岡山県内自治体の事例とファシリティマネジメント
(公共施設経営)から見た今後の課題
岡山県/NPO法⼈⾃治経営FMアライアンス 三宅⾹織さん
岡山県内自治体の事例とファシリティマネジメント
(公共施設経営)から見た今後の課題
岡山県/NPO法⼈⾃治経営FMアライアンス 三宅⾹織さん
NPO法人自治経営の公共施設のマネジメントに携わっているFMアライアンス理事 三宅香織さんから、岡山県で実施された学校断熱ワークショップの事例紹介と、公共施設マネジメントから見た課題が共有されました。他ではなかなか聞くことのできない自治体経営面からの話はとても興味深く勉強になりました。
|NPO法人自治経営FMアライアンスについて
岡山県倉敷市の三宅です。私は3月まで倉敷市の教育委員会におりましたが、今はNPO法人自治経営FMアライアンスの理事をしております。
NPO法人自治経営のメンバーは大半が自治体の職員ですが、その中でもFMアライアンスは公共施設の維持管理や再編、または公共施設でどのように稼ぐかということも含めて、公共資産のマネジメントの推進を考えているメンバーの集まりです。いっぽうでいろんな自治体施設の断熱化を進める活動もしており、その一環が学校断熱改修です。今日は岡山県内の事例の紹介をさせていただきます。
最初のワークショップは2019年に津山市で行いました。これはたぶん岡山県だけでなく全国でも初めての試みだと思います。当時、今日ご参加の竹内先生がいらっしゃる「都市経営プロフェッショナルスクール」に私も津山市の職員も参加しており、その中で「学校断熱ワークショップをやってみたらどうか」という話が出ました。話が出たのが6月、8月には実施したので2か月間というすごいスピードでやったのが1つめの学校断熱ワークショップです。
それを受けて2021年に倉敷市でも実施し、その取り組みを見た岡山市もやりたいということで2022年に岡山市で実施しました。倉敷市は2022年にも行い、現在岡山県内では4件の実績ができました。
|津山市の事例
津山市は2019年8月に実施しました。担当した津山市役所の川口さんは公共施設のマネジメントをする建築技師で、どの学校のどの教室を選ぶのかということに一番気を遣ったと聞いています。断熱改修した教室としない教室の比較ができないと効果検証が共有できないという考えで、図面を全部引っ張り出して選んだそうです。
その結果、津山市立西小学校の最上階真ん中の6年生の教室を断熱ワークショップの対象とし、比較対象にはほぼ同じ条件の5年生の教室が選ばれました。
計画は天井と壁に断熱材を入れ窓を複層にするというものですが、一番困ったのが資金面です。6月に思い立ち8月に実施したので、予算措置は当然されていなかったため、クラウドファンディングや協賛を募るということで賄いました。施工費は出せず、工務店さんにはまったくのボランティアでやっていただきました。
初めてのワークショップということもあり参考となる事例がなかったので、竹内先生にアドバイスをいただきながら準備を進めました。ワークショップ自体はみんなで楽しく話をしながら作業をする感じなので、ワークショップのためにどの作業を残して、事前にどれだけ準備をするかが本当に大変でした。川口さんも工務店さんに1週間くらいこもって、ポリカを切ったり、枠を作ったりということを試行錯誤しながらやったと聞いています。
このQRコードから、当日の様子の動画や、振り返りの記事をご覧いただけるのでよろしければご参照ください。
効果検証です。室温については断熱なしがブルー、断熱ありがオレンジの線で表示されていますが、断熱されていると温度変化がゆるやかなのがわかります。断熱がないとエアコンを入れたとき切ったときの負荷が激しいことがグラフからわかります。
また、実際に冷房負荷、暖房負荷を測った結果、断熱された教室は冷房負荷が約1/3、暖房負荷にいたっては1/2以上削減され、冬のほうが断熱効果が高いことがわかりました。
|倉敷市の事例
津山の事例を受け、倉敷でも実施することになりました。そのときにはすでに新型コロナが流行し、みんなで集まっての作業がしにくい状態でしたが、教育委員会の技師を中心に10人ほどが集まり、津山市の川口さんにも入っていただき毎週Zoomで会議をしながら準備を進めました。
倉敷市では2校実施したのですが、1校目の学校選定がいろいろ大変だったと聞いています。やはり周囲と教育委員会の理解を得られないと難しいのが現実です。
1校目の倉敷市⽴柏島⼩学校でのワークショップも最上階の教室を選び、天井、壁、窓の3か所を断熱改修しました。費用については約70万円の材料費がかかっているのですが、岡山に拠点のある環境関連のNPO団体が「地球環境基金」から助成金を得られたのでこちらを使わせていただき、人件費については全員無償のボランティアで参加していただきました。
実は2校目を実施する際には環境部局で予算をつけていただきたいということを考えていましたので、環境局の職員を巻き込む形で1校目は行いました。
そのようなことから、翌年の冬に実施した倉敷市⽴緑丘⼩学校の学校断熱ワークショップは環境部局の予算で行うことができました。できれば周辺の自治体にも広めたいという目論見でやっています。
1校目の効果検証です。断熱改修をした教室は夏にエアコンをつけた際、設定温度になるまでの時間が早かったと聞いています。また温度ムラも解消されました。あとはほかの方も言われていましたが、静かな環境となって子どもが大変落ち着いて授業に集中できるようになったというアンケート結果も出ています。
|岡山市事例
倉敷市でワークショップをしたときに岡山市の方が数人参加しておられ、ぜひ岡山市でもやりたいということである中学校の先生が実施されました。
この学校では北館1階の美術教室が寒くて、筆を持っても凍えて絵も描けないという話が出ていたのでこちらを対象としました。1階ですので天井の改修はなく、窓と壁面の改修をしたと聞いています。
費用についてですが、材料費と人件費計約130万円の費用のうち、クラウドファンディングで50万円が賄え、残りは学校とNPO法人からの支出だそうです。
|公共施設マネージメントの視点から⾒た課題
今日のお話で事例はすでにたくさん出てきているので、公共施設マネジメントの視点から見た学校断熱改修についてもお話ししたいと思います。
学校にエアコンが配備されたのは最近のことですが、あれは国から「予算措置しますが来年度までに設置しなかったら補助が出ませんよ」という話があって、一気にエアコンが普通教室に配備されたんです。
そのときに私たちは「断熱改修をしてからつけましょう」と主張をしていたのですが、まったく断熱改修は進まずにエアコンがつきました。結果、新型コロナで窓開け換気しないといけないし、電気代が高騰して公共施設の維持管理費がすごく高くなりました。これをどうにかしないといけないのではないかという課題を持っています。
次に公共施設の状況です。市町村の例になりますが、床面積換算ではすべての公共建物のうち、学校、幼稚園が占める割合は4~5割になっています。ですので、学校、幼稚園の断熱改修は電気代など維持管理費を削減する意味において効果があると見えるのですが、学校は夏休みなどの長期休業があり、また、夜間は使用していないということで、公共施設全体で優先順位を考えると、やはり24時間稼働している建物、庁舎や住宅、保健所、消防署などから断熱改修を、という考え方があります。
また、避難所となるところはやはり断熱改修したほうがいいのではないかという課題や、公共施設の大規模修繕をちゃんと進めるなら、保育園や病院を優先したほうがいいのではないかという話も出ます。
ほかにもインフラ整備も同じ財源なので、水道管や道路などの維持管理のほうが喫緊なんじゃないかという議論や、同じ学校内でも、教室も大事だけど避難所になる体育館の断熱改修が先じゃないかという意見も出てきます。
何が正しいかはわかりませんが、要は予算をつけようと思うと、個々の壁を乗り越えていかなければ議会は通らないという状況になっているということです。
実際、断熱改修にいくら必要になるかということを試算してみたのですが、ワークショップでかかる費用を100万円とした場合、倉敷市内の普通教室の学級数1576学級を掛けると16億円近く必要になるという試算になります。
1576学級をすべてワークショップで改修するのは現実的ではないので、予算を取った発注も考えました。その場合1学級につき250万円かかるとすると全部で40億円くらいかかるという計算になりました。津山市なら4億円から10億円かかるという計算で、果たしてこれが措置できるのか?
私はこのワークショップは、本当に予算を取ってやろうと思ったらかなりのムーヴメントにしないといけないと思っています。そのためにはそういう運動にもっていかないといけない。
「お金じゃないんだ」という議論もあると思います。実際、倉敷のワークショップに参加してくださった地元の工務店さんが「⼦どもたちにものづくりのカッコよさを伝えることができて嬉しかった。こういうことを通して、みんなで環境のことを考えていかないといけない」という話をしてくださったんですね。ワークショップにはこんなふうに、気持ちを子どもたちに伝えたり、技師の皆さんが子どもたちと金槌を握って、こういう活動の意義や環境のことなどを話しながらに一緒に作業するという側面もある。
ワークショップの本当の良さというのはそこにあるので、できるだけ多くの人を巻き込めたらいいなと思いますが、1回のワークショップで集められる人数は30人から40人が限界です。それ以上増えるとケガや事故の可能性が高まるので。となると1回のワークショップで巻き込める人数は少ないんですね。このあたりもどう解決すればいいのか。もちろん情報発信をするなど方策はありますが、まだまだ工夫が必要なんじゃないかと考えています。
あと、先ほど少し触れた“行政あるある”の話をしたいと思います。いわゆる「縦割り」の弊害です。学校断熱ワークショップを実施しようと思った際、どこが主導して窓口になるのか、教育委員会なのか、建設部局なのか、環境部局なのか、企画財政部局なのか、という問題にぶつかります。
どこが主導して窓口になるのかというのは、1つめの断熱ワークショップのあとの展開に関わってくると私は思っていて、最初の断熱ワークショップをするときに、ぜひこの①から④の部局の人たちに参加してもらい、ひとつのチームとなってどんどん広げていてもらうということを考えたほうがいいと思います。
たとえば、教育委員会はほかの学校にも広め、建設部局はほかの公共施設、庁舎や保健所や市営住宅などに広げていく。環境部局はカーボンニュートラル達成のためのロードマップを書き、どういうステップを踏んで進めるのか、財政部局も巻き込んで、試算をし、計画的に投資をしていくということがすごく大事だと思います。本気で2050年にカーボンニュートラルを実現するつもりなら、もう始めないとダメじゃないかと、私などは見ています。
この行政課題に、住民も含めいろいろな方々がワークショップを通じ、「学校が暖かくなって良かったね」で止まらずに、ほかの施設はどうかというところまで課題を投げかけて、話が進むようにしていただけたらいいなと思っています。ここが深い課題なんじゃないかなと思いますが、解決策はまだわかりません。課題だけ投げて申し訳ないですが、公共マネジメントから見た現状ということで報告をさせていただきました。
課題解決の参考になるかわかりませんが、ご紹介したいのが「KaBOOM !(カブーム)」というアメリカのNPO団体です。この団体は、保護者が公園を作っていこうということで、いろんな人たちが少しずつ労力やお金を出し合って、短期間のうちにたくさんの公園を作りました。こういうことができれば、学校の断熱化については広がる可能性があると思っています。それを実現するためにたとえば、学校の教室用に一流メーカーの立派な窓でなくてもいいから、ポリカをはさんだ低廉な窓枠キットのようなものを作ってもらったり、学校の天井断熱だけでも先に一気にやってしまうとか、そういうやり方も一つの手ではないかと思っています。
私が所属しているNPO自治経営FMアライアンスでは、「学校断熱ワークショップ実施の手引き」公開しています。こちらのQRコードからアクセスしていただけばダウンロードできるのでご活用ください。また、Zoomでの相談も受け付けております。私以外にも、技師による図面を見ながらのアドバイスなども可能ですので、気軽にお声がけいただけたらと思います。