地域工務店を中心とした教室暑さ対策への取り組み
~さいたま市立芝川小学校で行った断熱ワークショップと
効果の検証を通して~
埼玉県/さいたま断熱改修会議 山本浩二さん、佐竹隆一さん、佐藤喜夫さん、
東京大学大学院准教授 前真之先生、
さいたま市PPP(公民連携)コーディネーター 宮本 恭嗣さん
地域工務店を中心とした教室暑さ対策への取り組み
~さいたま市立芝川小学校で行った断熱ワークショップと
効果の検証を通して~
埼玉県/さいたま断熱改修会議 山本浩二さん、佐竹隆一さん、佐藤喜夫さん、
東京大学大学院准教授 前真之先生、
さいたま市PPP(公民連携)コーディネーター 宮本 恭嗣さん
埼玉県からは、地元の工務店、設計事務所、窓や断熱材メーカーが集まって発足した団体「さいたま断熱会議」と学校、PTAなどが協働して行った、さいたま市立芝川小学校の事例が紹介されました。また、この取り組みに参加された前先生による教室の換気計画、取り組みから見えた課題など、熱く濃い発表がされました。
|さいたま市立芝川小学校のワークショップ
(さいたま断熱会議 山本浩二さん)
さいたま断熱改修会議の山本と申します。さいたま断熱改修会議は、工務店、設計事務所、窓や断熱材のメーカーが集まって発足した団体で、2019年から市民向けの断熱セミナーを行うなど、省エネ・断熱の啓発活動を行ってきました。ご厚意で前先生が顧問を務めて下さっています。
今回断熱改修ワークショップを行ったさいたま市立芝川小学校は、築50年の鉄筋コンクリート造で無断熱の校舎です。ことの発端は、さいたま市の公民連携コーディネーターをされている宮本泰嗣さんが、芝川小の前PTA会長 岡野友敬さんから「芝川小はエアコンをつけても夏は教室が暑い、特に最上階は子どもたちも先生も大変らしい」という話を聞き、宮本さんが岡野さんにさいたま断熱改修会議を紹介してくれたことから始まりました。
学校へ伺ってお話を聞くと、現PTA会長の小林洋光さんから「年々厳しくなる猛暑の中コロナ禍のため換気をしながらエアコン運転しているが、この対処法に限界を感じている」というお話をいただきました。また、笈川教頭先生からは「発熱量の多い子どもたちにとっては、冬の寒さよりも夏の暑さのほうが耐えがたい」というお話もいただきました。これは埼玉県の特徴的な状況かもしれません。
実際、気象庁のデータを見ると、30年前と比べて、今は夏の最高気温が3℃くらい高くなっている状況も読み取れました。
そこで、夏の遮熱対策を主として子どもたちの学習環境を改善しようということで、2022年3月に「あついぜさいたま!芝川小・遮熱フェス2022実行委員会」を立ち上げ、夏の暑さが一番厳しい、各面から一日中日射の影響を受ける最上階南端の4年1組を対象に選び、検証も行いました。
こちらが平面図です。東側がバルコニーということで朝から陽射しが入ってくる。西は廊下側ですが西日の影響も強い、黒板のある南側は無断熱の壁ということで、壁天井も含めて対策をしようということで取り組みました。対策前に前先生に全面的にご協力いただき、温湿度、CO2濃度データなどを詳細に6月末から測定を始めました。
実際に、夏の授業中、教室の室温はどうなっているのかというと、エアコンの設定を最低温度、吹き出し口の実測で10℃~13℃で運転しても、室温は朝の陽射しの影響もあって30℃を超えている状況がわかりました。
バルコニー側は、朝の5時くらいから授業が始まる前までにすでに日射の影響を受けています。とくに、休み明けの月曜は朝から教室が暑くて仕方がないというお話も先生からありました。
対策としては天井にはグラスウールの155ミリを敷き詰め、外壁に面した南側にはネオマフォーム45ミリを張り、その上を埼玉県産材の杉板を張って仕上げるという方法を考えました。
窓の遮熱は外壁で防ぐのが基本なのですが、学校側からバルコニーに出て開閉するのは避けたいというお話がありましたので、アルミが貼ってある遮熱パネルを室内に置いて、日射熱を反射するという方法でトライしてみようと考えました。
資材は基本的に、断熱材等は断熱材メーカーさんから、木材に関しては地元の建材屋さんから無償提供いただく形になりました。あとはメンバーの手持ちの道具とボランティア作業というところで大半を準備し、不足資金に関しては「芝川小おやじの会」の皆さんに協力していただいて、クラウドファンディングに挑戦することになりました。
ワークショップまでの経過です。まず最初にさいたま市教育委員会の学校施設管理課へ対策内容を説明し、了解をいただいてご後援いただいたのち、埼玉県環境部のエネルギー環境課さんにも説明しご後援いただきました。
それからは竹内先生に断熱ワークショップへのアドバイスをオンラインでいただき、また、前先生には芝川小でワークショップ前の座学ということで断熱セミナーを開催していただくとともに、ワークショップの事前準備としての全体の約8割方の作業を完了させて当日を迎えました。
ワークショップは午前と午後に分けて合計で30名の参加者とスタッフで行いましたが、天井、壁、窓の3つに関して、参加者の方がそれぞれ30分くらいずつ順繰りに作業をできるように構成しました。写真は実際のワークショップの様子です。断熱材を入れる前にサーモカメラで子どもたちに天井を覗くという体験もしてもらいました。
窓の作業はカッターと定規と接着剤があれば自分たちでもできるようになっています。最後はみんなで記念撮影をし、余った木材などは後日、クラウドファンディングのリターンということで木工教室なども行い、最後まで使い切りました。
ワークショップをしたら天井にある鉄筋コンクリートの梁からの輻射熱が気になったので、ワークショップ後でしたが梁の部分を断熱材で包むという作業も行ったところ、天井の表面温度が均一になりました。
あと、これは副次的な効果ですが、担任の先生からはプロジェクターを使用するときに、パネルが暗幕代わりになり授業がしやすくなったというお話もいただきました。
ワークショップの参加者の声で一番多かったのが、「この取り組みを埼玉県や各自治体にも広めてほしい」というものです。また、まだ暑さが残る夏休み明けに、4年1組の子どもたちにアンケートを取ったところ「授業に集中できるようになった」という回答が多く寄せられました。ほかには「黒板の周りにも木を張ったので教室が明るくなった」「木の匂いがすごく素敵です」というように、木の効果への言及もたくさんありました。
教室の計測結果の要約です。対策をした4年1組では室温がおよそ6℃~8℃下がり、温度ムラも減少しました。それから同じく最上階にある4年2組と3組にも窓の遮熱パネルだけは設置することができたのですが、こちらの教室でも朝の室温が3℃ほど下がったという結果が出ました。ほかにもデータからは、天井の表面温度も6℃ほど下がったこと、窓からの熱の流入が激減したことが読み取ることができます。
次に、クラウドファンディングの結果のご紹介です。こちらは106名の方から、当初の目標額77万円を上回る、112万8千円のご支援をいただくことができました。収支的にはクラウドファンディングのおかげと、材料をご提供いただいたメーカーさん、業者さん、無償ボランティアの皆様のおかげで今回やりたかったことはすべてできましたが、ではこれを民間の団体が、有償で全額出してできるかというと非常に難しいというのが実感です。実際に同様のことをすべて有償でやった場合の試算をしてみましたが、250万円くらいはかかるという結果が出ました。
11月には芝川小学校の児童、保護者、PTA、教員のほか、他校の保護者、PTA、教職員、地域住民、行政、議員、新聞社、建築関係者に集まっていただき、成果報告会を行いました。その際に話していただいた教頭先生のお話がとても良かったので、1分半ほどの動画で見ていただきたいと思います。
新聞も5社ほど取材を受け、今年の2月には彩の国埼玉環境大賞奨励賞を受賞しました。また、同じく2月には行政向けの見学会も開催し、一都三県の市役所の方や、政治家などにお越しいただき教室が満杯になるほどでした。
また、これは夏だけでなく冬の効果もいろいろとあるのですが、こちらは前先生からお話しいただければと思います。
|教室の換気計画について
(東京大学大学院准教授 前真之先生)
夏の断熱に非常に効果があったということですが、30人、40人のお子さんがいる教室には清潔な空気を届ける換気計画も非常に重要です。とくに昨今はコロナの影響で、冬でも窓を開けて冷たい外気を入れないといけないということになり、室内が低くなります。
そこで断熱制御をした換気が良いと考えました。
本当は熱交換気がベストなのですが、それではコスト面、メンテナンス面で難しいという話があり、類設計室の米澤さんからアドバイスをいただいて、普通の換気扇に、CO2濃度に応じて換気量を調整する「デマンド換気コントローラー」を取り付けて外気を取り入れる方法を採用しました。
写真のように、教室の後ろ側から外気を取り入れてそれをエアコンで温め、換気ファンで引っ張って前のほうから排気するという空気の流れを作り、その換気量は室内のCO2が1000ppmあたりで安定するように制御をかけ、必要なだけ換気をするということを行います。
これは窓開け換気をした2月21日と、計画換気をした2月22日の室温のグラフです。2月21日は室温が17℃以下になっていますが、2月22日は23℃を保つことができ室温を大幅に改善することができました。
こちらはCO2濃度です。CO2濃度に関しては窓開け換気のほうが低めではありますが、2月22日も1000ppmを大きく超えることはないということで、十分に空気質を維持することができたということになります。
それほど大きくはない教室にたくさんのお子さんがいるということから、学校建築においては断熱とともにきちんとした換気計画が極めて重要です。その際、熱交換換気までできなくても、デマンド換気制御でCO2濃度を調整し、暖房計画と組み合わせて上手に換気をすることができるということが、ここで確認できたと思います。
|ワークショップで見えてきた課題
(さいたま断熱会議 佐竹隆一さん)
さいたま断熱改修会議の事務局をしております佐竹です。私からは総括ということで今回のワークショップで見えてきた課題について話をさせていただきます。
まずは総括として、未来を担う子どもたちに快適な環境の中で学習をしてほしいということ。そのためには暑すぎる教室を改修する必要があるというのが今回のテーマでした。
改修の手順としては、エアコン設置前に断熱や遮熱改修などを行うのが望ましい。そのような形に変えていただきたいということが、一つめの答えです。
また、今回のようにボランティアで行おうとしたグループが、他地域でもいくつかあります。このような方々の意見を聞くと、やはりボランティアからの発出では、学校やPTAの理解、協力を得ること、建設業者などの協力業者を得ることが難しいとの話です。
いっぽう行政の立場からすると、教育委員会の総務課などがその手順を作るという話になるのですが、第三者が手を加えたときに、その後の維持管理など責任の所在を聞かれると非常に難しくなってしまうということがあります。
そして学校の立場から言うと、1教室だけやることにほかの教室との公平性が得られないという点で、いくつか課題が出てきていました。
このような中で、学校断熱改修を進めるにはどうすればいいのか、ということを考えたときに、やはりこういったことを早く、しっかり行うには、行政と民間のパイプ役となるアドバイザーと、業者を得ることが必要と考えました。
また、ボランティア団体やPTAから、行政に承諾を得るための活動も必要です。それにはPTAや学校、我々などの民間が、とにかく行政に出向くこと。そういうことをしっかりやらないと話は進みません。
いっぽうで、行政には改修の効果を認識していただきたいと思います。我々は改修の手順や検証結果を報告書として提出していますが、やはり直接対面で説明をすることで理解していただくことが大きな鍵になると思います。
行政とPTAの中で改修が進む仕組みづくりも大きな課題です。例えば作業のために我々が釘やビスなどを打ち付けると、これは学校への寄付行為になるので困るという話も出てきます。そのような禁止事項を緩和するなど、改修のハードルを下げるということも必要です。
長野県や藤沢市からは行政と一緒になって推進しているというお話がありました。そのような地域とも一緒になって進める仕組みづくりが必要になってくるんだろうと思います。
最後になりますが、現在、子ども子育て支援政策が大きく謳われていますけど、この中に学習環境の改善もテーマとして挙げてほしいということで、我々の総括とさせていただきます。次に、宮本さんお願いします、。
|プロジェクトを終えて
(さいたま市PPP(公民連携)コーディネーター 宮本 恭嗣さん)
さいたま市でPPPコーディネーターをしております宮本恭嗣と申します。私は今回、さいたま市とさいたま断熱改修会議の皆さんをつなぐ役割として携わらせていただきましたが、元PTA会長、校長先生、教頭先生、教育委員会など、本当に理解ある方々のご縁で出来上がったプロジェクトだと認識しております。
私にとって大きかったのは、さいたま断熱改修会議の存在です。そのような団体が組織されているということが、埼玉の大きな財産であり特徴だと思っており、それがあったから実現できたプロジェクトだと思っています。
今日のお話はエネルギー、環境、教育などがメインになっていますが、断熱の効果というのはそれ以外にも、健康や防災、そもそもの建築産業とか、そういう多面的な効果もものすごくあると感じています。それに対する理解が、まだまだ世の中的に広がってないところが課題で、そこはやはり役所的にも省庁や部署を横断して取り組まないと大きな動きにつながらないのではないかと思うので、このシンポジウムをきっかけに、学校関係だけではなくこの取り組みが広がっていくことを期待しています。
実は私はこれを機に、さいたま断熱改修会議のみなさんのご協力のもと自宅の断熱改修を計画しています。これが地域の産業となり市民に広がれば、既存住宅の断熱改修の産業化につながるのではないかと感じているからです。断熱改修ワークショップという取り組みが、ゲリラ的ではなく政策的に広がることをすごく期待していますし、私自身、この取り組みをさいたま市内で進めていけたらと思っております。
|締めくくりのあいさつ
(さいたま断熱改修会議議長 佐藤喜夫さん)
最後に私から。さいたま断熱改修会議議長、佐藤工務店の佐藤と申します。本日は私どもの事例を発表する機会をいただきまして本当にありがとうございます。
私どもさいたま断熱改修会議は、新築工事において非常にレベルの高い工務店、設計事務所、高性能な建材を供給するメーカーによって、現在25社で構成されております。
皆さんご存じのように、埼玉は日本で一、二を争う暑い地域ですが、10年以上前に建てられた既存住宅は断熱化が手薄でものすごく暑くて、それをなんとかしようということで立ち上がったグループです。市民の方々は、もう暑いのはあきらめるしかない、改修できるわけないと思っていらっしゃる方が多いのですが、それを住みながら改修する方法を私たちは研究し、普及啓蒙活動しています。
今回のように鉄筋コンクリート造最上階東側という非常に厳しい環境をどう遮熱して涼しくするかというのは、普段木造住宅を扱う中ではなかなかない課題なのですが、非常に高い知見をお持ちの皆さんが一生懸命考え、前先生のご指導などもいただきながら挑みました。おかげで、前先生のビフォーアフターの環境測定からもわかるとおり、良い成果を出すことができました。
今回、前先生からご説明いただきましたCO2デマンドによる換気が、窓を閉めた状態でも1000ppmを基準にCO2濃度をコントロールでき、エネルギーロスも少ないということがわかりました。これは我々木造住宅専門に携わる者にとっても非常に有効な手法です。良い副産物をいただきました。これからも埼玉県内の市町村と連携し、既存住宅の断熱改修だけではなく、今回のような特殊なケースに対しても対応させていただければと思っております。本日はありがとうございます。