WAGR症候群って何?

WAGR症候群は稀な遺伝子疾患です

「WAGR」とは症候群の主な特徴を表す英語の頭文字です

WAGR症候群の症状は何ですか?

WAGR症候群の最初の症状は通常、赤ちゃんが生まれた直後に気づかれます無虹彩症は、茶目の部分である虹彩部分的またはほぼ完全欠如している眼の状態であり、通常、新生児期に見つけられます。乳児男の子の場合、性器の問題も、通常出生直後に明らかになります。これらの症状は通常、遺伝子検査をするきっかけとなり、11番染色体上に欠失があることが明らかになります

WAGR症候群の他の症状は幼児期初期に診断される可能性があり、一部は人生の後半に発症することがあります。これらの問題は、脳、腎臓、目、および他の多くの体の状態に影響を与える可能性があります。症状とその状態は、WAGR症候群の人によって大きく異なります。

ウィルムス腫瘍 は腎臓がんの一種です。WAGR症候群の患者の約半数に発生します。腫瘍は通常1歳から3歳の間に発症します。ほとんどのケースは8歳までにみつかりますが、まれにそれ以降に発生します。WAGR症候群の赤ちゃんは、出生時から腹部エコーを受けるべきで、その後は8歳まで3か月ごとに検査を受ける必要があります。 8歳以降、ウィルムス腫瘍のモニタリングは、定期的な超音波検査と、腹部の腫れや血尿などの症状のモニタリングによって行います

ウィルムス腫瘍の治療は、多くの場合うまくいきます。ウィルムス腫瘍の治療には通常、腎臓の全部または一部を摘出する手術、化学療法、場合によっては放射線療法が含まれます。

くわしくはこちら W:ウィルムス腫瘍

無虹彩症は、目の茶目の部分である虹彩が、部分的またはほぼ完全にない目の状態です。無虹彩症は、WAGR症候群で生まれた赤ちゃんにほとんどに見られます。目の他の症状は生まれたときから存在するか、子どもが成長するにつれて発症する可能性がよくあります。これらには、白内障(目の水晶体のくもり)や眼振(目の急速な不随意運動)、角膜症(目の前部である角膜のくもり緑内障(眼圧が高いなどがあります。 無虹彩症の子どもの視力はだいたい同程度ですが、合併する眼の状態の影響を受けます。

無虹彩症の治療は、視力の維持に重点を置いています。緑内障や角膜症には薬物療法が役立つ場合があります。白内障のせいで有効な視力が妨げられない限り、白内障の手術は避けるべきです。コンタクトレンズは角膜に害を及ぼす可能性があるため、ほとんどの場合、避ける必要があります。

くわしくはこちら A:無虹彩症

泌尿生殖器の 問題は、WAGR症候群で生まれた赤ちゃんによく見られます。男の子の場合、これらは尿道下裂(尿道口が陰茎の先端ではなく陰茎の軸に沿っどこかに開口する状態停留精巣を伴うことがあります。女の子の場合の生殖器の問題は、低発達の卵巣(索状性腺)、子宮卵管膣の奇形がある場合があります。索状性腺は、希少癌である性腺芽細胞腫に関連しています。WAGR症候群の一部では、性器の発達に問題があると、出生時に性別(男性または女性)が不明確になる場合があります。

泌尿生殖器の問題に対しては、卵巣精巣の発達の異常みつけるための定期的な検査をします。異常な性腺を摘出したり、泌尿器機能を改善したりするために、手術が必要になる場合があります。索状性腺のある女性は、性腺芽細胞腫の発症をモニタリングするために、定期的な骨盤内超音波検査またはMRI検査を受ける必要があります。

くわしくはこちら G:泌尿生殖器異常

発達遅滞
発達の遅れと知的障害は、WAGR症候群によく見られます。これらの重症度は、重症から軽度までさまざまです。WAGR症候群の何人か正常な知能を持っています。

発達遅延の治療には、理学療法、作業療法、言語療法などの早期介入サービスが含まれます。WAGR症候群の乳児は、可能であれば、出生後すぐにこれらのサービス紹介してもらうべきでしょう特別支援教育は、WAGR症候群の子どもたちが最大限の能力を発揮できるよう支援するために活用されます。

くわしくはこちらR:発達遅滞

WAGR症候群に関連するほかの症状は何ですか?

W-A-G-Rに加えて、WAGR症候群に関連する症状はにもたくさんあります。WAGR症候群の人はこれらの症状のいくつかを持っているかもしれませんが、すべてを持っているわけではないことを知っておくことが重要です

聴覚および感覚処理障害
・BDNF遺伝子の欠失
・行動障害または精神障害
・呼吸・循環器の異常
・慢性腎臓病
・頭、耳、鼻、喉の異常
・胃腸の異常
・代謝および内分泌の異常
・筋骨格系の異常
・神経学的異常
・睡眠障害

WAGR症候群に関連する可能性のある他の状態については十分に説明されていません。WAGR症候群 患者登録の目的は、このような状態の診断と治療を改善することです。

くわしくはこちら 関連疾患について

WAGR症候群はどのように診断されますか?

WAGR症候群は遺伝子検査で診断されます:
核型検査は、多くの場合、WAGR症候群に関連する欠失を検出することができますが、小さなサイズの欠失見逃す可能性があります
FISH(fluorescent in-situ hybridization は、11番染色体上の特定の遺伝子の有無を検出できます
CGH(array comparative genomic hybridization は、核型検査よりもはるかに小さな遺伝子欠失領域検出でき、FISHと同様の情報がわかり、同時に多くの遺伝子の検査ができます

さらなる情報はこちら:WAGR症候群の遺伝学

WAGR症候群は遺伝しますか?

WAGR症候群は通常遺伝しません。ほとんどの場合、それは疾患を持っている個人の「denovo」つまりは新規の遺伝子突然変異です。この種の遺伝異常は、卵子や精子が形成されているとき、つまり赤ちゃん子宮内で発育するごく初期の段階に、偶然発生します。

ごくまれに、両親の1人が2つの染色体間での再配列(転座と呼ばれる)を持っていて、その人が子どもをもったときにいくつかの遺伝子を失うという状況では、遺伝子の変化が遺伝します。 

 赤ちゃんはまた、正常な細胞と、WAGR症候群の遺伝的変化がある細胞が混在している場合があります。これはモザイクWAGR症候群と呼ばれます

遺伝子検査は、WAGR症候群のに存在する遺伝的変化のタイプを決定することができます。

遺伝カウンセリングは、WAGR症候群をもつきょうだい児が生まれるリスクが高いかどうかを判断するのに役立ちます。

さらなる情報はこちら:WAGR症候群の遺伝学

WAGR症候群の寿命

どもがWAGR症候群と診断されると、両親はしばしば、疾患に関する病状、特に生命を脅かす可能性のある病状について心配します。多くの親は、WAGR症候群の人の平均余命が短くなるかどうかを知りたがっています。

WAGR症候群の寿命は正式には研究されていません。International WAGR Syndrome Associationには、WAGR症候群を持つ約200人の患者さんが所属していますその大多数は、子ども、10代、および若年成人です。グループには30代の人もいれば、40代と50代の人もいます。

WAGR症候群に年配者がいないように思われる理由は、いくつかあります。まず、1970年代後半まで、ウィルムス腫瘍の有効な治療法がなかったことです。その頃までにウィルムス腫瘍になった患者さんは、残念ながら幼児期を超えて生きられなかったのです。

もう1つの考えうる理由は、1980年代半ばまで、WAGR症候群と言う言葉は使われていなかったということです。それまでこの疾患は、「無虹彩-ウィルムス腫瘍症候群」や「AGR症候群」、「無虹彩症」のように様々に呼ばれていました。最初に上記の古い疾患名で診断された成人がいて、その親や担当医が、学術用語(病名)が変更されたことに気づいていない可能性もあります。

最後に考慮すべきもう1つの要因は、WAGR症候群の成人の親の年齢です。高齢の親は若い親に比べて、自分の子どもの病気について、情報求めてインターネットを利用することが少ないかもしれません。その上、1970~80年代に障害者の権利運動が行われるまでは、障害者に対する社会の見方はしばしばネガティブなものであり、親や家族への支援はほとんどありませんでした。その結果、年配の親たちは、International WAGR Syndrome Associationのような組織を探したり、参加しようとあまりしなかった可能性があります。

WAGR症候群の生命予後は現在のところわかりませんが、これだけは確かです:WAGR症候群に関連のある疾患の医学的な診断法と治療法は、ここ数十年で着実に進歩してきています。どのような進歩があったかというと:

・遺伝子検査の進歩のおかげで、WAGR症候群の診断を出生前や生まれてすぐにできるようになった
・生まれてすぐからウィルムス腫瘍の定期観察をするようになった
・ウィルムス腫瘍の治療方法が、効果が優れているだけでなく、治療期間はより短く長期的な副作用が少ないものになった
・慢性腎臓病の診断と治療が早期になされるようになったおかげで、腎機能を劇的に長く維持できるようになった
・WAGR症候群の患者で、透析and/or腎移植が可能であり、それがうまくいくことが示されてきた

今日WAGR症候群と診断される子どもの前途は、以前よりも明るいです。そして、研究が続けられていくことで、その生活はより健康で長いものになっていくでしょう。

このページは、International WAGR Syndrome Association(IWSA)の許可を得て、IWSAのweb siteの記事を翻訳・転載したものです
Translated by Madoka Hasegawa, October 2020

WAGR症候群に関する文献・書籍紹介

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