上皮タイトジャンクション(Tight Junction; TJ)の開口はバイオ医薬品の非侵襲投与(経皮・経口・経鼻)を実現するための重要な一手段である。中でも、薬剤投与時のみ一過的に上皮バリアを緩め、薬物通過後はバリア機能を回復させる「可逆的TJ開口剤」は安全性の面からも有用であると考えられる。我々は、下記の薬剤を中心に作用機構解析を行っている。
1) Capsaicin
2) TRPチャネルファミリーを標的とするTJ開口剤
3) MA026
Capsaicinはトウガラシ由来の辛み成分であり、アルカロイドの一種である。TRPV1の強力なアゴニストとして有名だが、TRPV1ではなくTRPA1を活性化させ、それに引き続くCofilinの脱リン酸化による活性化やアクチン骨格の変動を起こすことでタイトジャンクションを可逆的に開口させる(1)(2)。
2) TRPチャネルファミリーを標的とするTJ開口剤
TRPチャネルファミリーは温度、化学物質や機械的刺激などの多様な物理的・化学的刺激を感知するセンサーとしてはたらく。GSK1016790AによるTRPV4の活性化はCapsaicinとは異なる経路で可逆的にタイトジャンクションを開口することが明らかとなった(3)。
MA026はPseudomonas属バクテリア由来の環状リポデプシペプチドである。MA026がタイトジャンクション構成タンパク質Claudin-1と結合するという報告から検討を行った結果、実際に可逆的なタイトジャンクション開口活性を示すことが示された (4)。構造活性相関検討からN末アシル基および疎水性アミノ酸残基部分が活性に重要であることが明らかとなっており、バイオ医薬品の非侵襲投与への応用に期待がもたれる (5)(6)。
1. Shiobara, T., Usui, T., Han, J., Isoda, H. & Nagumo, Y. PLOS ONE 8 (11), e79954 (2013).
2. Kanda, Y., Yamasaki, Y., Sasaki-Yamaguchi, Y., Ida-Koga, N., Kamisuki, S., Sugawara, F., Nagumo, Y. & Usui, T. Scientific Reports 8, 2251 (2018).
3. Mukaiyama, M., Yamasaki, Y., Usui, T. & Nagumo, Y. FEBS letters 593 (16), 2250-2260 (2019).
4. Kanda, Y., Yamasaki, Y., Shimura, S., Kamisuki, S., Sugawara, F., Nagumo, Y. & Usui, T. J Antibiot (Tokyo) 70 (5), 691-694 (2017).
5. Uchiyama, C., Fukuda, A., Mukaiyama, M., Nakazawa, Y., Kuramochi, Y., Muguruma, K., Arimoto, M., Ninomiya, A., Kako, K., Katsuyama, Y., Konno, S., Taguchi, A., Takayama, K., Taniguchi, A., Nagumo, Y., Usui, T. & Hayashi, Y. Angewandte Chemie International Edition 60 (16), 8792-8797 (2021).
6. Mukaiyama, M., Uchiyama, C., Fukuda, A., Nakazawa, Y., Kuramochi, Y., Shibata, Y., Konno, S., Muguruma, K., Matsugaki, N., Asari, T., Ogawa, K., Taguchi, A., Takayama, K., Taniguchi, A., Nagumo, Y., Senda, T., Hayashi, Y. & Usui, T. Journal of Medicinal Chemistry 66 (13), 8717-8724 (2023).