講習会記録
愛知県立蒲郡高等学校 美術部
愛知県立蒲郡高等学校美術部での紙版画講習会
「紙版画で多版多色刷り版画<紙版ドライポイント・ニスメゾチント・瓶底刷り>」
愛知県蒲郡高等学校美術部にご協力いただき、13名の高校生を対象に新しい紙版画技法の教育教材としての有効性を検証するための講習会を実施しました。今回実施した技法は次のとおり。これらの技法を使ってひとつの作品を制作しました。
朝9:00から夕方17:00まで、たっぷり時間をかけられ、また受講生も13人という適度な人数であったので、いくつかの技法を体験してもらうことができました。
いずれの技法もこれまでYouTubeで公開してはきましたが、今回の講習会が公の場で実際に指導するはじめての機会となりました。
日 時:平成31年3月25日(月) 9:00~17:00
会 場:愛知県立蒲郡高等学校美術室
参加者:美術部員生徒13人、美術科教諭1人
講習内容
①紙版による多版多色刷り
②ボールペンによる紙版ドライポイント(ニードルの代わりにボールペンで描画するドライポイント技法)
③ニスメゾチント(粗い紙の表面に塗ったニスの厚さで濃淡を表現する技法)
④瓶底刷り(プレス機を使用しない凹版画刷り技法)
⑤カウンタープリントを利用した図柄の転写(用紙に刷りとった主版の図柄のインクを色版にする紙に転写する技法)
制作プロセス
<主版制作>
1.各自が準備してきた下絵をトレーシングペーパーとカーボン紙を使って版にする紙(表面の粗いボール紙)に転写する。
2.細部は後回しにしてまず大まかにボールペンで描画する(描線部が凹むようにやや力を入れて)。
3.明るい調子にしたい部分にニス(水性ウレタンニス)を塗る。昼休憩の時間にニスを乾燥させる
<主版試し刷り>
4.瓶底刷りによって、試し刷りをする。最初に指導者が実演してみせる。
<色版制作>
5.試し刷りした用紙に色版用の紙を重ね瓶底で擦り図柄を転写する。
6.色版、色をつけたくない部分にニスを塗る。
<主版加筆>
7.主版の細部の描画、加筆およびさらに明るくした部分にニスを加える。
<本刷り>
8.瓶底刷りで色版を刷る。
9.色版を刷った上から主版を刷り重ね。
以下、修正、試し刷りを繰り返し、納得のいく作品に仕上げていく。
配布資料
![](https://www.google.com/images/icons/product/drive-32.png)
完成作品
紙版画講習会アンケート(回答数12)
1.これまでやったことのある版画の種類を聞かせてください。
・木版画11人 ・紙版画3人 ・覚えていない 1人
2.今日の実習の内容はいかがでしたか。
・良い7人 ・やや良い4人 ・あまり良くない0人 ・良くない0人 ・どちらでもない1人
3.良かったと思うところを具体的に聞かせてください。
■「2」で「良い」と回答した生徒
・自分でも好きな絵や色が選べてとても楽しかったです!色をこくするところや強調したいところを調整できるところが良かったと思いました。思った通りのものができて良かったです。
・自分の絵が版画という新しい表現のしかたで作品にできて楽しかった。工作の要素があって自分の好みだった。先生の動画を個人的に拝見していたので、先生に会えてとてもうれしかった。絵を版画にする工程で独特の味が勝手にでてくれたのでおもしろかった。
・何回質問してもていねいに教えてくれた、コツを教えてくれた。
・紙のサイズに関係なくいろんな絵がやれる。思っていたより簡単でやりやすかった。教え方がわかりやすかった。刷るのが楽しかった。白黒でなく好きな色でカラフルにできるのがうれしい。
・版画でしいかできない表現が沢山できて良かったです。やっていてとても楽しくできました。
・やったことがないことだったので、この先どうなるんだろう、どうやっていくんだろうと考えたり、結果がでるのが楽しかったです。
・細かい線とか濃淡まで表現できるのが今までやったことがないし、描くのとはまた違っていいな、と思いました。刷るたび少し違って味のあるものができて、やっていてすごく楽しかったです。
■「2」で「やや良い」と回答した生徒
・難しいけど、できたときうれしいからです。今までにない版画でたのしかったです。ボールペンだから自分が思ったようにできるところです。
・今までやってみたことがなかったので新鮮でたのしかったです。はじめ難しい作業ばかりでどうなるかと思っていたけれどなれると簡単でスムーズに進めることができたと思います。
・身近にある道具で、ここまで本格的に版画ができるとは思っていなかったので、とても楽しめた。
・今までやったことがある版画より細かい線が書けたこと。結構自分の思い通りに刷ることができたところ。またニスでかなり濃淡をつけることができるのが良かった。
■「2」で「どちらでもない」と回答した生徒
・実際にどんなふうにやるのかを見せてくれたり、図やプリントなどで詳しく書かれていてとても分かりやすかった。
4.良くなかったと思うところを具体的に聞かせてください。
■「2」で「良い」と回答した生徒
・下書きが細かすぎた。筆圧を濃くしようとおもって筋力をつかいすぎた、痛い。がんばりすぎて後半元気がなくなった。手が汚れすぎた。紙にうつす時に色が薄すぎた
・ボールペンで何度もうつすのが大変でした。
・ニスがうまくいかなかった。
・普通の版画よりも汚れやすそうで気を使うことが多い。
・白いところをあまり出すことができませんでした。
・表面の絵の具を取るときに取りすぎて、色版の色があまり出てこなかったところ。
・(未記入)
■「2」で「やや良い」と回答した生徒
・手が汚れるところです。もう少し手軽にできる版画がいいと思いました。
・やったことのない作業が沢山で、はじめてやるときは少し不安に感じました。するときの作業がかなり体力をつかうので疲れてしまった。ニスぬりが上手くできなくて少し失敗してしまった。
・ニスのぬり具合や、線の凹凸など感覚的なところが多くあったので、初めてだと難しいところが多くあった。なので、ニスを1回塗ったとき、2回塗ったときと段階的に見本があるとやりやすいと思う。
・私は大丈夫ですが、灯油の臭いが苦手な人にとってはかなりきついように感じました。また刷るのにかなり力がいるので何度もするとなると体力的にきつい気がしました。
■「2」で「どちらでもない」と回答した生徒
・作業の一つ一つの工程が、初めてのせいかすごく難しく感じ、なかなか思うようにいかないことが多かった。もう少し簡単にできるものがいいなと思った。
5.難しかったところを具体的に聞かせてください。
■「2」で「良い」と回答した生徒
・下書きが細かすぎた。筆圧を濃くしようとおもって筋力をつかいすぎた、痛い。がんばりすぎて後半元気がなくなった。手が汚れすぎた。紙にうつす時に色が薄すぎた
・ボールペンで何度もうつすのが大変でした。
・ニスがうまくいかなかった。
・普通の版画よりも汚れやすそうで気を使うことが多い。
・白いところをあまり出すことができませんでした。
・表面の絵の具を取るときに取りすぎて、色版の色があまり出てこなかったところ。
・(未記入)
■「2」で「やや良い」と回答した生徒
・インクをどのくらい拭き取れば良いのかがわからなかったです。ビンでこするのがズレたりして大変でした。
・ニス塗りがどの程度塗れば上手くいくのかがわからずむずかしかった。色版に主版をかさねて刷るときがむずかしくて一度ずれてしまい、なり直すことになってしまったので大変でした。
・手袋はゴム製のピッタリとしている物が良いと思う。
・2色刷りの際に主版を重ねるとき、ずれやすかったのが難しかったです。かなり周りの子も失敗していたので難しいと思いました。
■「2」で「どちらでもない」と回答した生徒
・完成が少しよく分かっていなかったので、一つ一つの作業がとても難しかった。
6.制作方法の説明はわかりやすかったですか。
・わかりやすかった 6人 ・わかりにくかった 2人 ・どちらでもない 4人
7.今日習った版画をまたやってみたいと思いますか。
・思う 10人 ・思わない 0人 ・どちらでもない 2人
<欄外>すごく楽しく版画ができました!!ありがとうございました!!
所 感
・瓶(栄養ドリンク)の底でするのは、2枚目くらいになれば生徒も結構うまく刷れるようになることがわかりました。有効な技法です。瓶の底に小さな細かい凹凸があるので、その筋が着くくらい力を入れるように(着かなければ力が弱い)、縦、横、斜め、逆斜め一通り擦り、あとはめくって確認し足りないところを追加で擦ってやれば全員ほぼうまくいきました。
・小野先生に教えていただいた、刷る前に版の周囲に筋をつけておく方法、とても役に立ちました。また作品用紙がしっかりと湿っているとずれにくいということも生徒が自分たちで発見して教え合っていました。ただ二版目を重ねるのがなかなかうまくいかないようでした。
・難しいのは「拭き」です。線描だけなら問題ないのですが、ニスの濃淡を表現するのはやはり繊細な拭きができないと難しいです。拭きの力の具合がわからないことに加え、与えた使い捨てのビニール手袋が少し大きすぎダボついてうまく指先が効かせられなかったことも要因と考えます。手にフィットした滑り止めのある手袋を全員に与えられると良いのですが費用がかかってしまいます。
・二版で色や図柄を重ねるという考え方がよく理解できなかった生徒もいました。また理解できても計画的に進めたり、版きれいに重ねることができない生徒が目立ちました。「二版になるといきなりハードルが高くなりますね」と美術の先生がおっしゃっていました。
・ニスを塗ったところがインクが着かなくなるという考え方がなかなか理解できない生徒もいました。理解していても一生懸命やっているうちに色をつけたいところに塗る、となってしまいました。しかも二版二色という初めての経験の中でやっていると、軽くパニックになっている感じでした。しかし理解している生徒が理解していない生徒に一生懸命説明して助け合うという場面にいくつも遭遇できたのは良かったと思います。
こういった感じで今回は欲張った内容にし、いろいろと成果を得ることができました。美術の先生には、簡単な準備、身近な素材でエッチングやリトグラフのような豊かな表情が出せるのはたいへん魅力的、一版一色にしたら3、4コマで十分授業としてやっていけそうだとの感想をいただきました。私も自信と課題を得られるよい機会となりました。