新しい紙版画の技法  

-教材としての可能性-

私が考案した新しい技法を中心に、様々な紙版画の技法と教育教材としての活用、意義について紹介しています。



■紙版画の魅力と教育教材としての有効性について

 

切る、貼る、塗る、剥がす、凹ませる等簡単にいろんな加工ができる「紙」。こうした特長を活かすことで紙版画はまだまだその表現の幅を広げていくことができます。ここに掲載した、一見すると銅版画やリトグラフのような作品も全て紙版画です。小学生から高校生まで年齢、発達に応じた表現が可能となります。

 また描画、構成、コラージュそれらの併用など、幅広い表現力は様々な題材、テーマに展開していくことができます。他の版種に比べ制作の手間や時間を短縮でき、また失敗してもやり直しやすく、試行錯誤しやすいのも紙版画の魅力です。

 いろんな素材、用具、手法に触発され作品を構想する。進んで試行錯誤しながら表現を工夫する。おどろきと喜びをもって偶然の効果を表現に取り入れていく。版画教材の持つこうした教育的効果をより一層高めていける潜在能力が紙版画にはあります。新しい紙版画の技法がみなさんの教育活動の一助になることができれば幸いです。


愛知産業大学通信教育部

准教授 山 口  雅 英


このホームページは「新しい紙版画技法の開発とその教育教材としての有効性に関する研究(2018年度 JSPS 科研費JP18K02686 採択事業)」の一環として制作したものです。


<お知らせ>

①ここで紹介する紙版画の各種技法は講習会、ワークショップなどで自由に使用していただいて結構ですが、その場合は連絡をいただきたくお願いいたします。

yamagu@asu.ac.jp

尚、小、中、高等学校など学校教育での活用については特に連絡していただく必要はありません。

②版面をアルミホイルで覆う技法について、筆者はこども向けワークショップ担当にあたって考案したメダル作りを発展させたものですが、版画での利用は版画家大沼正昭氏がより早い時期に考案されているようです。

『造形遊び/アルミホイルで銀メダルを作ろう』

https://youtu.be/NIsEWFZp0ks 

これらの作品は全て紙版画です。紙版画はまだまだ未開拓の分野。紙という素材のもつ特性を生かし様々な手法を応用し組み合わせることにより、小学校低学年向けの平易な教材はもとより、成人の版画作家の高度な表現手段としても十分な成果を発揮できます。幅広い年齢層、様々な表現欲求に応じた多様な取り組みが可能な技法、それが紙版画です。

■動画で紹介する新しい紙版画技法

■紙版画(エンボス版紙版画)ワークショップ

2023年9月2日東京日本橋のギャラリーカノンさんで紙版画のワークショップの講師を担当しました。 ギャラリーカノンさん、昨年4月に紙版画の作品だけを展示する展覧会され私とうちの学生も出品しました。それがご縁での今回紙版画ワークショップです。 ワークショップではエンボス版紙版画という技法で作品を作ってもらいました。いろいろな素材を押し付けて表面に凹凸を作って版をつくる技法です。この技法をこうしたワークショップで扱うのははじめてのことです。 何もないところからではなく、素材の中から選び組み合わせるという構想の仕方、プレス機を使って一瞬で製販できるという手軽さ、そして何よりこの技法ならではの表現効果の新鮮さに触発され、受講生のみなさんは次から次へと何点も作品を制作していました。

「見当」を使った多版多色刷り


紙版画による多版多色刷り技法の紹介です。 木版画の多版多色刷りで使用する「見当」を紙版画に応用したものです。 多版多色刷りだけでなく、異なる紙版画技法による図柄を刷り重ねる場合にも有効です。この動画では凹版刷りと凹版刷りを刷り重ねています。わかりにくいですがインキの色も若干変えています。

サンドペーパーを使った面の表現

紙版画で面の表現、濃淡表現する技法をいろいろと模索しています。この画像は、表面にサンドペーパーを貼った版を凹版刷りしたものです。銅版画のアクアチントをヒントにした技法です。

あまり粗いサンドペーパーは用具を傷めますので、#1000,#1500,#2000という細かいものを使用しました。またサンドペーパーの上からニス(水溶性ニス)を塗り重ねた効果も試しています。

この実験では#1500で最も濃い調子を得ることができました。次は#1500のカーボランダム(研磨剤の粒子)をニスに混ぜ込んで塗る、またはニスを塗った上から振りかけるなどして、筆跡を活かした濃淡調子の効果について実験する予定です。

ビンバレンによるエンボス版紙版画

これまでこのサイトで紹介してきたエンボス版紙版画は、版に素材を押し付けるためにプレス機を使用してきましたが、この作例はプレス機は使用せず、素材を押し付けるのも、またできた版を凹版刷りするのもビンバレン(ビンの底をバレンのように用いて擦る技法)で行なっています。プレス機を全く使わずにこのような表現ができることがわかりました。

使用した版は新日本造形社製「ドライポイントプレート」。表面を樹脂でコーティングした板紙です。

インクは、イギリス、クランフィールド社製の「セイフウォッシュエッチングインク」。油性なのに水に溶ける性質をもっています。手や道具の汚れは水と石鹸で洗い落とせます。勿論、版も水で洗えるのですが紙の版は水で洗うことができません。しかしこのインクは便利なことに灯油でも洗い落とせます。

シルクスクリーンを活用したエンボス版紙版画の制作

エンボス版紙版画とは、版用の紙の表面にいろいろな素材を押し当て、素材の凹凸を写し取る技法です。素材それぞれのテクスチャーを生かした表現が得られるのが魅力です。 この動画では、シルクスクリーンを活用した素材の作り方とそれを使った製版方法、作例を紹介します。

紙版ドライポイント 瓶バレン刷り」愛知県一宮市教員研修会でのデモンストレーション 2022.08.19

 2022年819日() 13:00 -15:00 

中学校美術の教員を対象とした紙版画講座でのデモンストレーションです。 今回紹介する制作方法には、教材として扱いやすくするためのいくつかのポイントがあります。 

ポイント1 「瓶バレンによる下絵転写」

 下絵は3B 、4B の柔らかい鉛筆で描き、瓶を使って版面い擦り付ける転写方法です。 トレーシングペーパーを使った下絵転写では何度も同じ絵を描くことになりますが、この方法であれば絵を描くのは一度ですみます。 左右を間違えることはありません。 面も簡単に転写できるので、下絵で計画した濃淡を表現しやすくなります。

 ポイント2 「描画用具」 

ドライポイントではニードルを使うのが一般的ですが、今回の講座ではボールペンを使っています。滑らかで動かしやすく、入手しやすいです。 面は表面を剥がすやり方とサンドペーパーで擦るやり方を紹介しています。 

ポイント3 「プレス不要の瓶バレン刷り」

 今回もっとも大きなポイントとなります。 プレス機は扱いも難しくまた危険な道具でもあります。台数に限りがあるため待ち時間も増えます。瓶バレン刷りならば各自が自分の机で作業ができます。刷りの効果はプレス機と比べても大きく劣るものではありません。 

の他、手を汚しにくくする工夫も紹介してます。

ンドペーパーを台紙にした

一版多色刷り紙版画

豊川市桜ヶ丘ミュージアム主催ミュージアムワークショップ 

「切って、はがして、ひっかいて作り 紙版画に挑戦」

 2022年1月16日(日) 13:30 -1 5:00 

紙のパーツを貼り重ねて図柄を作るというところは小学校の図画工作の教材と同じですが、いくつかオリジナルの工夫をしています。

 1.台紙にサンドペーパーを使っています。サンドペーパーについたインキの汚れは作品用紙に写りにくくなり、図柄のフォルムがはっきりと出ます。

 2.紙の貼り重ねるだけでなく、ボールペンでの描画を加えています。 

 3.スポンジでインキを乗せる多色刷りをしています。ローラーでインキを乗せる場合は基本的に一色しか乗せられませんがスポンジを使うとランダムに色を乗せることができます。 また、ローラーに比べ使用するインキの量も格段に少なくてすみます。準備の手間もそれほどかからず、事後の洗浄も不要です。

 4.バレンを使わず掌で刷ります。バレンを準備する手間が省けます。刷り具合を細かく手加減することができます。

紙版ドライポイント の刷りインクセット

この版は新日本造形株式会社製ドライポイント プレートを使用。主たる線はボールペン、細い線はニードル、グレイの部分と背景の渦の細かい線はサンドペーパーで描画しました。サンゴは表層を剥がして粗い面を露出させました。

紙版ドライポイント の刷り

瓶バレン刷り

プレス機を使わずに凹版刷りする方法です。瓶の底を使ってバレンのように擦り、圧力をかけます。湿らせた紙を傷めないようにクッキングシートを敷くのがポイントです。

凹版画+マスキング版

紙版凹版画(ドライポイント )にマスキング版を活用した作品制作の手法を紹介します。従来の紙版凹版画の作り方では、このように細かく変化した複雑な形状の版は、凹版刷りではインクを拭くときに破損しやすくまた手も汚しやすくなります。しかし、マスキング版を活用するとこうした問題を解決することができます。またこの動画では紹介していませんが、図柄ごとに凹版刷り、凸版刷りを使い分けることもできることもこの技法のメリットです。

■ジェッソアクアチント技法でフェルメール「真珠の耳飾りの少女」模写


使っているのはジェッソとウレタンニスのみです。即興的になりゆきでやるのは楽ですが、模写として狙った濃さを出すのはとても難しいです(この作品も出しきれていません)。 また粒子の粗さの違いで濃淡が変化する、理屈はそうですが、いくら粒子が細かくても筆跡がのこるとそこにインクが溜まって濃い調子になってしまい、筆跡の残り具合で全然違うのでどんな濃さになるのか読めません。また明るいグレイはジェッソだけでは無理。水性ウレタンニスを混ぜ薄めました(筆跡を残さないようにニスを塗るのも難しいです)。 夏の教員対象の講習会ではみなさん結構いい感じの明るいグレイを出していたのですが、考えるにプレス機を使わず瓶でするという刷り方ならではの刷りの甘さが功を奏したのではないかと思います。 1枚目の画像が完成(とりあえず) 2枚目の画像は1回目の刷り。まず大まかに濃淡をつけ、明るくしたいところ、ハイライトにニスを塗りました。目などの細かいところは粗いジェッソを使って面相筆で描画しました。 3枚目が版です。刷った後なので少し調子が付いていますが、製版の時はジェッソはみな白でどこにどの粒子を塗ったのわからなくなってしまいます。粒子ごとに違う色のジェッソがあると良いです。

■ビンバレン刷り


● プレス機を使用しない凹版画刷り

● 身近な使い捨ての用具で準備、後片付けが簡単

木版画をバレンで刷るのとほぼ同じ要領で、ビンを使って凹版画を刷ります。ビンと作品用紙の間に当て紙としてクッキングシートを使用しています。水分に強く、表面が滑らかなクッキングシートを使うのがひとつのポイントとなっています。

動画の中で使っている材料、用具はこれだけです。

・ドライポイントプレート(教材として販売されているもの)

・描画用具(ニードル、ボールペン、サンドペーパー、カッターナイフ)

・版画用油性インク

・作品用紙(画用紙)

・段ボールを切って作ったヘラ

・小ビン(栄養ドリンクや調味料のビン)

・新聞紙

身近なものばかりなので準備も簡単。また使い捨てできるものばかりなので後片付けの手間も減らせます。

※追記:動画では「ビン底刷り」としてますが、ビンをバレンのように使うということがわかりやすくなるように現在では「ビンバレン刷り」として紹介しています。
※追記:ヘラについて。段ボールのヘラは使い捨てにできる利点はありますが、人数分用意するのが大変です。そこで園芸用のT字型名札をヘラとして使いました。ホームセンターで100枚800円程度ですので、洗って使い続けても、また使い捨てにしても良いかと思います。「講習会記録(蒲郡高校美術部)」参照

◾️紙版ドライポイント の濃淡技法 ジェッソアクアチント

●紙版ドライポイントにアクリル系地塗剤ジェッソの粒子の粗さを利用して濃淡をつける技法

2018年、愛知県内の蒲郡市、みよし市、安城市、豊橋市で担当した夏季教員研修会で参加した先生方が制作した作品を紹介します。

この講座では「ジェッソアクアチント」と「ビンバレン刷り」のふたつの技法を紹介、体験してもらいました。

ジェッソはアクリル系絵具の地塗剤。通常の絵具よりも粗い顔料が使われています。これを版面に塗ることで粒子による細かい凹凸ができ、丁度銅版画におけるアクアチントと同じような効果をエルことができます。粒子の大きさの違うジェッソを使うことで濃淡の変化をつけることができます。

ビンバレン刷りはプレス機を使わずに凹版画を刷る技法。ビンのそこでバレンのように擦ることから技法名をビンバレン刷りとしました。

■マスキング版紙版画


● 紙版画で複雑な構図を表現

● 壊れにくく手を汚しにくい

複数のパーツをひとつの版にまとめることができるため、刷るたびに位置合わせする必要がありません。細かなパーツを貼って作った版も大きな紙に固定されるため、破損や紛失の心配がありません。

またインクを乗せる時、版面のインクがつかない部分を押さえることができるので手も汚れにくく、インクを乗せてからの持ち運びも安心です。

タンポを使うと、ローラに比べインクの量は少なくてすみます。また色を塗り分ける楽しみも得られます。

勿論、ローラーでインクを乗せることもできます。

 

■ニスメゾチント・紙版ドライポイント


● 紙版ドライポイントに濃淡表現を加える

● 銅版画やリトグラフのような表現

通常、紙版ドライポイントではインクの拭き取りやすいコーティングした紙を版として使用しますが、この技法ではあえて表面の粗い紙を版にします。表面の粗い紙にポールペンで図柄を描きます。描線はインクが溜まる溝になるように強く押しつけます。

そのまま刷ると真っ黒な画面になりますが、ニスを塗るとその部分のイ

ンクが拭き取りやすくなり明るい調子が得られます。

 ニスの量、重ねる回数を調整すると何段階もの濃淡を表現することができます。また筆のタッチを活かすこともできます。暗い版に明部を作っていくところが銅版画のメゾチントと似ているため「ニスメゾチント」と名付けました。

 特別な薬品も使わず、短時間で銅版画やリトグラフに匹敵する表現が得られる技法です。

■エンボス版紙版画  単色刷り


● 素材を押し付け凹凸をつけた紙を版にする技法

● 紙版ドライポイントにテクスチャーを加える

既存のコラグラフは版面に素材を貼りますが、エンボス版紙版画ではプレス機を使って素材を押し付け凹凸をつけた紙を版にする技法です。コラグラフの作りにくさ、刷りにくさを解消しますると同時に、コラグラフでは得られない独特の素材感を表現することができます。

 刷り方は銅版画とほとんど同じ。凹部にインクを詰め、プレス機を使って刷ります。

 ニードルを使って描画したり表面を剥がして濃い部分を作るなど、ドライポイントの技法を併用できるのは既存のコラグラフにはない大きな魅力です。

■エンボス版紙版画   凹凸併用多色刷り


● エンボス版紙版画で簡単にカラフルな作品

エンボス版紙版画は凹部(、凸部両方に別の色のインクを使った一版多色刷りもできます。凹部にいろいろな色のインクを詰め分けると更に変化に富んだ表現が得られます。

 一見難しく見えるかも知れませんが、実は単色刷りのほうが高度な技術が必要です。拭き取るところはきちんと拭き、インクを残すところはきちんと残す、繊細な拭きが必要になるからです。それに比べると凹凸併用刷りでは、多少拭きがうまくなくても凸部に乗せたインクでそれを覆って目立たなくすることができるのです。

■打ち刷毛刷り

 

● プレス機を使わない凹版画刷り

「打ち刷毛」とは表装や拓本で和紙を対象に密着させるために刷毛で打ち付ける技法。これを凹版刷りに利用したのが「打ち刷毛刷り」です。

 ここで紹介するのは紙版ドライポイントの作品。インクを詰めるところまではプレスで刷る場合と同じです。インクを詰めた版に薄手の和紙を被せ水分を与え、タオルなど厚手の布で和紙を版に密着させます 。和紙が傷まないようにラップを被せ、その上から豚毛の洋服ブラシで打ちます。ニードルで描いた細い描線、濃淡の調子も刷りとることができます。

■紙版画併用多色刷り


● 手間や費用をかけない多版多色刷り

銅版画、木版画、樹脂板ドライポイントなどで刷った図柄に紙版画使って彩色していく多色刷りの技法です。ここでは銅版画との併用を紹介します。

 銅版画を刷ります。インクが乾かないうちに吸った用紙に紙版を重ねプレス機で図柄を写し取ります。これが紙版の下絵となります。

下絵を写し取った紙版にドライポイントで描線したり、表面を剥がしたりして色版を制作し、それぞれにインクを詰め、刷り重ねて完成です。

 銅版画だけで多版多色刷りをするのは手間も時間も費用もかかり、授業で実施するのは困難です。しかし、安価で加工しやすい紙版なら何色でもどんどん加えていくことができます。

 紙版の色版はこれ以外にもマスキング版紙版画、ニスメゾチント等様々な技法で制作することができます。

■パスタマシン刷り


●プレス機の代用としてパスタマシンを使った紙版ドライポイント凹版刷り

紙版ドライポイントは凹版なので、通常はプレス機がないと刷ることができません。しかしパスタマシンがプレス機の代用品として使用することができるのです。版は、ニードルによる描画、剥がしやサンドペーパーを使った濃淡調子といった一般的な紙版ドライポイントの技法で制作していますので、こちらも参考にしてもらえると思います。

Tシャツに紙版画を刷る


●「足踏み刷り」で布に刷る

Tシャツに紙版画を刷る。一般的には紙版画の刷りにはバレンを用います。紙ならば良いのですが、Tシャツに刷るとなるとバレンでは布がよじれてしまってうまくいきません。しかし「足踏み刷り」で刷ればこのようにうまくすることができます。

■モノタイプ転写技法


●葉っぱやレースなどのテクスチャーを利用したモノタイプ版画

モノタイプの技法のひとつ「転写」の基本と応用です。

モノタイプとは図柄を施した版を使うのではなく、ガラスやプラスティックの板の表面に塗ったインクに描画したりテクスチャーを付け、それを紙に刷りとる技法です。二度と同じものを刷ることができないため「モノ=単一の」と言います。

工夫次第で様々な表現が可能です。手軽で即興的に制作できる技法、感性や造形発送力を養うのにとても有効だと思います。ここではプレス機を使用して刷っていますが、足踏み刷りでも作ることができます。

正確には紙版画ではありませんが学校教材としても十分効果の高いものだと思い、ここに紹介します。

■ジェッソアクアチント


●紙版ドライポイントにジェッソで濃淡をつける方法

凹版版画を刷るには、凹部にインクを詰め、凸部のインクを拭き取ります。紙版ドライポイントは凹版画なので、凸部のインクがきれいに拭き取れるように表面をコーティングした厚紙で版を作ります。インクがきれいに拭き取れてしまうので、インクを起こして中間調子を作ることが得意ではありません。そこで版の表面にジェッソを塗ります。ジェッソは粒子の粗い顔料ですので、インクを拭き取りにくくする作用があります。ジェッソの塗ってある部分はインクが完全に拭き取られることがなく、拭き残されたインクで中間調子を表現することができるのです。

■プレス機刷りの基本


●初心者向けにプレス機の扱い方を紹介します

プレス機はあるが使い方がわからないということで、せっかくのプレス機が眠ったままになっていることも少なくありません。確かに経験のない人にとってはどう扱ってよいのか見当もつかないと思います。ここでは特に紙版画刷りを前提に基本的なプレス機の使用方法を解説します。

■クレヨン・パステル刷り


●紙版画の版を利用し、フロッタージュの原理でつくる色彩豊かな版画技法

この技法は愛知産業大学通信教育部の卒業生Iさんが考案したものです。フロッタージュ(こすりだし版画)を応用したものです。カーボン紙を使って刷る既存の技法がありますが、それをクレヨンで塗りつぶした紙に置き換えたのだそうです。

この動画では、前の授業で白黒で刷った紙版画と同じ版を使ってクレヨン刷りをしています。同じ版から全く違った色とりどりの作品ができるのは子どもたちにとっても大きな驚きと喜びになるでしょう。

■クレヨン・パステル刷り


●紙版画の版を利用し、フロッタージュの原理でつくる色彩豊かな版画技法

Iさんが自分が考案した技法を他の学生にはじめて紹介してみんなで試した時の様子を流し撮りしたものです。

■へイター法で刷る紙版画


●版の凹凸を利用した一版多色刷り

ヘイター法とは、版表面の凹凸、ローラーの硬さ、そしてインクの油分の差、この三つの要素を生かして、一つの版で多色刷りをする技法です。

ここでは一つの版で一度に3色の色を刷るところを紹介します。一般的にはディープエッチングで作った銅版画で使われることが多いようですが、凹凸の表情の多彩なコラグラフの版を使うと、とても豊かな調子の変化が得られるます。

■マスキング版で多版多色刷り


●マスキング版を使った多版多色刷り

複数のマスキング版を使用。それぞれの版の図柄を刷り重ねていくことで多版多色刷りをすることができます。教材の一般的な紙版画ではほとんど一版一色の刷りしか行われませんが、このように多版多色の技法を使えば、紙版画の表現力を格段に豊かで高度なものとなります。

■マスキング版を使ったボールペン紙版画

●一番簡単な紙版画技法「ボールペン紙版画」にマスキング版を併用

シンプルな技法と併用することで、マスキング版のメリットをよりはっきりとわかってもらうことを意図した制作です。



◾️アルミホイルでコーティングするコラグラフ

●アルミコーティングで壊れにくく、刷りやすいコラグラフ

アルミホイルでコーティングすることで、従来のコラグラフでは扱うのが難しかった素材を使うことができます。また接着剤やニスの乾燥に時間を費やすこともありません。版が堅牢になりまた刷りやすさ、洗いやすさも向上します。

※文献は見つかりませんでしたが、版面をアルミホイルで覆う技法は版画家大沼正昭氏がより早い時期に考案されているようです。