足場タンパク質Shoc2のRas-Raf活性化促進モデル

研究背景

Ras/ERK情報伝達経路の「補助因子」が腫瘍形成に果たす役割を明らかにし、抗癌剤のターゲットとなり得るかどうか検討した。本研究では補助因子の中でもRasとその下流であるRafのシグナルの強弱を制御する「Shoc2」という新規足場タンパク質に着目した。

研究目的

足場タンパク質Shoc2を加味したRas/ERK情報伝達系のシミュレーションモデルを構築し、Shoc2がシグナル伝達に果たす役割を定量的に明らかにする。

結果

(1)Shoc2をRNAi法によりノックダウンしたところ、EGF依存性のERK活性化が約半分にまで減少した。

(2)FRETイメージングによりRas活性を生きた細胞で検証したところ、Shoc2はRasの活性が細胞全体に広がるために必要であることを見出した(空間的制御)。

(3)Shoc2はRas下流因子Rafの結合・解離の反応を加速することを見出した(時間的制御)。

(4)これらの知見をコンピューターシミュレーションにより検証し、Shoc2がRasと先に結合し、その後、Rafとの結合・解離を促進する、という「Shoc2 acceleratorモデル」を提唱した。

コメント

本研究室にて構築していたRas/ERK情報伝達系の定量的シミュレーションモデルに、これまでほとんど省みられなかった足場タンパク質の影響を実験的に検証し、シミュレーションでモデル予測をしました。Shoc2はそもそもRasとRafをscaffoldすると言われていたのですが、今回の研究でShoc2はRasに先に結合し、その後Rafと結合する、という結合の順番があることが示唆されました。これは、Shoc2がRasシグナルをPI3KやRalといった経路ではなく、Rafへと選択的に流していることを意味しています。

実験は阪大時代に医学部の学部生の宇田川さんが、その実験結果を基に京大で医学部の学部生だった藤田君がシミュレーションモデルを作った、という医学部学部生の仕事です。

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