A:無虹彩症

WAGR症候群のAは無虹彩症(Aniridia)を表しています

無虹彩症は、まれで複雑な疾患ですが、研究は継続的に新しい希望をもたらしてくれています。情報サポートがあれば 、患者さん家族は充実し生産的な生活最大限可能にできるでしょう

概要

無虹彩症は、目の茶目の部分である虹彩部分的またはほぼ完全に失っているまれな目の状態です。無虹彩症のほとんどの人は虹彩組織を多少持っていますが、それは検眼鏡を通してしか見ることができないほど少しでしょう無虹彩症の人は瞳孔が大きくなり、目が非常に黒っぽく見えます。

WAGR症候群の 人では、PAX6と呼ばれる遺伝子の1つのコピー欠失した結果として無虹彩症が発生します この遺伝子は11番染色体の短い(p)腕上にあります。このタイプの無虹彩症は通常遺伝によって生じたものではありません

詳しくはこちら:WAGR症候群の遺伝学

無虹彩症の他のケースでは、PAX6遺伝子の両方のコピーが存在しますが 、遺伝子に変異があります。この突然変異が無虹彩症のある親から受け継がれるとき、それは家族性無虹彩症と呼ばれます 家族性無虹彩症全体の約3分の2を占めています。

約3分の1の無虹彩症では、遺伝では生じません。これは散発的あるいは孤立性無虹彩症と呼ばれます。
非常にまれなケースですが、無虹彩症は、ELP4、FOXC1、PITX2、PITX3、ITPR1など他の遺伝子の突然変異によって生じることがあります。
無虹彩症が視力に与える影響は、個人によって異なります。無虹彩症のある多くの人はある程度の視機能を持っています。しかし、無虹彩症は、緑内障白内障、無虹彩関連角膜症など、眼の多くの状態に関連しています。これらの状態のいくつかは視力の低下につながる可能性があり、失明につながることもあります。
無虹彩症、体の他の部分の病気も関連しています。これら、PAX6遺伝子の異常が関係していると考えられており、脳膵臓、聴覚、嗅覚の問題などがあります

眼の関連疾患

無虹彩症の人は緑内障を発症するリスクが特に高く、治療が難しい場合があります。緑内障の定期検査は生まれた時から開始する必要があります

白内障は出生時からあることがよくあります白内障は、視力に著しい影響を与えない限り、外科的摘出を必要としません。

無虹彩角膜症(AAK)は 、「角膜パンヌス」とも呼ばれます。AAKは多くの場合、小児期または青年期に始まりますが、成人になるまで視力に影響を与えないでしょう。早期の診断と治療進行を遅らせるのに役立つでしょう

その他の関連する状態

  • 視神経黄斑中心窩の低形成 これら眼の構造の発達不全。視神経は、視覚情報を網膜から脳に転送します。黄斑は、網膜の中心にある目の部分で、はっきりとした真っ直ぐな映像に処理します。中心窩は黄斑の中心であり、視力も鋭敏な部分です。低形成は出生前に発生していますこれが無虹彩症で視力が低下する原因となることがよくあります。眼鏡では矯正できません。
    低形成についてもっと知る(英語のサイトです)

  • 眼振 目の不随意運動。眼振は、無虹彩症の人々に非常に一般的です。多くの場合、出生時からあるか、生後2〜3か月の間に発症するようになります。目の動きは、左右、上下、または回転のパターンがあります。目は急速に動いたり、速い動きから遅い動き変化するような動きをします。目の動きの向きや程度は人によって大きく異なります。眼振のある人はこれらの動きを自分でコントロールすることはできません。疲れやとストレス、動きをより顕著にすることがあります無虹彩症の人の眼振は、網膜と脳の間の誤った伝達によっておこると考えられています。無虹彩症で眼振のある人は、物がふるえて見えているわけではありませんそうではなくいくらかかすんでみえているでしょう。眼振の治療法はありませんが、進行性の状態ではありません。無虹彩症で眼振のある人は、視機能は良好な可能性があります
    眼振についてもっと知る(英語のサイトです)

  • 羞明 光に対する感受性が増した状態。屋内照明は無虹彩症の人の目に害はありませんが、あるタイプの屋内照明が他のタイプよりも好まれる場合があります。屋外では、明るい陽射し無虹彩症の人にとって不快なことが多く、まぶしさは一時的ではありますが見えづらさを大きくします。屋外では、サングラスおよび/または帽子を使用すると保護にもなるし、快適さや見えやすさを提供してくれるでしょう。無虹彩症の乳幼児にもサングラスをお勧めします。
    乳幼児向けのサングラスについてもっと知る(英語のサイトです)

  • 弱視 「怠惰な(lazy)」目とも呼ばれます。人生の初期に脳の視機能中枢が適切に刺激されていないと発生するタイプの視力低下。無虹彩症で弱視になるよくある原因の1つは、片方の眼の有効な視機能をブロックしてしまう先天性の(生まれた時からある)白内障です。原因に応じて弱視は、眼鏡眼帯、手術(大きなあるいは中心にある白内障を取り除くなど)で矯正できる場合があります。視機能をを強化し維持するには、人生の早い時期の治療が重要です。
    弱視についてもっと知る(英語のサイトです)

眼瞼下垂 まぶたが異常に低い位置にある(下垂)状態。眼瞼下垂は、まぶたを上げる筋肉が十分に強くない場合に発生します。眼瞼下垂は、生まれた時からあるか、生後数か月以内に認められる場合があります。眼瞼下垂は、ウィルムス腫瘍の治療に一般的に使用される抗がん剤であるビンクリスチンの副作用としても発生する可能性があります。必要に応じて、眼瞼下垂は手術で治療することができます。眼瞼下垂の手術後は、ドライアイに気をつけ治療するようケアがなされるべきです
眼瞼下垂についてもっと知る(英語のサイトです)

その他関連する状態

無虹彩症の人には、眼以外にも問題が生じる可能性があります。「無虹彩症候群」という言葉は、PAX6遺伝子の変異が全身に影響を与える可能性があるという意識が、研究者や医師の間に強く高まっていることを表しています。 無虹彩症のすべての人が以下の状態のすべてを持っている、または発症するわけではないことを覚えておくことが重要です。

  • 前交連、前帯状皮質、小脳、側頭葉および後頭葉、脳梁、松果体、嗅球に異常(defect)があるなど 、脳の構造の異常
    一部の人では、これらの異常が知的障害、学習障害、発達遅延、および/または行動上の問題の原因と なる可能性があります
    松果体の異常(defect)睡眠障害の原因である可能性があります松果体は、睡眠の調節を助けると信じられているホルモンであるメラトニンを生成します。場合によっては、メラトニンサプリメントが役立つことがあります
    嗅球の異常(defect)は、嗅覚の低下または欠如を引き起こす可能性が あります

  • 小さな歯や、歯が欠けている、6〜12歳までに自然に生えてこない乳歯などの歯の異常

  • 多嚢胞性卵巣症候群 女性のホルモン障害で、小さな嚢胞のが多数できる卵巣腫大を引き起こします

  • 湿疹

  • 睡眠時無呼吸症候群 呼吸停止と再会を繰り返す睡眠の疾患

  • 膵臓の構造または機能の異常
    膵臓の問題は、軽度の耐糖能障害からインスリン抵抗性、糖尿病まで多岐にわたります。
    急性および慢性膵炎が報告されています
    くわしくはこちら:膵炎とWAGR症候群

  • 聴覚情報処理障害
    話し言葉を理解する能力に影響を与えます。聴覚は正常ですが、騒がしい環境で会話を理解したり、指示に従ったり、類似した音を区別するのが困難です。軽度、中等度、または重度の場合があります。
    くわしくはこちら:WAGR症候群における聴覚情報処理障害

視機能

無虹彩症視力に多くの要因が影響します。視力は、あなたが見ているものの形や詳細を識別する能力です。無虹彩症では、虹彩がないことによって鮮明にみる力が落ち、光に対する感受性が高まります(羞明)。眼振や白内障など生まれた時からある眼の他の状態や、緑内障や、無虹彩角膜症などの出後または後年に発生する目の状態は、視力をさらに低下させる可能性があります。

無虹彩症人は、部分的に視力があるか全盲ですが、一部の人はほぼ正常な視力を持っています。無虹彩症のほとんどの人の視力は、中程度のどこかに落ち着きます

無虹彩症の平均視力は、約20/80から20/200(フィート)または6/24から6/60(メートル)の範囲です(訳注:日本でいう0.1-0.25)。20/80(6/24)の視力では、ほとんどの人腕の長さの距離で大きな活字を読むことができます。通常、20/200(6/60)の視力では、アイチャート上の大きな「E」を見ることができ、非常に近い距離で大きな活字を読むのに十分です。

矯正眼鏡 は、その人にも「屈折異常」がない限り、無虹彩症の視力を改善しません。屈折異常は、近視、遠視、乱視(すべての距離でかすんでみえる)があります。屈折異常は、角膜の形状不規則性であることによって起こりますこのことにより、ものがはっきりみえるように光が目に正しい角度ではいるのを妨げます。眼鏡は、目に入る光を曲げ、目の後方で適切に焦点を合わせ直すことによって屈折異常を矯正します。無虹彩症人に屈折異常がある場合、眼鏡はそれを矯正するのに役立ちます。しかし、視力低下を引き起こす無虹彩症に関連する他の状態を、眼鏡で矯正することはできません。

コンタクトレンズは、無虹彩角膜症の進行を早める可能性があるため、無虹彩症患者には注意して使用する必要があります(関連症状を参照)。


屋内照明は無虹彩症の人々に害はなく、一般的に不快感を引き起こすほどまぶしくはありません。時間が経つにつれて、無虹彩症を持つ人々の多くは、読書学業、その他の活動をするのにちょうどよい、いくつかのタイプの屋内照明があるとわかってきます

屋外では、明るい陽射しはかなり不快かもしれません。雨や曇りの日でも、反射した太陽光によるまぶしさは一時的ですが、見えやすさを大幅に低下させるでしょう。サングラスは、無虹彩症の非常に幼い子どもたちにとってさえ、非常に役に立ちます。

ロービジョンエイド
無虹彩症もつ多くの子どもと大人は、読んだり、見たり、安全かつ自立して移動するのに役立つデバイスを使用します。これらのデバイスの例は次のとおりです
・手持ちの拡大鏡
・字を読むための強力な拡大眼鏡
電子スクリーンリーダー
スマートフォンコンピューター、タブレットのユーザー補助機能(アクセシビリティ)
白杖

一部の国では、学校でこれら支援機器の使用の必要性を評価し、トレーニングを提供する場合もあります。これらのサービスは、眼科医による紹介を通じて提供される場合もあります。

乳幼児

視機能
正常な視力のある子どもの親では、通常、生後2週間から3か月乳児が見えていると感じます。これらの兆候には、顔をじっと見つめること、動く顔や明るい色の物体を目で追跡すること、物体に手を伸ばすことなどがあります。

無虹彩症のどもの親は、こどもが生後4〜6か月になるまでこれらの兆候が見られなかったとよく言います。心配ではありますが、視機能の発達の遅れは、無虹彩症の子どもたちによく見られます。親は視覚刺激の機会をたくさんあたえることで、無虹彩症の赤ちゃんを助けることができま
す。
さらなる情報はこちら(英語のサイトです)

アイケア
無虹彩症の乳児は、出生後すぐに眼科医(目のケアを専門とする医師)診察してもらう必要があります。検査は通常、若い年代のうちは6か月ごとに行われますが、白内障緑内障、注意深く観察する必要のあるその他の状態の兆候がある場合は、より頻繁に行われることがあります。 眼科医は、無虹彩症の幼児に麻酔をかけて検査することを勧めることがあります。それは通常、短時間の軽い鎮静を行い、目の構造徹底的評価できるようにします

最近の研究

International WAGR Syndrome Association は、無虹彩症の研究を促進するために努力してます。
最近の研究について知る(全ての研究)

このページは、International WAGR Syndrome Association(IWSA)の許可を得て、IWSAのweb siteの記事を翻訳・転載したものです
Translated by Madoka Hasegawa, October 2020