講習会記録(三河教育研究会)
平成30年度
三河教育研究会造形部夏季実技研修会
三河教育研究会造形部会から要請を受け、私が考案した新しい紙版画技法を体験してもらう講習会の講師を担当しました。
当初の予想の倍以上の80名を超える参加がありました。主催者からは、版画は多くの先生にとって関心の高いテーマであるとのことでした。
私が研究する新しい紙版画技法を実際の現場の先生方に体験していただくことのできた初めての場であり、先生方のご意見を伺う貴重な機会となりました。
講習会のアンケートでは9割以上の先生方に教材としての実際に使えそうな手応えを感じる、といった感想をいただくことができました。
テーマ:紙版画の可能性を追求した作品制作
主 催:三河教育研究会造形部会
日 時:平成30年8月3日(金) 13:30〜16:10
会 場:岡崎世界子ども美術博物館 2F視聴覚室
参加者:小学校教員45名、中学校教員33名(これに加え当日追加参加があり合計83名が受講)
スケジュール:
・前半 アルミホイルコーティングコラグラフ(小・中学校)
・後半 マスキング版+アルミホイルコーティングコラグラフ(小学校) ・エンボス版紙版画(中学校)
(✳︎詳細は「講習会で使用したプレゼンテーション資料」参照)
■講習会で使用したプレゼンテーション資料
![](https://www.google.com/images/icons/product/drive-32.png)
■講習会で使用した動画資料
1.アルミコーティングコラグラフ
2.マスキング版の作り方
3.エンボス版紙版画 単色刷り
4.エンボス版紙版画 凹凸刷り
5.紙版画でTシャツに刷る
■実技講習 材料・用具リスト
![](https://www.google.com/images/icons/product/drive-32.png)
■実技の概要
■アルミコーティングコラグラフ
1.版づくり
厚紙の上に様々な素材を並べ、その上からアルミホイルでコーティングしました。
素材はレース、紐、スパンコール、毛糸、厚紙、あみ、ダンボール、クリップ、小枝、葉っぱなど各自で用意してもらいました。それに加えいろいろな形に切って使える素材としてボール紙を用意しました。
素材もアルミホイルも接着にはスプレーのりを使いました。通常のノリやボンドでは細かな素材が手ノリでベトベトになってくっついて貼りにくいです。しかし、あらかじめ版となる厚紙にスプレーのりを吹きかけておけば、後はそこに素材を置くだけです。また画面全体に均等にノリをつけられるためアルミホイルも綺麗にはることができます。水分を含むノリではアルミホイルが水分の蒸発を妨げ乾燥が進みませんが、スプレーのりは水分を含んでいないので簡単に接着できます。乾燥時間を待つ必要もありません。
アルミホイルは足で踏んで密着させます。しっかり密着させれば葉っぱの葉脈も浮き出てきます。
アルミホイルでコーティングした版はそれだけでも魅力的です。今回はあえて丸い紙(コースター)を使うことで、メダルのようにしてみました。
2.インクセット
インクは布を丸めたタンポで載せます。インクが多いと凹部にもインクが入り込んで図柄がはっきりしなくなります。薄く薄く何回にもわけて置くのがポイントです。そのためインクはパレットの上に出したらヘラで薄く伸ばします。インクをつけたタンポも何回かパレットに打ってインクを伸ばします。
ローラーでは、基本的に1色しか乗せることができませんが、タンポならばいろいろな色を掛け合わせることができます。色ごとにタンポをわけますが、ひとつのタンポで色が混ざってしまって思いがけない色ができるのも楽しみのひとつです。
版画ではインクを乗せるのにローラーを使うのが一般的、タンポでインクを乗せることはほとんどありません。タンポを使ってインクを乗せた経験がない受講生が多く、インクを乗せすぎたり、あるいはインクを版に擦り付けたりする失敗が見受けられました。
3.刷り
版画の刷りには通常はバレンを使いますが、ここでは足踏みで刷ります。インクをセットした版を床の上に置き、用紙を被せ、その上から足で踏みます。足のやわらかさがポイントなので靴は脱ぎます。バレンでは基本的に版の一番高いところだけしか力が伝わりませんが、コラグラフのように凹凸の変化が豊かな版の場合は、いろいろな高さに均等に力を変えてする必要があります。足の柔らかさがちょうど良いのです。足は上下運動のみ。横にずらすと用紙もずれてしまいます。
同じ版でも色を変えたり、また組み合わせることでいろいろなバリエーションが生まれます。版画の特徴である複数性は、何も同じ作品を何枚もするということだけではありません。ひとつの版から様々に異なる作品を生み出せるのも複数性があるおかげなのです。この工夫の余地が創造性育成に大きな意義を持つと考えます。
■マスキング版+アルミコーティングコラグラフ
様々な素材を貼り付け、アルミホイルでコーティングするのは前の制作と同じです。そこにマスキング版を加えます。マスキング版とは図柄の形に穴を開けた紙です。インクをセットした版にこのマスキング版をかぶせることで用紙にインクが写るところ、そうでないところをコントロールすることができます。
参考作品の画像でわかるように、細かいパーツを使う場合もそれらのパーツを一枚の台紙の上にまとめることができるので、パーツが失くなったり壊れたりすることが格段に少なくなります。しかもインクをセットする際、手でインクを乗せない部分を抑えていることができるため手も汚れにくく、作業も楽になります。
インクセット、刷りは、アルミホイルコーティングコラグラフと同じですが、この技法はアルミホイルコーティングコラグラフだけでなく、一般的な紙版画にもまた場合によっては木版画にも応用することができます。
■エンボス版紙版画
1.版つくり
一般的なコラグラフが版の上にいろいろな素材を貼っていくのに対し、エンボス版紙版画ではプレス機を使っていろいろな素材を版に押し付け凹ませることで版にします。あとでインクセットの仕方を説明しますが、凸部のインクを拭き取る必要があるのでインクの拭き取りやすい、表面がビニールコーティンクされた平滑な紙を版として使用します。
台紙の厚さは0.5mmですので、押し付ける素材が厚いかったり硬かったりすると台紙がやぶれプレス機やフェルトを傷める危険性があります。クリップや針金、金属プレートはふさわしくありません。講習会では主にレースや葉っぱ、紐、スパンコール、サンドペーパー、様々な形に切った厚紙などを使っています。
また素材を押し付ける際に厚いものと薄いものが混在すると薄いものに力が加わらずきれいに写らないことがあります。例えば葉っぱ単独ならば葉脈なども繊細に移しとることができますが、厚紙や太い紐などと一緒にプレスをかけると葉っぱの輪郭がうっすらとしか写らない場合もあります。
参考作品にガーゼのみで制作した作品があります。たった1枚のガーゼですが、追って重なった部分の濃淡なども表現されとても美しい表現になっています。
どんな素材が適切か、どんな素材をどのように使うことができるのか、これからの研究課題です。
2.インクセット
銅版画のように凹部にだけインクをセットし刷ることもできます。しかしこれが以外と難しいのです。白い部分を白くしようとして一生懸命拭くと凹部の残って欲しいインクまで拭き取ってしまうからです。かといって拭き方が少ないと全体に暗い作品になってしまうからです。
そこで講習会では凹凸併用刷りをしました。拭きが少なくて凹部にインクが残ってしまってもその上からローラーで別の色を乗せ覆ってしまうのです。色が多くなるので一見技術的に難しく見えますが、実はこのほうが高度な技術を必要としないのです。
具体的なインクセットの方法を説明します。まずヘラでインクを詰めます(園芸用のプラスティックの名札をヘラの代わりにしました)。パレットの上にはいろいろな色のインクを出しそれらをちょっとずつすくっては版に擦り付け、凹部にインクを詰めていきます。
次に凸部のよぶんなインクを新聞紙で拭きます。新聞紙にシワがあると凹部のインクを書き取ってしまう恐れがあるため新聞紙はシワがないように平にして使います。決して新聞紙は摘まず、置いた新聞紙の上に手のひらを乗せて拭きます。そのままでは手が滑りますので講習会では滑り止めマットを手のひら大に切ったものを配りました。新聞紙にまだ少し汚れがつくくらいで拭くのをやめます。
次にローラーでインクを乗せます。タンポと同じでローラーもインクがたくさんついていると凹部までインクが入ってしまい、図柄が潰れてしまいます。パレットの上でしっかりとインクを伸ばします。基本的にローラーでは1色しか乗せることはできませんが、グラデーションを作ることはできます。
3.刷り
凹部のインクを刷り取るためには強い圧力が必要なのでプレス機を使って刷ります。作品用紙は版に食い込ませるために水分を与え柔らかくしておきます。芯がなくなってくたくたになるくらいが理想です。
圧力の調整をします。今回使ったプレス機は圧力調整ネジを120度回すとプレス機のローラーが0.5mm上下しました。圧力調整ネジをいっぱいに締めたところから版の厚さ分ローラーがあがるようにネジを戻します。版の厚さが0.5mmですからネジは120度もどすことになります。