ディスカッション
進行:東京大学大学院 前真之准教授
ディスカッション
進行:東京大学大学院 前真之准教授
各事例の報告終了後、今回のシンポジウムを受けてのディスカッションが交わされました。パネリストだけでなく、ご参加いただいた川口市地球温暖化防止活動推進センターの方からは、埼玉県川口市で実施されようとしていた学校断熱ワークショップへの取り組みの中でぶつかった壁についてのお話もありました。
前先生:では今日発表頂いた皆さんから全体を通してのご感想を伺えますでしょうか。
藤川さん(長野県):全国でこんなに充実した取り組みが多発しているというのは知りませんでした。今日のお話にはたくさんの気づきや発見があり、どなたかがおっしゃっていましたが、1から開発、開拓していくのは大変なので、経験をシェアするこのような場が必要だと思いました。今後は、効果検証とその見せ方について、生徒たち自身でできて、理解できる方法を示してあげられたらと思います。やはり生徒たちにはまだ検証結果の見方などが難しいようで、参加した生徒からすると思った反応が得られず少し残念に感じることもあるみたいです。そういうものがあれば、これからも共有していただけたらと思います。
藤法さん(藤沢市):今日は大変貴重な機会をありがとうございました。今後の断熱ワークショップで活かすことのできる、様々な立場の方々の多様な事例を聞くことができて嬉しかったです。これからどういうことを進めていくかということを考えていたのですが、皆さまの発表にあった課題ややり方など、とても学びの多い時間を過ごさせていただきました。
椎野さん(藤沢市):建設会社として、こういう取り組みがどんどん世の中に広がって、盛り上がってくれればいいなと思います。建設業界も盛り上がっていきたいので、機会をいただければ、また参加させていただきたいです。
北嶋さん(千葉商科大学):千葉商科大学は大学として初の断熱ワークショップを実施したということで注目を集めていましたが、自分が知らないところでたくさん断熱化の取り組みがあることを再確認できました。お話を聞きながら、これから学生団体SONEとして広げていくための知識が増えたのと同時に、やりたいことも増えました。個人的には、葛飾区の発表で自分が暮らしている江戸川区がZEBの会議に参加していたということを知ることができたのが嬉しかったです。
渡辺さん(千葉商科大学):私たちが実施したワークショップは学生たちを巻き込んでのものでしたが、小学生と一緒に実施している団体が多いことを知り、今後は小学生ともやりたいと思いました。小学生を参加者として受け入れた場合の注意点などあれば教えていただきたいです。
戸澤さん(千葉商科大学):今回いろいろな方々の断熱化に対する取り組みを聞いて感じたのは、自分たちの取り組みからまだまだできることがあるのではないかということです。今年の夏も別の教室で断熱ワークショップをやろうと考えています。
前先生:学生の人たちの主体的な取り組みは本当に素晴らしいと思うので、今後もご活躍を楽しみにしています。学生の人たちの自主的なつながりが広がっていってほしいと感じました。
山本さん(埼玉県):埼玉県の取り組みも、先行して行われた長野県さん、岡山県さんの事例を大いに参考にさせていただきましたし、埼玉県の取り組みに対して藤沢市の藤法さんからご相談いただいて多少はお役に立つことができたのかな、というところがあるので、ノウハウや共通の課題などを共有できるこのような場をご提供いただけたことに、あらためて感謝申し上げます。
佐竹さん(埼玉県):今日伺ったお話では学校断熱ワークショップを、行政との連携のもとで進めたという話と、我々のような民間が主導で進めたという話と、2つのパターンがあると感じました。その際、行政の中では温度差があり、先ほど三宅さんが発表されていましたが、これから先どの担当部局が推進していくのかということがポイントなのではないかと思いました。行政の壁というものを、今日も大きく感じたところです。また、暑さ対策と寒さ対策、どちらも一緒にできればいいのでしょうが、予算的に厳しい場合はどちらから進めるかというところで対策の仕方が変わるのだろうということも感じました。
宮本さん(埼玉県):私も以前から竹内先生や岡山県の三宅さんなどの取り組みを見て、さいたま市でもきたらと思っていたところ、さいたま断熱改修会議との出会いがあり実現できましたが、最後に三宅さんがおっしゃっていたように、省庁や組織の壁をどう乗り越えていくのかが大きな課題だと思います。そもそも横断して取り組まないといけないテーマだと思うので、どこが音頭を取るのかということも含めて、仕組みづくりが必要だと思っています。
個人的にはこれが産業に結び付いていかないといけないと思っていて、大概算でさいたま市を例に試算したところ1兆円規模の産業になるとの計算になりました。それを光熱費や医療介護費と天秤にかけたら、全額自治体が補助してもペイできるのではないかという気がします。そういう大局を見た流れができて、この取り組みが広がっていくといいのですが。本当は国に率先して取り組んでもらいたいです。
佐藤さん(埼玉県):学校の改修をして感じた、我々がふだん取り組んでいる一般住宅との大きな違いは、使用期間も時間も住宅より短いということです。住宅の場合は24時間スパンでの対応が必要ですが、学校の場合は短時間でエアコンが効くような、表面温度がしっかり上がるような工夫をしなければいけないことがわかりました。学校でワークショップをすることによって、生徒さん、PTAの皆さんの断熱意識が非常に上がったと思います。それに対応できるように今後も自治体と連携しながら断熱の改修を進めていきたいと思っています。
秋元さん(葛飾区):現在自治体は、新型コロナや物価高騰などの対応が優先されているのは事実です。ほかにも、先ほど三宅さんのお話にもありましたが、インフラ整備や災害対策なども重要な課題です。しかしそのような中でも、カーボンニュートラルへの取り組みを進めなければいけないと感じている職員は多く、それは地球全体の話にもなってくるので、もしかしたらインフラ整備や災害対策と同等、もしくはそれ以上にやっていかないといけないかもしれません。そのような意識を各職員認識して取り組んでいかなければならないと思っています。
今日のテーマである「どうしたら学校の断熱計画、省エネ計画が進められるのか」についても、行政職員、とりわけ施設整備や施設管理部門の職員、環境部局の職員一人一人が、カーボンニュートラルの背景、施設のZEB化や再エネ導入、気候変動、地球温暖化対策の必要性を腹落ちさせていくことが重要だと思っていますし、本気で進めるためにはそれが今の仕事の一つかなと認識しています。
先ほどから、話が出ている行政の縦割り問題ですが、環境部局、それから技術屋がいる営繕部門もどうにかしてZEB化を進めないといけないという意識はかなり持っています。あと、教育委員会も文科省から学校施設のZEB化について指導が出ていますので、認識はあるはずです。
葛飾区で言うと、営繕課主体でZEB勉強会を立ち上げましたが、そこには環境課も教育委員会も参加していますし、企画部門、財政部門も毎回ではないですがかなりの回数参加してくれています。なにより、ZEB化については区長から各部署連携してしっかり取り組むようにと話があったこともあり、我々も自信を持って推進している状況です。引き続き行政側でも頑張っていきますので、ぜひご支援等よろしくお願いいたします。
三宅さん(岡山県):各地でたくさんの取り組みがあることがわかり、勇気づけられました。ファシリティマネジメントに携わる者として一つお伝えしておこうと思います。私どものメンバーの中に役所の環境部局にいる設備技師がいるのですが、環境部局から見ると公共施設が使っているエネルギーというのは全体の1%くらいらしいです。
環境部局からすると、交通、産業なども含めて全体を見たカーボンニュートラルの話が必要で、そこから見ると、公共施設が使う1%のエネルギー、さらにその中の学校となると、優先順位的には高くならない、そういう現実があるという話を聞いています。ですので、学校断熱ワークショップは啓発や理解促進の手法としてさらに広げていって、みんなで考えるきっかけとなるのが本質なのかなと少し思いました。
あと、埼玉の宮本さんのお話を聞いて思いましたが、病院や老人福祉施設のZEB化が医療費予算の削減や健康寿命が延びるなどを表すデータがあるといいと思いました。そういうデータがあれば、予算を取る議論にもつながるので。今日はいろいろと勉強になりました。ありがとうございました。
前先生:パネリストの皆さま、ありがとうございました。ここで、参加されている方からコメントをいただきましたのでお話ししていただきたいと思うのですが、川口市地球温暖化防止活動推進センターの方お願いいたします。
浅羽 理恵さん(川口市地球温暖化防止活動推進センター):川口市地球温暖化防止活動推進センター浅羽と申します。今日はありがとうございました。私どもも昨年、芝川小学校の取り組みを知りぜひ川口市でもやりたいと思い、ちょうど理解を得られる学校もありましたので4月から働きかけてきました。
学校からは「とくに最上階がエアコンを最低温度に設定しても壊れてるんじゃないかと思うくらい暑くて困っている」とのお話があり、校長先生にもご理解いただき、埼玉県の建築士会のご協力もいただくことができたので調査を進めてきていました。
そのあと市の環境部に話をしたら「すごくいい取り組みだ」とおっしゃっていただき一緒に教育委員会に行ったのですが、最終的には教育委員会の許可が得られず実施できませんでした。不許可の理由は、他の人の手が入るとその後のメンテナンスがやりづらくなること、それから、ほかの小学校から断熱改修をしたいと言われたときに予算が取れず公平性が保てないことと言われました。
すごく残念に思っていましたが、今日お話を聞いて、教育委員会だけでなく企画財政部や建設部など、いろんな部署を巻き込むことが重要だと思いました。あと、葛飾区さんのZEB勉強会は本当に素晴らしいと思いました。部署や部門を超えたつながりがあるとお話しされていましたので、ぜひそのZEB勉強会の取り組みを川口市にもお伝えして、立ち上げてもらえるよう働きかけます。やはり市職員一人一人がZEBに対して関心を持つということが、断熱ワークショップのみならず、新築する公共建物のZEB化の意識を高めるために効果的だと思いました。
また、長野県のお話を聞いて、県立高校なら可能性があるかもしれないとも思いましたし、なにより高校生が主体となってやるというのが素晴らしいと思いましたのでそちらも働きかけたいと思います。
前先生:素晴らしいコメントをありがとうございました。本当に考えないといけない深刻な問題だと思った次第です。こういうのは、やはりどこかで攻略を考えて広げていくということをやっていかないと本当に大変だと思いました。みんなで力を合わせて作れるといいと思います。では米澤さんと竹内先生。
米澤さん(株式会社類設計室/シンポジウム事務局):私は設計事務所に勤めておりますので、どちらかというと新築案件のほうが多いのですが、最近は建物の改修、機能的なところや設備更新などの話も増えてきている中で、ZEB改修の話も多くなってきています。本日の皆さんの発表を聞いて、やはり設備改修だけではなく断熱改修も併せて進めていくべきだと思いましたし、各地で個々で行われている活動をそれぞれの事例として終わらせるのではなく、なにか普遍的な認識に変えていって、より断熱改修が広まっていくような活動につなげていければいいなと思いました。皆様からもよろしくお願いいたします。
竹内先生:本日、長時間にわたり情報交換ができたのは意義深かったと思います。様々な問題点があるのはすごくわかりますし、公共工事でやればお金がかかるという話にも、もちろんそうだよなあ、と思います。ただ、地域と産業、自治体と建設業という形で場を持つことができるということは、今までほとんどなかったと思います。それができるようになってきたということがすごいことだというふうにも思いました。
これまでは脱炭素や気候変動について考えても、何かしなくちゃいけないけど何をしたらいいかわからない、特に役所においては半分以上がゼロカーボン宣言をして行動計画までは必要にかられて立てたものの、次は何をすればいいのかという中で、今回紹介した取り組みは非常に有効なのではないかという思いを新たにしました。
地域にとっての産業にもなり得るというお話も出ましたが、少なくとも電気代の節約につながればそのこと自体に意味がありますし、福祉とどう関連するのかという話も大事かなと思います。
役所の壁、縦割り問題も確かにあると思いますが、役所には前例主義がありますので、前例主義を逆手に取れば民間からの要望が上げやすいということにもなります。また、それぞれいろいろな課がありますが、とりまとめているのは首長です。ZEB化推進が票になると思えば政治家は動きますので、そのようなことも必要かなと思います。
また、国の省庁はどうなっているという話もありますが、小中学校は基礎自治体の財産ですので、基礎自治体が動けば動くのではないかという気がしています。まずは先進性のある自治体と協力しながら前例を作っていき、ひいては日本全体の動きにつながればいいなと、少し壮大なことを思いました。前先生ともいろいろと協働させていただいていますので、大きなところをつつきながら小さなところで実績を積むという形で動きたいと思います。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
前先生:蛇足ですが私から一言。今日発表頂いた皆様、本当にありがとうございました。日本の現場で、善意と熱意で進められている方々に敬意を表します。
話したいのは2つ。1つはやり方です。どのような断熱をどう実行すればいいのか。それについては今日聞いた数々の成功例から、エンジニアリングとして昔から言われてきたことをきちんとするというのが答えだと思います。それをどのようにコストを下げるかという工夫は必要ですが、ワークショップなどの様々な試みがされ、それが共有化されれば、みんなでそれをシェアしてそれを手本として取り組むことができます。そのように広げていくのはありだと思います。
2つめ、これがたぶん圧倒的に大きな問題で、佐竹様や三宅様から詳しくお話しいただいた行政縦割り問題です。これは本当に途方もなく大きく、悪平等――ある教室が涼しくなったら他はどうなるんだという――を理由に結果的に何もせず放置する。少しずつでも全体を良くしていこうという仕組みを作らず、なにもしないほうがマシという、そういう話を聞くたびに恐怖を覚えます。
でも本来みんな良いことをしたいと思っているはずで、だけどどうしたらいいのかがわからない。だからそれをみんなで力を合わせてやっていく仕組みができれば良いのではないだろうか。さきほど竹内先生もおっしゃったように、どこかに良い成功事例、前例ができれば、「なぜうちはやらないのとか?」という流れになるのではないかと思います。
ただこれを実現するにはあらゆるレベルの人たちの工夫が必要で、そこを考えていかないといけません。私は工学系の人間ですが、いつも思うのは、工学の問題としては当たり前の話が、なぜ世の中に広がっていかないのかということです。子どもたちが暑さ寒さに苦しむ、学校が電気代で苦しむなど、工学で簡単に解決できる問題がそのまま放置されることがないよう、そういう仕組みをしっかりと作ることのできる国であってほしいと心底願っています。これからも今日の方々と協力しながら、少しでも良い可能性を見つけていかなければと思っております。子どもたちの未来がかかっているので、ちょっとこれは真面目にやらなきゃいかんなと思います。