高感度FRETプローブの効率的な作製技術の開発

研究背景

1分子型FRETバイオセンサーは細胞内シグナル伝達分子の活性を可視化する上で非常に有用です。

一方で、シグナル分子のわずかな活性変化を低ノイズで可視化するためには高感度のバイオセンサーが要求されます。これまではそのようなバイオセンサーを開発するために多大なる試行錯誤が必要でした。

そこで本研究では高感度バイオセンサーを効率よく作製するためのシステムを設計することで、この技術的課題を克服しようとしました。

研究目的

バイオセンサー開発を効率化するために、1分子型FRETバイオセンサーに最適かつ汎用性の高い

“バックボーン”を作製することを試みました。そのために、

  1. バックボーンの設計および最適化
  2. 作製したバックボーンを用いた、バイオセンサーの効率的な作製

を行いました。

結果

  • バックボーンを種々のシグナル伝達分子に幅広く適用させるため、バックボーンのリンカー配列を長く設計した。これによりFRET効率がドナー(CFP)とアクセプター(YFP)の距離に強く依存して変化する構造 (距離依存型)とした。

コメント

  • Eeveeはポケモンの一種、イーブイにちなんで命名しました。一つのバックボーンからさまざまなバイオセンサーを効率よく作製できるさまをイーブイの特徴に重ねてイメージしています。
  • 実際はEeveeバックボーンを用いても、センサードメインの選択(特異性や感度)の問題が残っており、FRETバイオセンサーの開発にはまだまだマンパワーに頼るところがあります。それでも、このシステムのおかげで大分楽になりました。FRETバイオセンサーの奥深さを痛感しました。今後、Eeveeをさらに改良して高感度化・効率化を追求していきたいと考えています。
  • Molecular Biology of the Cell誌のMost-Read Articleに長い間ランクインしています。素晴らしい。
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  • 距離依存型のバックボーンの場合、CFPおよびYFPが持つ2量体化効果がFRET効率の変化幅(ゲイン)を大きくすることを見出した。
  • さらにリンカーを長くすることでゲインが劇的に大きくなることを見出した。
  • 距離依存型のバイオセンサーに関する数理シミュレーションを行い、蛍光タンパクの2量体化効果とリンカー長さが相乗的にゲインを向上させること、ゲインを最大化する最適なリンカー長さが存在することを示した。またそれを実験的に検証した。
  • 実験とシミュレーションにより最適化したバックボーンを”Eevee” (Extension for enhanced visualization by evading extra-FRET)と命名した。また最適化に用いたリンカーを”EVリンカー”と命名した。
  • Eeveeを用いて、種々のリン酸化酵素および低分子量Gタンパク質についてFRETバイオセンサーを作製、評価を行った。具体的には、PKA, Akt, PKC, ERK, JNK, EGFR, Src, Ras, Rac1に対してバイオセンサーを作製し、既存のバイオセンサーよりもゲインが大きいことを示した。またS6K, RSKに対して新規にバイオセンサーを作製した。
  • Eeveeセンサーを安定発現する細胞株を樹立し、それを用いた薬剤評価系を構築した。また、その有用性を示した。