W:ウィルムス腫瘍

WAGR症候群のWはウィルムス腫瘍(Wilms tumor)を表しています

概要

ウィルムス腫瘍は腎臓の固形悪性腫瘍です。これは、小児の腎臓がんの中で最も一般的なタイプのものですです。

WAGR症候群の子どもは、ウィルムス腫瘍を発症するリスクが高くなります。リスクが高くなるのはWT1遺伝子の突然変異によって引き起こされます。このWT1遺伝子とは、WAGR症候群を引き起こす遺伝異常の領域内にあるものです。WAGR症候群の子どもの約50%がウィルムス腫瘍を発症します。

WAGR症候群のどの子どもがウィルムス腫瘍を発症するかを予測することはまだ不可能です。このため、出生時またはWAGR症候群の診断と診断された時から、ウィルムス腫瘍の定期的なスクリーニング開始する必要があります。スクリーニングは、8歳まで3か月ごとの腹部超音波検査で行います。一部の医師は、次の超音波検査までの間に子どもの腹部を触診するよう親をトレーニングすることも提唱しています。

ウィルムス腫瘍は、典型的な子どもよりもWAGR症候群の子どもでより早い年齢で発生する傾向があります。WAGR症候群の小児におけるウィルムス腫瘍の平均診断年齢は17〜28か月であり、WAGR症候群の小児におけるウィルムス腫瘍のほとんどの症例は3歳までに診断されています。

まれではありますが、ウィルムス腫瘍は19歳までのWAGR症候群の患者で報告されています。このため、ウィルムス腫瘍のモニタリングは生涯継続する必要があります。このサーベイランスには、定期的な超音波検査またはMRIと、腹部腫瘤、高血圧、血尿などの症状のモニタリングがありうるでしょう

WAGR症候群の患者のウィルムス腫瘍の治療は、手術と化学療法組み合わせて行います。早期診断と適切な治療により、WAGR症候群ウィルムス腫瘍を発症した小児の全生存率は優れています。

診断

超音波検査で腎臓に腫瘤が見られる場合、ウィルムス腫瘍が疑われるでしょう。ただし「nephrogenic rests」(腎臓の未熟な細胞のクラスター)もまた、WAGR症候群の子どもよく見られます。Nephrogenic restsは悪性ではありませんが、超音波またはMRI画像の見かけからは、腫瘤がウィルムス腫瘍であるかNephrogenic restsであるかを判断することは困難です

ウィルムス腫瘍の確定診断には、生検と腫瘤の顕微鏡検査が必要でしょう。診断と治療へのアプローチは、北米とヨーロッパで多少異なります。例えば:
北米では、Children's Oncology Group(COG)が、化学療法の前に腫瘤/腫瘍の外科的切除と近くのリンパ節の生検を推奨しています。
ヨーロッパおよびその他のいくつかの国では、International Society of Pediatric Oncology (SIOP)が、手術前の生検および化学療法の実施を推奨しています。

これらのアプローチは両方とも良い結果をもたらしています

治療

ウィルムス腫瘍の治療は通常、手術と化学療法の組み合わせが行われます。時には放射線療法も必要になることもあります

手術は、腫瘍を取り除くために行われます。腫瘍の大きさや位置によっては、腎臓丸ごと摘出される場合があります。切除が困難な腫瘍と両側性腫瘍は、多くの場合、最初に化学療法で治療して腫瘍を小さくし切除しやすくします。

化学療法(「抗がん剤治療」)は、強力な薬を使用して、がん細胞を殺したりがん細胞が成長して増えるのを防ぎます。
・抗がん剤は、中心静脈カテーテル(「セントラルライン」)から血液中に注入され、体中にいきわたります
併用療法は一度に複数の種類の抗がん剤を使用することですが、ウィルムス腫瘍の治療でしばしば行われます。
・抗がん剤は、手術前に腫瘍を小さくするためや、腫瘍細胞が体の他の部分に広がるのを防ぐため、または原発巣の外にすでに広がっているを治療するために投与されます

化学療法の薬、投与量、スケジュール、および期間は、診断時の腫瘍の病期によって異なります

個々の患者さんの治療計画は、腫瘍の病期やその「組織」(顕微鏡検査)など、腫瘍の特徴によって異なります。

ステージ1 腫瘍は腎臓に限局し一塊となっており、手術で完全に取り除くことができます
ステージ2 腫瘍は腎臓を越えて広がっていますが、完全に切除されます
ステージ3 腫瘍は外科的に完全に切除できませんが、腫瘍は腹部に限局しています
ステージ4 腫瘍は、肺肝臓、骨、脳、骨盤外のリンパ節に広がっています
ステージ5の 診断辞時に、両方の腎臓に腫瘍がみとめられています(「両側性」)

注意すべきことは、一般的な子どもでは、両側性腫瘍(ステージ5)は生存率ということになります。WAGR症候群の子どもではしかし、両側性ウィルムス腫瘍は珍しくなく、生存率は非常に良好です。この違いの理由は不明ですが、WAGR症候群の子どもたち定期的スクリーニングをしており、早期診断であることと関係があるかもしれません。

再発したウィルムス腫瘍の場合、治療法は、腫瘍がどこまで広がっているかと、過去にどの治療法がすでに行われたかによって異なります。

さらなる情報はこちら(英語のサイトです)

他の親からのアドバイス

ウィルムス腫瘍の治療を経験していくことは、恐ろしく不安なこともあるでしょう。IWSAは、WAGR症候群の子どもたちの家族がウィルムス腫瘍の治療を受ける助けになるように、親たちからの実践的なアドバイスをまとめました。

くわしくはこちら:ウィルムス腫瘍にどう対処する?

Nephrogenic rests

Nephrogenic restsは、WAGR症候群の子どもによく見られます。Nephrogenic restsは、出生後も持続する腎臓にある未熟な細胞の集まりでNephrogenic restsは悪性(癌性)ではありませんが、ウィルムス腫瘍に変化することがあります。

Nephroblastomatosis」は、複数のNephrogenic restsがあることを描写するときに説明するために使われます

場合によっては、超音波またはMRI画像で、あるいは生検でさえ、Nephrogenic restsをウィルムス腫瘍と区別することが非常に困難です。子どもが片方または両方の腎臓にNephrogenic restsとウィルムス腫瘍の両方を持っている可能性もあります。

治療後のフォローアップ

ウィルムス腫瘍の治療が完了すると、ほとんどの家族にとっての主な懸念事項は、腫瘍が再発するかどうか、および治療による長期的な影響の可能性でしょう

腫瘍やその治療をあなた意識から除き、癌中心ではない生活に戻りたいのは確かに普通のことです。しかし、あなたのこどもが長期的によい状態でいられるチャンスを得るには、
フォローアップケア治療の中心的な部分であるということを認識することが重要 です。

お子さんの医療チームはフォローアップスケジュールをつくります。これには、腫瘍の再発や治療に関連した問題を探すための診察や胸部X線、超音波、CTスキャンなどの画像検査が含まれます。

ほとんどの子どもでは腎臓を切除しているので、血液と尿の検査を行って、残っている腎臓がどの程度機能しているかを確認します。お子さんが化学療法中にドキソルビシン(アドリアマイシン)を投与された場合、医師はお子さんの心臓の機能をチェックするための検査も指示するでしょう

フォローアップ検査と診察の推奨されるスケジュールは、がんの最初の病期と組織(favorableかunfavorableか)、治療の種類、および治療中に子どもに生じた問題によって異なります。医師への受診と検査は最初はより頻繁になりますが(最初の数年間は約6〜12週間ごと)、時間が経つにつれて受診の間隔は長くなるでしょう

この間、必要に応じて原因を特定して治療できるように、新しくでた症状があればすぐに子どもの医師に報告することが重要です。医師はあなたに、何に注意してみるべきかを教えてくれるでしょう

治療の晩期障害

治療の大きな進歩により、ウィルムス腫瘍の治療を受けたほとんどの子どもたちは現在、成人期まで生き残っています。医師たちは、小児がんの治療が後年の子どもの健康に影響を与える可能性があることを学んだため、近年、子どもたちが年をとるにつれて健康への影響がないかをみていくことが、ますます懸念されています。

小児がんの治療が非常に専門的なアプローチを必要とするように、治療後のケアとフォローアップも同様です。問題が早期にわかるほど、効果的に対処できる可能性が高くなります。

考えられる治療の影響について子どもの医療チームと話し合い、何に注意して観察し医師に報告するかを知ることが重要です。

治療の晩期障害のリスクは、子どもが受ける特定の治療、治療の用量、治療時の子どもの年齢など、多くの要因によって異なります。これらの晩期障害には次のものがあります:
腎機能の低下
特定の抗がん剤を投与された後の心臓の問題
成長と発達の遅延
後年の二次がんのリスク増加(まれ)

治療記録を保存する

治療が完了したら経験を忘れたいこともあるでしょうけれど、この間の子どもの医療記録を残すことは非常に重要です。治療中治療直後​​にこれらの詳細な情報を集めておくほうが後になってから情報をとろうとするよりも簡単です。子どもが成人した時でさえ、あなたの子ども医師が持っているべき情報がありますそれは以下のものです

生検手術のときの 病理レポートのコピー  
あなたの子どもが手術を受けた場合は、手術報告書のコピー
お子さんが入院し場合は、患者が退院するときに医師が作成する 退院要約のコピー

化学療法が行われた場合、あなたの子どもが受けた各薬の最終用量のリスト。(特定の薬には特定の長期的な副作用がある可能性があります。小児腫瘍医からこれらのリストを入手できれば、将来あなたの子どもを担当する医師に役立つでしょう
放射線療法が行われた場合、放射線の種類と線量、およびいつどこで行われ たかの要約

最近の研究

International WAGR Syndrome Association は、WAGR症候群ののウィルムス腫瘍に関する研究を促進するために努力してます。
最近の研究について知る(全ての研究)

このページは、International WAGR Syndrome Association(IWSA)の許可を得て、IWSAのweb siteの記事を翻訳・転載したものです
Translated by Madoka Hasegawa, October 2020

ウィルムス腫瘍に関する文献・書籍紹介

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