長池公園における食肉目動物の水辺利用

東京近郊・八王子市長池公園における食肉目動物の水辺利用

2019年11月23日 平田彩花

近年、世界的に野生動物が人の生活する都市環境に姿を見せることが確認されています。日本でも、在来種であるニホンザルやイノシシが住宅街に出没したという報道がされています。こうした都市環境への進出が進む野生動物の分類群として、「食肉目」が挙げられます。食肉目の身近な動物種としてはネコやイヌ、野生動物ではタヌキやキツネなどが含まれています。都市の緑地においてホンドタヌキや、外来種であるアライグマ、ハクビシンの姿を見たことのある人もいるのではないかと思います。

野生動物が都市へと進出してくる要因としては、森林環境から都市環境への景観の移り変わりが影響を与えるほか、森林から都市へとつながる連続林の存在が挙げられます。一方、都市に生息する食肉目は、中小型の体サイズや高い繁殖能力、機会的な採餌によって都市環境に適応しているほか、移動経路となる水辺環境の存在の影響を受けているようです。水辺環境は、餌や水などの生きていくための資源を供給し、食肉目の種多様性に影響を与える重要な環境であると言えます。その一方で、これまでどのように・何を目的に食肉目動物が水辺を利用しているのかを調べた研究は多くありません。また都市に生息する動物は、自然の多い地域とは異なる都市特有の生態を持っている可能性もあります。

都市に生息する野生動物は、それを観察することで都市の人々の自然に対する関心を刺激します。これは人々が自然環境に対し関心を持つきっかけにもなり得るでしょう。しかし一方で、動物の都市への進出は人間活動との軋轢を引き起こすこともあります。住宅への侵入が生じるほか、人獣共通感染症の問題などもあり、対策が急がれています。

そこで本研究では、都市近郊において食肉目動物の水辺の利用について調べることで、不足している水辺の利用に関する生態情報の蓄積、および食肉目の保全に必要な水辺環境について考察することを目的としました。

本発表では、調査の中で撮影された食肉目動物の姿を紹介します。本発表を通じて、普段あまり目にする機会のない動物の姿を見る中で、身近に生息する野生動物に対し関心を持っていただければ幸いです。

調査は八王子市長池公園 (図1) で行いました。園内にある池や小川、湿地、水路などの水辺に計12台の自動撮影カメラを2018年8月1日から2019年8月7日にかけて設置し、そこを訪れた動物の姿を撮影して調査しました。その結果、在来種3種 (ニホンアナグマ、ニホンイタチ、ホンドタヌキ)、外来種3種 (アライグマ、ハクビシン、ノネコ) を含む食肉目の姿が撮影されました。

撮影された中で撮影回数の多かったタヌキとアライグマの撮影頻度を、秋 (9-11月) と冬 (12-2月) に分けて比較をしました。図2はカメラの設置地点別に2種の季節別の撮影頻度を比較したグラフです。アライグマにおいて、冬季の撮影頻度が秋季と比較して低くなる結果が出ました。

図3はコンクリート構造物などの人工構造物がある地点におけるタヌキとアライグマの撮影頻度を比較したグラフです。タヌキの撮影がアライグマの撮影に比べて少なくなる結果となりました。

これらのことから、季節的な変化や水辺の周辺環境による、動物種の水辺利用の違いへの影響が考えられます。

北海道において、アライグマは半冬眠状態になることによる活動頻度の低下が報告されています。また季節により行動範囲を移動させる可能性も指摘されています。これらのことから、本調査地においても、アライグマの活動やその行動範囲が季節による影響を受けており、アライグマの撮影頻度が冬季において減少したものであると考えます。

人工構造物がある水辺におけるタヌキの低い撮影頻度については、2つの可能性が考えられます。まず1つ目にタヌキが人工構造物自体を避けて水辺を使っていた可能性です。次にアライグマの利用がタヌキの利用に影響を与えていた可能性です。しかし、タヌキは暗渠などの人工構造物を利用していることが先行研究により報告されています。このことから、人工構造物以外の水辺の周辺環境が利用に影響を与えている可能性も考えられます。

しかし今回の調査はあくまで水辺を訪れた動物の行動の一部を撮影したものであり、長池公園に生息する食肉目の生態全てを把握できるものではありません。今後、生態をより詳しく知るためにも、行動圏の把握や食性の調査が必要となります。

最後になりますが、都市に生息する野生哺乳類との共存を考える上で、地域の哺乳類の生態情報の提供、在来種についての環境教育による普及・啓発が重要になるほか、外来種をどのように管理していくのか、今後は議論が必要となってきます。

1年という短い間でしたが、本調査から多くのことが分かりました。これからもこうした調査が行われ、人の身近に生息する動物についての知見が広がっていって欲しいと思います。