膵炎とWAGR症候群

Kelly Trout, BSN, RN
Director, Research and Medical Advocacy
International WAGR Syndrome Association

膵炎とは何でしょうか?

膵臓は重要な臓器で、インスリンとグルカゴンを血中に放出します。これらは、食物からエネルギー源として摂取したグルコース(糖)を体が使うのを助けるホルモンです。

膵臓はまた、膵管という細い管を通して、小腸に消化酵素を分泌します。この酵素は、食物中の脂肪やたんぱく質、炭水化物を消化するのを助けます。消化酵素は通常、小腸に到達するまでは活性化せず、小腸に至ってから食物を消化し始めます。この酵素がまだ膵臓内にある時に活性化してしまうと、膵臓自体を「消化」し始めてしまい、膵臓で炎症がおきてしまいます。

膵炎には2つのタイプがあります:WAGR症候群ではどちらのタイプもおこりえます
急性膵炎 突然発症し短期間続くもの
慢性膵炎 治癒することなく、膵臓をゆっくり破壊していくことがある
どちらのタイプの膵炎でも、出血、組織損傷、感染などの重篤な合併症を引き起こすことがあります。極端な場合では、他の臓器を損傷することもあります。

何が膵炎を起こすのでしょうか?

WAGR症候群の人に膵炎が起こりやすい理由は2つあります:
・WAGR症候群の人のほとんどは、PAX6遺伝子を欠失しています。PAX6遺伝子は膵臓の発育にも関与しています。この遺伝子が欠失していることで、膵臓の解剖学的または機能的な欠落を起こす可能性があります。
・WAGR症候群の人の中には、高中性脂肪と呼ばれる状態にあります。高中性脂肪は、血液中の中性脂肪とよばれる脂質成分が高いときの状態のことです。血中の脂質濃度が上昇すると、膵炎のリスクが高くなると考えられています。
・ある薬物もまた膵炎を引き起こしえます。WAGR症候群での膵炎に関連する薬とは、プロポフォールという麻酔薬です。プロポフォールは、全身麻酔が必要な医療行為をするときによく使われます。中性脂肪が高い状態のWAGR症候群患者さんでは、注意してプロポフォールを使うべきです。

診断急性膵炎の徴候は以下のものがあります:

・吐き気 
・下痢を伴う(/または伴わない)嘔吐
・背中まで放散する(/またはしない)上腹部痛
・発熱
・頻脈
・不安
・落ち着きのなさやいらいら
・腹部診察における圧痛
・便の変色(黄色と(/または)灰色)
急性期には、血中のリパーゼの上昇を認めます。リパーゼは膵臓で作られる消化酵素です。これらの酵素値が正常より高いと、膵炎があることを示唆するので、これを見るために医師は採血検査をします。医師は、レントゲンやCT、MRIのような画像検査も指示することがあります。

慢性膵炎では腹痛がよくあります。その痛みは食べたり飲んだりすると悪くなることがあります。痛みは背中まで広がったり、痛みが持続して何もできなくなることもあります。他の症状には、吐き気、嘔吐、体重減少、脂肪便、食べ物の消化不良による頻便などがあります。

WAGR症候群患者さんの50%には、疼痛閾値が高いという異常があります(片方のBDNF遺伝子が欠失している結果としておきます)。その場合、急性膵炎があっても、痛みや不快感といった徴候を見せない可能性があります。

言葉を話せないWAGR症候群の人は、自分の痛みを人に訴えられない難しさを抱えています。そのような人は、痛みや病気を行動の変化として表すこともあります。例えば、引っ込み思案になったり、まとわりついたり、攻撃的になることがあります。

治療

急性膵炎の治療では通常、鎮痛のための薬物治療や、静脈ラインを留置して絶食で輸液管理をし、少しずつ高炭水化物・低脂肪の食事に変えていきます。抗生剤も処方されることがあります。
慢性膵炎の治療では、急性膵炎の治療とほとんど、あるいは全部同じ治療に加え、膵臓が十分な消化酵素を自分で分泌していないときには、食事と一緒にとるよう膵酵素も処方されます。

参考文献

Acute Pancreatitis after Propofol Administration in a Child with WAGR Syndrome.
Danley KM, Henderson WA, Ibrahim T, Hadigan CM, Han JC. North American Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition Annual Meeting, National Harbor, MD, November 2009. Unpublished findings presented as preliminary data in abstract format at a medical conference.

Diacono D, Fagbemi A, Puleston J, Banerjee I. Bezafibrate to prevent relapsing pancreatitis in WAGR syndrome. BMJ Case Rep. 2012;2012:bcr2012006413.
Published 2012 Nov 14. doi:10.1136/bcr-2012-006413
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23152176/?from_term=wagr+syndrome+pancreatitis&from_pos=1

Sapio MR, Iadarola MJ, LaPaglia DM, et al. Haploinsufficiency of the brain-derived neurotrophic factor gene is associated with reduced pain sensitivity. Pain.
2019;160(5):1070‐1081. doi:10.1097/j.pain.0000000000001485
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6476691/

このページは、International WAGR Syndrome Association(IWSA)の許可を得て、IWSAのweb siteの記事を翻訳・転載したものです
Translated by Madoka Hasegawa, October 2020