか?まずは,ベンチや着座可能な場所はどこにあるのか,調査することをおすすめします.

現行のゾーニング制における街路景観の調和度の改善 -個々の建物形態の外部不経済に着目して- (2011年 - ) 

消防活動困難区域の定義再考(2011年 - )