ジェッソアクアチント
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ビンバレン刷り
愛知県蒲郡市・みよし市、安城市、豊橋市 各地区夏季教員研修会
令和元年度 愛知県下4市における夏季教員研修会
昨年度担当した三河教育研究会造形部会研修会がきっかけとなり、本年度蒲郡市、みよし市、安城市、豊橋市および知多半島・大府市のの5つの地区で教員研修会で紙版画講座を担当しました。
このうち、蒲郡市、みよし市、安城市、豊橋市では紙版ドライポイント で濃淡を表現する技法「ジェッソアクアチント」とプレス機を使わない凹版刷りの技法「ビンバレン刷り」を組み合わせた技法を体験してもらいました。
講座概要
■講座名、開催日、会場、参加者
・蒲郡市図工・美術部会夏実技講習 2019年7月31日 (蒲郡市立塩津小学校)
小学校教員28人、中学校教員5人
・みよし市教育研究会造形部夏季研修会 2019年8月1日 (みよし市立黒笹小学校)
小学校教員28人、中学校教員2人
・安城市教育研究会造形部会夏研修会 2019年8月9日 (安城市民ギャラリー)
小学校教員35人、中学校教員2人
・豊橋市教育免許状更新講習会2019年8月22日 (豊橋市男女共同参画センター )
小学校教員39人、中学校教員11人、その他6人
■内 容
次の3つの技法を網羅した手法で紙版ドライポイント を制作した。
技法1:ビンバレン転写:トレーシングペーパーやカーボン紙を使用せず、ビンバレンを使って下絵から版に直接転写する技法。
<ビンバレン転写紹介動画>
技法2:ジェッソアクアチント…ジェッソ(アクリル絵具用地塗剤ジェッソの粒子の粗さを利用して紙版ドライポイント に濃淡をつける技法。
<ジェッソアクアチント紹介動画>
技法3:ビンバレン刷り…プレス機を使わずに凹版画を刷る技法。プレス機の代わりにビンの底を使って擦ることで圧力をかける。
<ビンバレン刷り紹介動画>
準備物
![](https://www.google.com/images/icons/product/drive-32.png)
受講生の作品
濃い調子、淡い調子にメリハリがある。繊細な調子が表現されている。
背景は線描を使わず、筆跡を生かしジェッソのみで模様が表現されている。
筆中心の描画で水彩画のような繊細な調子が表現されている。
細かいところに囚われず、大胆に調子をつけている。中間調子と暗い調子のメリハリがある。白い部分はおそらく部分的に拭き取ったものであろう。
濃い調子、薄い調子の変化が繊細である。魚本体は、描線による表現は最低限にして、積極的に筆で模様を描いている。
線描を主体とし、淡く調子を付けている。淡い調子を残すのは技術的に難しいが、うまく表現されている。スケッチに水彩で軽く色をつける「淡彩画」の趣である。
受講生の作品 加筆・修正の様子
左:一回目の刷り
花の中の暗い調子と背景の暗い調子が似ており、形がはっきりしない。
右:2回目の刷り
背景に粒子の荒いジェッソを加筆することで濃淡の幅が豊かになり、また花の存在感も増した。花びらや葉にも筆跡を生かし表現されている。
左:一回目の刷り
描線が弱いが、これはこれで濃淡の繊細な調子が綺麗で、水彩によるスケッチのような味わいがある。
右:二回目の刷り
一回目の刷りでは描線がほとんど出なかったため、積極的に描線を加えた。手前にあるものを描く線と奥のものを描く線で太さ、強さを変化させると良かった。
左:一回目の刷り
積極的に筆跡を生かした表現に挑戦しているが、まだ平面的である。
右:二回目の刷り
筆の表情を生かした淡い調子を加え、濃淡調子の豊かな立体感のある作品になっている。
左:一回目の刷り
描画が不鮮明なことに加え拭き取り方が不十分ではない。
右:二回目の刷り
描線とジェッソの加筆を加え更にインクの拭き取りも上達しメリハリのある作品となった。
アンケート集計結果
自由記述式アンケート回答の中から類似の回答をまとめ、少数の選択肢に絞り込んでいく方法で集計した。
「点数」が類似の回答数である。「評価」欄の「○」+の評価内容、「●」はマイナスの評価内容を表している。
![](https://www.google.com/images/icons/product/drive-32.png)
■アンケート結果の考察
回答:小学校教員130人 中学校教員22人
<授業運営に関わるもの>
+評価72ポイント(小学校48ポイント、中学校24ポイント)
➖評価14ポイント(小学校7ポイント、中学校7ポイント)
「授業運営にかかわるもの」とは、準備や片付け、安全面、制作時間など、授業を円滑に効率的に進めることに関わる回答をまとめたものです。小学校、中学校を合わせ+の評価が−の評価の約5倍となっており、概ね良好な結果でした。「汚れ」「準備の手間」「制作時間」は+評価にも−評価にも上がっています。「汚れやすさ」については、技術的な問題とも関わるが、インクの乗せ方や拭き取り方がきちんとできているか否かで出てくる違いが大きな要因になっていると考えます。版にインクを乗せすぎたり、またしっかり描き取れていないまま拭くことによって手や用具や汚れやすくなります。
またどのような教材と対比しているかによっても評価が異なってくることが考えられます。例えば従来の版画と比べたての感触か、一般的な教材と比べての感触なのかによって判断は異なってくることが考えられます。
<技術指導に関わるもの>
+評価25ポイント(小学校23ポイント、中学校2ポイント)
➖評価59ポイント(小学校52ポイント、中学校7ポイント)
「技術指導に関わるもの」では、−評価が+評価の2.3倍と大きく上回っています。−評価としては、小学校、中学校ともに、「インクの詰め方・拭き方」「刷り方」の難しさが指摘されています。これは当初より予想されたことではあるため、講習会では動画教材を用いて説明したが、やはり実際やってみると力の加減や程度など適切に判断するのは難しい。初めて体験する人でも一定の成果が出せるような技術指導方の構築が今後の課題となる。
「刷り」がうまうくいかなかった場合、「刷り」そのもの以外に要因がある場合も少なくありません。例えばインクを拭き過ぎてしまったということもありました。またこれはとても重要なポイントとなりますが、作品用紙の湿らせ方が足りない、あるいは湿らせたのに乾いてしまうとインクの刷り取りが格段に悪くなります。このことも十分周知していく必要があると考えます。
<表現指導に関わるもの>
+評価51ポイント(小学校51ポイント、中学校13ポイント)
➖評価0ポイント
「表現指導に関わるもの」として、一度刷ってからやり直し、加筆、修正ができるという点が特に高い評価を受けました。実際にほとんどの受講者は何度も加筆や修正加え、イメージどおりの作品に仕上げたり、また刷り上った作品からさらにイメージを広げ作品を制作していました。また「技術指導に関わるもの」の項目でも上ったインクの詰め方・拭き方や刷り方についても繰り返すことでだんだんと技術が向上していった受講生も目につきました。これまでの版画では時間内で一度刷るのがやっと、それでうまく行かなくてもそこで終わらざるを得ないと消化不良の状態であった、これなら更に良くするための工夫や努力を指導することができるという意見も何人かから聞くことができました。
従来の紙版画や木版画にはなかった、濃淡表現が可能な技法という点も概ね高い評価が得られました。
<対象学年に関わるもの>
「対象学年に関わるもの」については、概ね「高学年以上中学生に向いている」というものが多く、これは予想通りでした。小学校低学年、中学年でもできるという回答が多かったのは意外な結果でした。
また紙版画は小学生だけではなく、中学校の教材としても有効な技法であるという回答を得られたのは大きな成果だと言えます。
<感想・提案・要望>
「感想・提案・要望」では、講座を通じ紙版画の新しい表現効果や独自の制作手法の面白さ、有効性を感じてもらたことがわかりました。見本の必要性、試作による練習など授業での実戦を踏まえた意見、テーマや材料の工夫についてなど、実際に授業で扱うことを想定した感想を多く得ることができた。