Rhodopsin
微生物型ロドプシン、光受容タンパク質、プロテオロドプシン、海洋微生物、微生物生態、光エネルギー利用
微生物型ロドプシン、光受容タンパク質、プロテオロドプシン、海洋微生物、微生物生態、光エネルギー利用
生物は何色の光を、どのように利用しているのか?
この問いには、クロロフィルを持つ生物が赤や青の光を利用し光合成を行っていると答えるのが一般的です。つまり、利用されない光である“緑色が溢れる世界”が豊かな自然像として認識されるでしょう。しかしながら、僅かな栄養を奪いあう自然界で緑色光をエネルギーとして利用する生物は本当にほとんど存在しないのでしょうか?答えはNOです。我々の馴染み深い陸上生態系とは異なる海洋生態系には微生物型ロドプシンを用いて緑色の光をエネルギーとして利用する微生物が膨大な数存在することが近年明らかになってきました。そんな微生物の新しい光エネルギー利用機構を解明する研究を行っています。
この図は地球上の基礎生産を表しています。「クロロフィルを持つ生物が存在しない場所(海域)には、光エネルギーを利用する生物は居ない」と我々は長い間漠然と信じてきましたが、実はそんな場所にも光エネルギーを利用する微生物がたくさん居ることが分かってきました。そのような生物は、クロロフィル型のシステムではなく、微生物型ロドプシンと呼ばれる光受容体を持ちます。
海洋環境に最も多い微生物型ロドプシンはプロテオロドプシン(PRと略される)で、このロドプシンは光を受け取ると細胞内から細胞外にプロトン(H+)を輸送することでプロトン駆動力を生み出します。つまり、光エネルギーを生物が利用可能な電気化学ポテンシャルに変換することで、太陽光を利用します。
このロドプシンは2000年に発見され、その後の研究から海洋表層に生息する微生物(原核生物)の実に半数以上が持つと推定されています。
また我々の研究室では他のグループとの共同研究を通して、海洋微生物にはH+を輸送するプロテオロドプシン(PR)の他に、光で細胞内から細胞外にNa+を輸送するロドプシン(NaR: Na+ pumping rhodopsinと命名)や光で細胞外から細胞内にCl-を輸送するロドプシン(ClR: Cl- pumping rhodopsinと命名)が存在することを明らかにしました。
海洋微生物は海洋に豊富に存在するイオンを使うことで、巧みに太陽光エネルギーを利用していることが分かってきました。しかしなが、どのようにこれらのロドプシンを使い分けているのか?いつ発現するのか?などの基礎的な事柄もまだ分かっていません。
2000年以降のメタゲノムなどの研究から、海洋表層には膨大な数の微生物がロドプシン遺伝子を持つことが分かってきました。ただ、海洋環境中に存在する遺伝子の量や多様性は徐々に分かってきたものの、どの程度の光エネルギーを受け取っているのかはまだ未解明です。
私の研究室では「海洋微生物がどんなロドプシンを、いつ発現させ、太陽光エネルギーを何に使っているのか」を遺伝子の情報解析や分子生物学的手法を駆使することで明らかにする研究を行なっています。また、どの程度の光エネルギーを受け取っているのかも、現場観測を通して調べています。
まだまだ分かってないことの多い微生物の光エネルギー利用の研究を、日々わくわくどきどきしながら行なっています。