マインドフルネス

「マインドフルネス 怒りが消える瞑想法」はMindfulness Based Stress Reduction に関する和書です。この本では怒りは自分を守るためにもある程度は必要だが自分の心を縛るものであるとしてその手放し方(マインドフルネス瞑想法)を指南する一冊です。

(マインドフルネスとはより気づきを増すことであり、瞑想そのものでなく、感情を感じなくなることでもありません。また、マインドフルネスはポジティブシンキングとも異なります[KZ]。)

怒りを手放すためには怒りに気づき、起こっている自分を受け入れることが必要だと説いています。

最終的にはマインドフルネスにより感情と適切な距離を取り、より良くコントロールすることを目指します。

William Glasser 博士の「選択理論」(Choice Theory)[G1]によると私達の行動は行為、思考、感情、生理的反応の4つに分けられます。マインドフルネス瞑想は行為と思考を変えるためのものと位置づけられています。本著は瞑想のやり方を図解するのみならず音源も用意しており、瞑想を始める人にとって良い手引になると思います。

補足1

「怒りは自分の身を守るために必要」と言いましたが、具体的にはどのように作用するのでしょうか?

人間は怒りを感じると心拍が上昇し、ホルモンが急激に増加することで身を守るためのエネルギーが生み出されます[G2]。

そもそも怒りに限らず、感情とは何のためにあるのでしょうか?その機能は次のようにまとめられます。

・行動を取らせるための準備状態を作る、動機を与える

・状況を把握させる

・意思疎通の質を高める

これらをまとめると、感情は環境によりうまく適応する方法を指し示すものだと言えます[GP]。

補足2

そもそも、マインドレスな状態が生み出されるのは現代人の生活様式に原因があるようです。本来、瞑想に適しているのは上虚下実(上半身の力を抜いて下半身に力が入っている)の状態です。ところが私たちは普段スマホ、パソコンの画面をに目を凝らしていて(上実)、座っていることが多い(下虚)状態のため、マインドフルネスになりにくいそうです。

補足3

マインドフルネスは

・観察する(環境・思考・感覚・感情・体験について反応、批判しない)

・描写する(感情を言葉で表す)

・関与する

スキルと言えます[L]。マインドフルネスの練習法としては

・判断を下さない(感情を受け入れる)

・一つのこと(活動・思考・感覚)に注意深くなる(One-Mindfully)

・目標を立てて効率よく達成する

があります[L]。

補足4

マインドフルネスはスポーツの分野でも用いられています。身体感覚に注意深くなることはフォームの改善に役立ち、怪我回避につながるようです。

補足5

flowとは人間の集中力が極限まで高まった時に経験する状態です[C]。一つのことに没頭し、瞑想状態になることで自分自身が大きな力で突き動かされるような感覚になるのです。Mindfulnessはflowを作り出すための技法と言えるでしょう。

応用

弁証法的行動療法とは、Marsha Linehan によって1987年に体系付けられた境界性パーソナリティ障害の治療法で、その構成は

1. マインドフルネスにより感情をコントロールする

2. 感情のコントロールを阻害する要因を取り除く(生活習慣の改善などによる)

3. 効果的な人間関係スキル(Interpersonal Effectiveness skill)を使って人間関係を維持する。

となっています。 各パートの詳細については「弁証法的行動療法ワークブック」(金剛出版)に載っています。

弁証法とは難しい言葉ですが、弁証法的思考というのは

・「あれも、これも」と考える

・「欠けているものを補う」

・自分と相手の利益になることを考える

・自分の意見だけに固執しない

となります。

効果的な人間関係スキル(Interpersonal Effectiveness skill)には3つの主要目標があります。それは

・あなたが求めていることを獲得する

・人間関係の獲得・維持

・自尊心の維持

です。求めていることを獲得するにはDEARMAN

Describe(描写する)

Express(表現する)

Assert(相手の立場をわきまえて主張する)

Reinforce(念を押す)

Mindful(心の動きに集中する)

Appear confident(自信があるように見せる)

Negotiate(交渉する)

が大切です。自尊心の維持にはFAST

・Fair(公平になる)

・(No)Apologies(卑屈にならない)

・Stick to values (価値観を守る)

・Truthful(誠実になる)

が大切です。

人間関係の維持にはGIVE

Gentle(穏やかにする)

Interested(関心を持つ)

Validate(相手を正当化する)

Easy manner(おおらかな態度を取る)

が大切です。GIVEの対極であり、人間関係を壊す4つの要素は「黙示録の4人の騎士」とよばれ、

批判性(人格の非難)

軽蔑性

防衛性

拒絶性(心を閉ざすこと)

が挙げられます[GS]。

参考文献

[KZ] Kabat-Zinn, J. (2009). Wherever you go, there you are: Mindfulness meditation in everyday life. Hachette Books.

[G1] Glasser, W. (1999). Choice theory: A new psychology of personal freedom. HarperPerennial.

[G2] Goleman, D. (2006). Emotional intelligence. Bantam.

[GP] Greenberg, L. S., & Paivio, S. C. (1997). Working with Emotions in Psychotherapy. Guilford Press.

[L] Linehan, M. M. (1993). Skills training manual for treating borderline personality disorder. Guilford Press.

[C] Csikszentmihalyi, M. (1997). Flow and the psychology of discovery and invention. HarperPerennial, New York, 39.

[GS] Gottman, J. M. (1994). with Silver, N. Why Marriages Succeed or Fail.