Bioluminescence

生物発光、発光バクテリア、発光微生物、発光細菌、海洋微生物、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、刺身が光る!

海洋には陸上に比べて多くの発光生物が生息しており、太陽光の届かない深海においても生物が放つ光に溢れる世界であることが知られています。一般的に、海に生息する生物が放つ光は人間の目には青緑色として認識される範疇に入り、それほどのバリエーションがあるとは考えられていません。しかしながら、光の色は海水中での光の到達距離に影響を与える因子であるため、多少の違いでも重要だと考えられます。 私の分野では、微生物の放つ“光の色”に注目し、微生物の発光酵素(ルシフェラーゼ)の遺伝子配列やゲノムから、彼らの光利用生態や発光酵素の進化に関する研究を進めています。

発光微生物(細菌)はどこにいるのか?

これまでに、魚の体表・腸管やマリンスノー、また魚やイカなどの発光器に生息することが分かっています。また、海水の中に一人でぷかぷかと漂っているものもいます。私のこれまでの経験ですと、ほとんどの海水(沿岸から外洋まで、表層から深層まで)から発光微生物を分離できているので、おそらく海洋に広く存在する微生物だと思います(ある特定種の微生物の生物量を知ることは非常に難しいのです)。

発光微生物が海産生物の腸管内などに数多く存在することは、1970年代頃から分かっていました。そんなに遍く存在するなら、スーパーで購入した刺身なんかにも感染しているはずです。現にwikipediaの発光バクテリアのトップの写真に暗闇で光るイカいくら雲丹丼の写真が採用されています。

そこで、スーパーで購入した刺身が光るのかを試してみました。


刺身を買って、シャーレに入れて、暗室(20度)で30分間隔のタイムラプス撮影をしてみました。

その様子がこちらです。イカver.はこちらです。

ワオです。

我々が口にする”ごく普通の刺身”が光っています。このように、発光細菌はどうやら海産生物の体表などに広く存在しているようです。

(注意)もともと魚の体表にいた発光微生物(その時は光っていない)が増殖することで光を放っています。冷凍された刺身などでは、微生物が死んでしまい光らない場合もあります。

発光細菌のルシフェラーゼ反応を示した図になります。

ルシフェラーゼという言葉は、生物発光を触媒する作用をもつ酵素の総称です。ホタルも海ホタルも発光細菌もルシフェラーゼにより発光すると記述されていますが、タンパク質そのものは別のものになります。

発光細菌の発光メカニズムは以下になります。

ルシフェリン(基質):還元型フラビン、長鎖脂肪族アルデヒド、(酸素)

バクテリアルシフェラーゼ(酵素):αとβのサブユニットからなるヘテロダイマー

そして、発光に関係する遺伝子は、発光細菌のゲノム上にオペロンとして存在しています。

(注意)ホタルルシフェラーゼはATPが必要ですが、発光細菌のルシフェリンはATPではありません。また、発光に関わる遺伝子はLuxオペロン上にコードされています(左図の下)。

発光生物の中には、オワンクラゲのように蛍光タンパク質を作り、発光色を変化させるものが知られています。発光微生物の中にも蛍光タンパク質を作り、光の色を変化させる種が3種で知られていました(2005年ころ)。

しかしながら、当時は蛍光タンパク質を作る発光微生物はどの程度一般的なのか?発光微生物の光の色は、種によって違うのか?それとも株レベルで違うのか?などの基礎的な事柄もほとんど分かっていませんでした。

この答えはここでは触れませんので、どこかで私の話を聞いてください。

そこで、大学院生の頃の私は何をしたのか?

世界中の様々な海域から発光微生物を分離し、片っ端から光の色の測定を行いました。当時は、青色と黄色の光を放つ微生物しか知られていませんでしたので、赤色や緑色に光る発光微生物を見つける気まんまんでした(運の良い自分なら、変な色を出す発光微生物を分離できるはずだと信じていた)。

結果、そんな発光微生物は見つかったのか?残念ながら見つかりませんでした。

つまりどういうことか?

発光微生物の光の色はどうやら、青〜黄色でなければ生態学的な意味が無いのでしょう。

それもそのはずです。

なぜなら海水中を効率よく透過できる波長(色)はごく僅かで、最も遠くまで届くのは470nm付近の青い光だからです(外洋域の場合)。

発光微生物、賢いぜ。どうやら彼らは生息環境で、もっとも透過効率の良い色を選んで光を出しているようです。ではどのようなメカニズムでチューニングしているのか?発光酵素(ルシフェラーゼ)を多様化させるのではなく、青色蛍光タンパク質を発明し、利用することで、生息環境に合った光を生み出していることが分かりました。

これが実際の発光微生物の発光の様子です。

より青い発光微生物が青色蛍光タンパク質を生産する株です。

また、外洋域にいる発光微生物のほとんどが青色蛍光タンパク質を持つことが分かりました。

栄養が豊富で、微小粒子の多い沿岸では、やや青緑色の光が最も遠くまで届く光の色ですが、外洋域では470nm付近の光が最も遠くまで届きます。発光微生物は沿岸では発光酵素のみの光を放ち、外洋では発光酵素と青色蛍光タンパク質を利用し光の色を変化させているようです。

では目を持たないかれらは、何のために光を遠くに届かせたいのか?

それは、おそらく目を持つ生物に見つけてもらうためだと考えています。


実際の海の中の写真。

左上→右上→左下→右下の順で深くなっています。ご覧のように、深くなると海は青色の世界です(太陽光の青色しか深くまで届かない)!

蛍光タンパク質が関与するタイプのルシフェラーゼ反応の模式図です。

(注意)2005年頃に作成した図なので、今はもう少し詳しく分かっているかもしれません。