新種発見!〜でこぼこ版画で生き物図鑑をつくろう〜

平成30年度 豊橋市立大清水小学校現職研修

平成30年8月3日、愛知県三河教育研究会造形部実技講習会で私が考案した紙版画技法を紹介しました。今回、その技法を使って授業が行われるということで授業参観に行ってきました。

素材感を生かしたコラグラフ技法で生き物を表現するという題材ですが、最大の見どころは一度作品を刷ったあと、友達同士で交換したアドバイスを基に作品を作り直させるということろ。

従来のコラグラフと異なり、一度貼った素材を剥がして別の素材を入れ替えるなど大胆が修正ができるところを生かした授業となっていました。

題材名:新種発見!〜でこぼこ版画で生き物図鑑をつくろう〜

日 時:平成30年10月12日(金) 5時限目(13:55ー14:40)

対 象:第3学年1組 30名

担 当:愛知県豊橋市立大清水小学校 仙田敦志先生

指導員:愛知県立つつじヶ丘小学校 白井泉先生


1.題材目標:

・素材の持つ特徴を知り、十分な効果が得られるように、材料を切り貼りした版画に刷ったりすることができる。(知識・技能)

・素材を使った版の効果からイメージし、自分の作りたい生き物を工夫して表したり、友達の作品の良さに気づいたりすることができる。(思考力・判断力・表現力)

・いろいろな材料を版に使って、自分だけの表現を大切にしながら、愛着と自信をもって作品作りに取り組むことができる。(学びに向かう力・人間性)

2.内 容:紙版画、コラグラフの技法で空想の生き物を表現する。

・緩衝材、毛糸、片ボール紙、レース生地、アルミホイル等各種の素材の効果を生かしながら、あらかじめ各自が構想した生物の姿、生態が表現できるよう各種の素材の効果を生かしながら版画で表現する。

・作り直しやすいというアルミホイルコーティングコラグラフの利点を生かし、友達との意見交換を反映させた作品の作り直しに取り組ませ、より自分の構想に近い作品にしていくようにする。


3.授業案のポイント

・生き物図鑑をつくろう 想像上の生き物のデザイン。これが授業の最終目標となります。つまり版画は生き物のデザインをデザインする手法として位置付けられます。版画だからこそ得られる効果を取り込むことで可能となるデザイン。発想の道具としての版画。これは版画の教育教材としての可能性を広めていく上でポイントとなります。

・コラグラフは偶然性が強く、その効果を味わうだけで終わってしまう可能性のある教材です。しかし、この授業ではあらけじめ教員が各種の素材を刷ったサンプルを用意しそれぞれの効果を理解させるようにしてありました。授業時間中教室に掲示しいつでも児童の目に触れるようになっていました。

3−1.アルミコーティングコラグラフ

この授業が一般的な紙版画、コラグラフの授業と異なる最も重要なポイントがあります。一度刷り上がった作品をもとに児童が意見交換。もらったアドバイスの中から取捨選択、あるいは応用し作品を作り直していくのです。こうした余裕ができるのも制作に時間のかからないアルミホイルコーティング紙版画ならではだと言えます。

アルミホイルコーティングは、各種の素材を貼った版を最終的にアルミホイルをかぶせて表面をコーティングしてしまう技法です。アルミホイルが版の素材を固定し版の耐久性を高めているためそれぞれの素材はそれほどしっかりと接着しておく必要がありません。またアルミホイルも貼ってから剥がせるタイプのものを用いると簡単に剥がすことができます。このような版なので、一度版を完成させた後でも素材を追加、入れ替えをさせることができるのです。これは授業担当の仙田先生の大胆な発想によるものです。この版画の特徴を理解し応用していると言えます。児童は思いのほかうまくアルミを剥がし、積極的に修正に取り組んでいました。

・アルミホイルでコーティングすることのメリットが生かされた技法ですが、包んだ方がよい素材と包まない方が良い素材があります。それを考えさせることも指導のポイントでした。各種の素材、アルミで包んだものと包んでいないものの刷りのサンプルが教室に掲示されいつでも生徒がそれを見ることができるようになっていました。

・また素材の効果がわかるように、児童の刷った作品もOHCとテレビを活用していて生徒に提示していました。

3−2.マスキング版

・今回のコラグラフはマスキング版を併用したもの。版にインクを乗せてから、図柄の孔をあけた紙をかぶせ、インクの刷れるところ、つかないところをコントロールする技法です。これにより複雑な版も強く扱いやすくなり、また手を汚しにくくなるというメリットが生まれます。マスキング版による紙版画であったが、修正した後は図柄の版を台紙から剥がして、版だけにしてインクをつけて刷っていました。3名(研究授業では3名の児童した刷りを行わなかった)。

・小学校3年生のスキルでもマスキング版が可能であることがわかりました。

3−3.配色

・児童の構想した生き物の造形は、素材からの発想が効果的に行われたようで、のびのびとした個性的なものであった。版画にしなくとも十分に作品として成立するものにも思われた。これを版画にする意味のひとつは、色彩の工夫ができるところです。特に色彩についての授業案には記載されてはいませんでしたが、児童たちはすでに混色効果の学習を終えているとのこと。ただやはり青、赤、黄など原色のままの色使いが多く見受けられました。

3−4.意見交換

・作り直しにあたり児童の間で意見交換がなされた。より適切な素材にするにはどうしたら良いかということが主な内容でした。素材、手法とその効果を意識して制作しているため自身の作品や他の児童へのアドバイスなど、言語化がスムースに進んでいるように見受けられました。


4.改善点

・素材に頼りすぎると形が曖昧になってしまう傾向が見受けられます。形を自由にできる厚紙ももう少し積極的に使うと良いのではないかと思いました。最初から使うと、素材を使うことがおろそかになるかもしれませんが。意見交換で受けたアドバイスを実現するために必要なら厚紙も使うとのではないかと思いました。

・タンポの使い方が問題でした。布をつまみ、べとべとのインクをつけ、版に擦り付ける。インクのつくところとつかないところがあって初めて図柄が表現できるのですが、全面にインクを塗ってしまっては図柄ははっきりしません。大きなタンポを使う、インクはパレットの上で伸ばす、ポンポン叩くような動きを練習することが必要だと思いました。そもそもタンポは児童のみならず教員にとっても馴染みの薄い道具。タンポで版にインクを載せるという手法も一般的ではないようで、インターネットでもそうした事例は見つけられませんでした。スポンジや軟式テニスボールを代用品にするアイデアを伝えました。

・タンポはローラーに比べるとインクを載せられる量が少ないため、時間がかかり、またアルミに包まれていないインクを吸いやすい素材にはインクを乗せるのが難しく思われます。

・アルミに包んだ方がよい素材と包まない方が良い素材について。やわらかい素材、ふわふわした素材、繊細なテクスチャーの素材は包まないほうが良いです。包んでしまうと素材感が減じることに加え、アルミが十分に接着されず剥がれやすい版になってしまう。インクの粘性でアルミは浮いてしまうよう状態になってしまいます。素材は硬いもの、薄いもの、弾力のないものを基本としそれでしっかりとした安定した版を作った上で必要に応じて各種の素材をつけると良いです。

・しかし素材の多くは柔らかい厚みのあるものが多く揃えられていました。素材の質感を生かそうと思うとそういう素材のほうがが多くなるのでしょう。

・刷り方。三教研の講座では足踏みでの刷りを体験してもらしましたが、今回の授業、足踏みではうまくいかず馬連ですることにしたとのことでした。掘り残した一番高い部分だけを刷りとる木版画は馬連でするのが有効です。しかしコラグラフ特有の凹部のテクスチャーを刷りとるのに馬連は必ずしも適切ではありません。硬い馬連では凹部に力が入らないからです。しかし、足踏みであれば足の裏の柔らかさで凹部にまで紙がしっかりと食い込みそこにある素材感を刷りとることができるのです。そのため当初、馬連のほうが綺麗にすれるというその理由がわかりませんでした。しかし児童のインクセットの様子を見てわかりました。まず版画をきれいにするためにはインクは少ない方がよい。インクのつくところ、つかないところがあってはじめて図柄が表現できるのが版画の基本です。しかし大量のインクをしかも擦り付けるようにしては凹部にも凸部にも同じようにインクがのってしまいます。このまま足踏みをしたらただのインクのベタ面になってしまう、それがきれいにすれないということです。版にインクがベタベタに乗っていつ時は凹部まで圧力のかからない馬連のほうがインクのつくところ、つかないところができて、きれいに刷れているように見えるのです。

・児童にはタンポは難しいかもしれないが改善するとすれば、

◯タンポは最低でも中華饅頭くらいの大きさでシワがないこと。

◯ンクはチューブから出してそのまま使うのではなく、一度ヘラで薄く伸ばしてやる

・マスキング版について。マスキング版は薄い方がよいです。マスキング版の厚みが邪魔をして図柄のアウトラインの部分に馬連の圧力がかからず、輪郭の曖昧な図柄になってしまう事例が見受けられました。

・アルミホイルがしっかり接着されていなものが見受けられました。スプレーボックスは余裕のある大きめの箱を使用し、しっかりスプレーをかける必要があります。


各種の素材
素材効果サンプルの掲示
素材活用の事例
マスキング版をつけたコラグラフ版
刷った作品を前に意見交換
作り直すためにアルミホイルを剥がす
アルミホイルと素材の関係についての板書
アルミホイルが浮いている
アルミホイルが浮いている
アルミホイルがうまく貼れている
版にインクを塗りつけてしまっている

作品

マスキング版画に使用する紙の厚さについて