アルミコートコラグラフ

マスキング版

知多半島・大府市夏季教員研修会

令和元年度 知多半島・大府市夏季教員研修会

昨年度担当した三河教育研究会造形部会研修会がきっかけとなり、本年度蒲郡市、みよし市、安城市、豊橋市および知多半島・大府市のの5つの地区で教員研修会で紙版画講座を担当しました。

このうち、知多半島・大府市では、各種の素材を貼ってからアルミホイルでコーティングする「アルミコートコラグラフ」と複雑な図柄、複数の図柄で構成される作品を効率的に制作する技法「マスキング版」を組み合わせた技法を体験してもらいました。

■講座名

知多半島・大府市教育研究会造形教育部会造形部会夏季研修会

■開催日

2019年8月22日

■会 場

大府市市立共和西小学校

■参加者

小学校教員66人 中学校教員9人

■内 容

次の4つの技法を網羅した手法でコラグラフ版画 を制作した。

技法1:アルミコートコラグラフ…コラグラフの版を作るのは意外に難しいものである。素材が剥がれてしまう、ボンドまみれの素材が指にまとわりつく、密着しにくい素材がある、ボンドの乾燥に時間がかかる等。素材をアルミホイルでコーティングしてしまえばこれらの問題はかなり解消される。

技法2:マスキング版…複雑な形の版や複数のパーツで構成した図柄も一枚の台紙に固定すると、とても扱いやすくなる。しかし台紙を使うと台紙に付いたインクで作品を汚すことになる。そこで役に立つのが「マスキング版」。マスキング版とは、図柄の部分だけに穴をあけた紙のこと。インクを乗せた版にこのマスキング版を被せると図柄の部分のインクだけを刷り取ることができる。

<アルミコートコラグラフ・マスキング版紹介動画>

https://youtu.be/cNI0FWSsils

技法3:凹凸の高低差が大きく、ローラーが届かないような低い部分もタンポやスポンジならばインクを乗せることができる。またタンポやスポンジを使うと複数の色のインクを置き分けたり(アラプペ彩色)、ボカシ、版面での混色といったローラーではできない表現が可能にる。

<マスキング版を用いたスポンジによるアラプペ彩色紹介動画>

https://youtu.be/qpOTEnb0_zc

技法4:足踏み刷り…凹凸の高低差が大きな版の場合、バレンでは低い部分に力が届かないないことがある。しかし柔らかい足の裏ならば低い部分にも力が届く。バレンの準備、片付けの手間が省けるとうことに加え、体を使って刷るという新鮮な経験で子どもたちを楽しませることができる。

<足踏み刷り紹介動画>

https://youtu.be/vaUJMN3TN9M

■準備物

アルミコートコラグラフ+マスキング準備物.pdf

ほぼ紙片のみによる表現だが、変化に富んでいる。スポンジによる版面での混色ならではの風合いが効果的である。

凹部にも凸部にもインクが詰まってしまっており、もしこれが黒一色のインクであったらせっかくのテクスチャーが見えなくなってしまったところですが、多色刷りのため色の変化によってテクスチャーが活かされている。

繊細に計画的に着色されている。色数は抑えられているが、混色されることで変化にとんだものとなっている。意図的に色を付けないところがあるのも効果的である。


アルミホイルでコーティングされていると版についたインクを簡単に拭き取ることができるため、どんどんインクの色を変えて刷ることができる。

カエルの黄緑と緑が繊細な調子を見せている。赤い玉も一見単色であるが、複数の色が重ねられている。いずれもスポンジを使って版面で混色する技法ならではの調子である。左下のハエの細い脚はマスキング版の利点を生かしたものである。

大胆な色分けが魅力である。魚の鱗、背びれなど素材が工夫されている。冠の上の三つの玉や下部の小さな三角形も通常の紙版画のやり方では極めて難しい表現。マスキング版の利点を生かした表現。

手や頭部、胸の点はビーズによるものである。ビーズは高さがあるのでその周辺にインクが付きにくく白い調子が残った。インクのついていないところに水玉模様が効果的である。ただ硬くて高さのあるビーズはアルミホイルが破れやすくなるため注意が必要である。

スポンジによる彩色の特徴を活かし、きれいなグラデーションが表現されている。

マスキング版の利点をいかし、積極的にたくさんの図柄を組み合わせた作品に挑戦している。

■アンケート集計結果

自由記述式アンケート回答の中から類似の回答をまとめ、少数の選択肢に絞り込んでいく方法で集計した。

「点数」が類似の回答数である。「評価」欄の「○」+の評価内容、「●」はマイナスの評価内容を表している。

アルミコートコラグラフ+マスキング版アンケート結果.pdf

■アンケート結果の考察

回答:小学校教員66人 中学校教員9人


<授業運営に関わるもの>

+評価7ポイント(小学校5ポイント、中学校1ポイント)

➖評価1ポイント(小学校1ポイント)

概ね高い評価、ねらいとおりの成果が得ることができました。


<技術指導に関わるもの>

+評価29ポイント(小学校29ポイント)

➖評価21ポイント(小学校20ポイント、中学校1ポイント)

従来のコラグラフに比べると様々な素材を扱えるようになるというメリットがあるが、アルミが破れにくい素材の選択に工夫が必要となる。具体的には硬くて厚みのある素材、エッジが鋭い素材などはアルミホイルが破れやすく適さないと言えます。また太い紐や毛糸の塊、エアマットなど柔らかい素材はしっかりと固定することができずゆらぐためそこからアルミホイルに亀裂が入りやすくなります。

アルミホイルをかけるのが難しい場合は、アルミホイルを被せ、足で踏んでからパッケージから切り離するのもひとつの方策となります。

インクの乗せ方については、これはローラーでインクを乗せる時も同じですが、インクをつけ過ぎないことが肝要となります。スポンジにつけるインクは極力薄くし凹んだ部分にまでインクが付いてしまわないようにします。


<表現指導に関わるもの>

+評価47ポイント(小学校44ポイント、中学校3ポイント)

➖評価4ポイント(小学校4ポイント)

ローラーではできない、スポンジならではの一版多色技法は新鮮で興味深い技法であったようです。アルミホイルをコーティングした版は、ついたインクを簡単に拭き取ることができるため、容易に異なる彩色の作品を制作することができます。パレットで混ぜるのとは異なる、スポンジを使って版面で混色する技法ならではの繊細な色彩の表現も積極的に生かされている作品が多かったです。

スキング版を有効であるという回答が多くありませんでしたが、実際に制作された作品にはマスキング版ならではの表現、細かい図柄や複雑な図柄を複数組み合わせて制作したものが多く、技法開発の成果が表れていると考えました。


<対象学年に関わるもの>

「対象学年」低学年にも有効、手先が器用でない特別支援の子でもできるという意見から子どもには難しいという意見まで異なる見解がありました。今回の講座では「アルミコートコラグラフ」「マスキング版」「スポンジによる彩色」「足踏み刷り」という4つの技法を盛り込んだものなの。実際の授業でこの通りにしなくとも、学年や子ども達の様子、教員の指導意図によってこの中かから選択して教材にすることも有効です。


<感想・提案・要望>

アンケートの中には素材やインクの付け方、見本、試作の必要性など実際で授業で扱うときの工夫など提案が多く寄せられました。またアルミを貼っただけでも作品になるという意見も多く、版画以外のいろいろな教材への応用の可能性を感じてもらうことができました。