朽木は京都から北北東に伸びる安曇川沿いに北上した、琵琶湖の西方に位置する地域です。朽木は、面積の約90%が森林となっており、朽木の自然や森とそこに暮らす人々は、古くから互いに影響を与えあってきました。しかしながら、近年、過疎化や高齢化に伴う森林への手入れの減少やシカの食害により、森林の植生に変化が見られています。今回は、特に「森林公園くつきの森」を訪れ、コドラート法による樹木を中心とした植生調査を行い、地形条件の違いが植生に与える影響を調べ、周囲の自然環境について学びます。
小坂 康之(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科東南アジア地域研究専攻 准教授)
高橋 公平(京都大学文学部地理学専修4回)
矢島 隼人(京都大学文学部地理学専修4回)
2025年7月19日(日)8:30~
滋賀県高島市朽木麻生 くつきの森
計9名
学部生3名(文2 農1), 院生3名(文1 AA研1 大阪公立大文学研究科1), 社会人1名, 教員1名, 元教員1名
8:30 京都大学吉田キャンパス時計台前集合、資料配布
8:40 京都大学出発
9:50 道の駅くつき新本陣を訪問
10:30 くつきの森到着、自己紹介、周辺地域の自然環境及び実習(植生調査)の内容について説明
11:45 班に分かれて調査方形区を設定
12:30 昼食
13:00 植生調査
15:00 調査結果の共有と解説
15:30 くつきの森出発
16:00 くつき温泉てんくうで日帰り入浴
18:30 京大着、解散
8:30に時計台前に集合した後、すぐに朽木に向けて出発しました。朽木までの道のりは約50㎞、車で一時間です。花折断層の断層崖に並行する国道367号線は、道中には途中峠、花折峠があり、途中峠までは高野川に花折峠からは安曇川に並行して走ります。この道は若狭国小浜と京都を結ぶ鯖街道として栄え、車からも歴史のありそうな鯖寿司店やそば屋が見られました。最初の目的地である道の駅に着くと、土曜の朝ということもあり鯖寿司やうな丼、湖魚など様々な弁当が豊富に並んでいました。参加者はここで昼食を準備したり野菜を購入したりしていました。
くつきの森に到着したのは10:30ごろで、気温は京都市内より5度ほど低い30℃でした。標高が200mほどあることや、山が近いことから比較的過ごしやすい気温となっており、木陰にいると春のような涼しさでした。朽木の森林面積の約半分は人工林であり、残りの大部分は落葉広葉樹の二次林となっています。また、朽木は比較的積雪が多い地域で積雪量が2mを超える年もありますが、近年は温暖化の影響で極端に積雪が少ない年もあります。これによって本来冬季に一定数死んでいたシカが生き延び、シカ害をもたらすシカの増加の一因となっています。また、日本の冷温帯を代表するブナ林は朽木においても標高600m以上で見られるとされていますが、温暖化によって生育可能域が狭まり、将来この地域でブナが見られなくなる可能性があります。
植生調査では、2班に分かれてあらかじめ決めておいた10m×10mのコドラート上の樹種の胸高直径5cm以上の樹木について樹種同定、樹高の測定、樹冠投影図の作成を行いました。一つ目のコドラートは乾いた尾根斜面、二つ目は川に近い湿地でした。まずコドラート内の調査対象の樹木について、ナンバーテープで識別をします。これによって調査漏れや重複を防ぎます。次に樹種同定は葉から検索する図鑑を用いて行いました。夏は落葉樹の葉も観察できるため葉から調べるのが一般的ですが、サワグルミの果穂など一目で分かりやすい特徴のものもあります。樹高の測定は森林の垂直構造を理解するために行います。樹高の測り方には測桿やレーザーなどがありますが、今回は巻き尺とクリノメーターを用いて三角比から樹高を推定しました。上左図は胸高直径の測定の様子です。最終的に、上右図の表のように樹種同定・胸高直径・樹高の結果が出ました。ただし、樹高の括弧つきのものについては時間の都合上目安としました。
最後に樹冠投影図を作成しました。樹冠投影図は森林の構造と林床の照度の関係を把握するためのもので、四方への枝の広がりを座標に落として実際の形状を考慮しつつ作図します。ハンノキが優占する湿地のコドラートでは下図のようになり、スギ(206)およびコナラ(209)が最上部で大きな樹冠を持ち、順にハンノキ、ヤマザクラ、サワグルミ、ガマズミといった構造になっていることが分かりました。
左図は昼休憩の様子です。
2班それぞれで得られた結果について考察をし、それらを共有した後は恒例のくつき温泉てんくうで汗を流してから京都市内へ帰りました。お疲れさまでした!
集合写真