生徒が主人公 教室断熱ワークショップ 長野県の場合
長野県/上田市民エネルギー理事長 藤川まゆみさん
生徒が主人公 教室断熱ワークショップ 長野県の場合
長野県/上田市民エネルギー理事長 藤川まゆみさん
長野県は、高校生が中心となり企画・運営し、大人たちがそれをサポートするという形で学校の断熱改修ワークショップが進んでいます。2022年度からは長野県のプロジェクトとして予算化され、県内各地で学校の断熱化が推進されていること、作業を行った子どもたちや地域の人々への良い波及効果についてもお話がありました。
|はじまりは高校生から。
発端は2019年5月、白馬村の人たちが企画した、「雪を守る、白馬で滑り続けるシンポジウム」です。私は企画運営から関わらせていただき、当日はスノーボーダーの皆さん、阿部知事と一緒に登壇もさせていただきましたが、その会場で「僕、上田市なんです、同じなんです。今日は手伝いに来ました」とあいさつをしてくれた男子高校生がいました。それが、白馬高校2年のTくんです。
Tくんと仲間のNちゃん、Hちゃんはここで、気候変動は自分たちの問題なんだということに気づいて、9月には3人が中心となり「グローバル気候マーチin白馬」を企画しました。このマーチには約150名ほどが参加し、行進をしながらあちこちで署名も集めました。後日、白馬村の村長にその署名を手渡すとともに「日本で一番最初の気候非常事態宣言してください」とお願いし、その年の12月白馬村は気候非常事態宣言をしました。
また、同じ12月には、白馬村で『おだやかな革命』という映画の上映&トーク会が開催されたのですが、そのとき、ゲストトークで登壇された断熱ジャーナリストの高橋真樹氏が「岡山県津山市ではワークショップで教室を断熱した」というお話をしてくださいました。それを聞いて即手を挙げたのがTくん、Nちゃん、Hちゃん。「白馬高校の教室、ストーブをつけても寒いんです。ぼくらもワークショップしたいです」と話しました。
それを聞いて私たちは「よくぞ言った!」と膝を打ち、同月21日に長野県主催で開催された竹内先生の断熱リフォームセミナーに彼らを連れて行きました。そこで竹内先生と彼らをつなぎ、白馬高校での断熱ワークショップ開催が決定しました。
|上田高校につながった白馬高校での断熱改修ワークショップ
開催は翌年の9月。準備に時間がかかりましたが、9月の3連休を全部使い手厚い断熱ができました。
対象となったのは3年B組の教室で、施工場所は南側の壁と窓、天井、廊下側の窓です。
南側の窓には木枠の内窓を付け、そこにガラスではなくポリカーボネイトを張り二重窓にし、窓の周りの壁に断熱材を入れました。天井にはグラスウールを入れ、廊下側の窓は、窓ガラスをすべてはずしてツインポリカに替え、その窓の周りの壁にも断熱材を入れました。廊下側を断熱ワークショップで改修している学校はまだ少ないと思います。
この3日間は参加者にグループを組んでもらい、順繰りに、どの作業も体験できるようにしました。準備段階から数えきれないほどのオンラインミーティングをし、生徒たちのお尻をたたきながら準備を進め、当日は竹内先生、それから先生と同じエネルギーまちづくり社の内山 章さんも来てくださって、付きっきりで作業を一緒にしてくださいました。
お2人のほかにも、力をお借りする工務店さんも村内の皆さんのご意見をお伺いして、株式会社 守破離(しゅはり)の横山 義彦さんにお願いし、私の団体NPO法人上田市民エネルギー、提携しているNECO(一般社団法人自然エネルギー共同設置推進機構)さんなど、皆さんの力を結集して開催まで漕ぎつけました。主催は白馬高校と環境活動団体Hakuba SDGs Labです。
資金は白馬村内の企業さんや、今日もご参加いただいていると思いますが、全国の建築関係の皆様からのご寄付で、そのほかにも必死にあの手この手で集めて賄い、実現することができました。
当日は、ボランティアとして長野市や上田市の工務店さん、信州大学の先生、パタゴニア白馬店のスタッフの方が参加してくださり、本当に賑やかな会になりました。実はその中でお越しいただいた上田市の工務店クボケイの窪田 陽介さんは、私から「白馬高校で断熱ワークショップするので遊びに行きませんか?」と誘いました。というのも、次は上田市で断熱ワークショップを開催しようと思っており、協力を仰ぎたかったからです。
窪田さんはその誘いに応じてくださって、おかげで事前にその様子を知っておいていただくことができ、体験もしていてくださったので、次の年(2021年)の12月に上田高校の学習室の断熱改修ワークショップが決まったとき、真っ先に相談することができました。この時も竹内先生や内山さんが来てくださって、白馬高校の時とは工務店さんのところだけが入れ替わったメンバーで上田高校の断熱改修ワークショップを開催しました。
|上田高校で実施を経て翌年度からは県のプロジェクトに
上田高校での開催は1日だけでしたので、南側の壁の断熱と、窓の二重窓化のみの施工に留めました。それでも生徒たちは、生まれて初めて使う道具を駆使しながら楽しく作業をしてくれたのが印象に残っています。
このワークショップの主催者は当時高校1年生だったKさんでしたが、準備が大変なことと、参加者が集まらないことに悩んでいました。そのような中で遡ることワークショップの1週間前に、グレタ・トゥンベリさんの映画上映&ゼロカーボントークというイベントを開催したのですが、ここには阿部知事も参加してくださっていたので、Kさんに「課題を知事に直接聞いてもらおう」とアドバイスしました。そこでKさんはパネルディスカッションの際に「準備が大変です。一番大変なのは参加者がなかなか集まらないことです」と発言。それを聞いた知事がその場で「これは応援しないといけないね。来年度から県のプロジェクトにしていこう」と宣言してくださったのです。
おかげでその翌年、2022年度には長野県のプロジェクトとして予算がつき、また、白馬高校、上田高校はもちろん、染谷丘高校(上田市)、岩村田高校(佐久市)、須坂高校(須坂市)、穂高商業高校(安曇野市)の計6校の県立高校が手を挙げてワークショップを実施しました。この時の様子を県が動画に作成してくださっているので、QRコードから覧になってください。
ただ、この6校すべてに私たちがサポートに入るわけにもいかず、手を挙げてくれた学校も、高いモチベーションはあるけれども何から始めればいいのかわからないという状態で停滞していました。
そこで、悩みごとや困りごとを共有するオンライン会議し、具体的な悩みや解決策などを先生方にも生徒たちにも参加していただいて共有しました。併せて、開催当日は竹内先生、内山さんたちがずっと大切にしてきたこと――ラジオ体操から始める、工具の使い方とルール、最後は振り返りの会で気づきや質問、感じたことを共有するなど――も伝えました。
実感として一度のオンライン会議で話して資料を配っただけではなかなか伝わりにくいということもあり、生徒と先生が協働する断熱ワークショップにはマニュアルが必要だと考え、作り始めています。施工方法など、工務店の方が見ればだいたい実施の仕方がわかるくらいの内容になる予定です。出来上がったら無料でダウンロードしていただけるようにしようと思っていますが、制作費がないまま始めてしまいましたので、竹内先生とも相談してご寄付を集めさせていただけたらと思っています。どうぞご協力いただければと思います。
〈ただいまマニュアル制作中!〉
|断熱の効果
さて、断熱改修をした効果です。
これは今年1月28日、岩村田高校でのワークショップ途中にサーモカメラで撮ったものです。断熱材を入れた壁と入れてない壁の温度差は7℃もありました。とても寒い日でしたが、本当にはっきりとした表面温度の差があります。
白馬高校ではワークショップの前にアンケートを取りましたが、そこでは手がかじかみ授業が受けづらかったことがある生徒が73%もいたことがわかりました。
ワークショップ後の検証では、まだストーブをつけない10月末時点の教室の温度差は、断熱した教室としていない教室ですでに4℃ありました。
こちらのQRコードからは、長野県が作成した「信州ゼロカーボンWEB講座」の動画を見ることができます。この動画では白馬高校のワークショップの様子や効果の検証の仕方、断熱改修した教室の感想が紹介されているのでよろしかったらご覧ください。検証のしかたなどもまだあまり確立されていない気がするので、先生方とも相談して、それもマニュアル化できたらいいと思っています。
|断熱以外の効果
断熱ワークショップは断熱だけでなく社会的な効果も高いと感じています。ワークショップでは先生と生徒だけでなく、行政も関わります。県立だったら県、市立だったら市、その担当者と検討したり話し合ったり交渉したりしないといけない。そして必ずプロの方が入ります。「ワークショップなんてやったことない」と言う工務店さんにワークショップについて説明し、説得し、「ラジオ体操にもぜひ参加してくださいね」などと言いながらみんなで作り上げていく。地域の人たちを巻き込む本当にいいツールだと感じています。
それから教師をはじめ参加した大人たちみんなが、断熱や気候変動に関心が高まると感じます。写真左の赤い服の方は上田高校の校長先生ですが、最初提案に行った時は準備期間が短いせいもあり「うまくいくかな」とずいぶん心配してくださっていたのですが、当日は朝からずっといてくださり、最後には作業に入ってくださいました。この日、一番楽しんでくださったのは校長先生かもしれません。
写真右は岩村田高校ですが、生徒たちがしていた窓枠の組み立てに先生たちも挑戦したのですが、生徒たちのほうが上手でした。こんなふうに立場を超えて体験や場を共有できるのが、断熱ワークショップがつなぐ最大の効果だと思いました。
ほかにもメディアが報道してくれることで、地域の方たちがとても注目してくれます。白馬高校で開催した時には報道陣がたくさん集まってくださり、新聞、CATVなどあらゆるメディアが取り上げてくれましたし、最終的には環境省の環境白書にも載りました。また、岩村田高校には、地元選出の井出 庸生文科副大臣が来てくださり、ずいぶん関心を高めてくださいました。そのように、高校生が主体的に取り組むということに社会はとても注目してくれます。
ワークショップ当日はお昼休憩も無駄にせず、気候変動や断熱を学ぶ時間にしようというのが竹内先生たちの提案です。実際、白馬高校、上田高校では、竹内先生、内山さんお2人のレクチャーをみんなに聞いてもらい、質問なども受け付けました。
岩村田高校では私がクチャーし、データなどを見せながら、未来を守るために、気候変動を止めるためにすべきことを考えてもらったら、たくさんの意見やアイデアが出てきました。
また、染谷丘高校では生徒会が勉強会を主催し、これを代々生徒会が引き継いでいくと言ってくれています。生徒会長がレクチャーをして、そのあと制限時間30分で参加者に気候変動を止めるプロジェクトのプレゼンを作ってもらうんです。そのあと5分ずつ発表するのですが、「日本初のゼロカーボン高校になろう」「車に乗らない日を作ろう」など、ユニークで面白い提案がたくさん出てきました。
楽しいということは一番の魅力です。気候変動については毎日のように深刻で大変なニュースが舞い込んできますが、それでもこんなふうに楽しくゼロカーボンアクションができて、完璧な断熱ができるわけではないですが様々な波及効果があり、充実感が得られる。この体験が周囲の人に広まり、断熱の大切さが広く伝わればいいなと思います。実際、噂を聞きつけた県内外の他校からも見学の依頼がよくきます。のちほどお話される千葉商科大学の皆さんも来てくださいましたし、学校同士がお互いの学校のワークショップを体験するというようなことも始まっています。
断熱ワークショップは、みんながつながりCO2をゼロにしていく初めの一歩、それも結構力強い初めの一歩だと感じます。長野県は今年度も予算をつけてくれているので、引き続き県立高校をサポートすることになりますし、基礎自治体、市内の小中学校にも広げていくお話もあります。大変ではありますが、どんどん進めていきたいと思います。
〈ワークショップ概要〉