大文字山において、植生と地形・地質という複数の面から自然観察を行いました。具体的には、京都で身近に観察できる暖温帯の植物や、京都盆地を取り巻く山並み、とりわけ東山連峰について概観していきました。
岡田陸太郎(京都大学アジア・アフリカ地域研究科M1)
2024年4月28日(日) 9時30分~
京都府京都市左京区 大文字山
22名(学部生名[文6, 法1, 理1, 農1, 同志社大学-理工1, 龍谷大学-社会1]院生8名[文5, AA研3] 研究員1名 元教員2名)
白川今出川交差点南西角集合(9:30)→ 銀閣寺横登山口から登山・適宜植生に関するレクチャー(10:00)→「大」の字の火床・地形に関するレクチャー(12:00)→ 大文字山山頂で昼食(13:00)→ 下山開始(13:30)→ 霊鑑寺へ下山(14:30)→ 水野邸でBBQ(16:00)
白川今出川交差点に集合しました。今回の巡検は、案内人が解説し、水野先生が補足されるというスタイルで行われました。
登り始めには、河床が白色の沢に沿って歩きました。この白は石英の色です。東山連峰を構成する花崗岩が風化した結果として、白い砂が見られます。
花崗岩は、主に石英・長石・雲母からなる岩石です。これらの鉱物のうち、石英が最も化学的な風化を受けにくいです。その結果として、石英が最後まで残り、川が白く見えるのです。白川の川底が白いことも同様のメカニズムで説明できるそうです。
実際の花崗岩を前に、水野先生から説明がありました。花崗岩は、石英・長石・雲母の膨張収縮率が各々異なることから、物理的に風化していきます。つまり、昼と夜の寒暖差によって、花崗岩はバラバラに砕けていくのです。このようにして細かくなっていった花崗岩が、川へ流れていきます。説明後、参加者は風化によって花崗岩がもろくなっていることを各自実感していました。ただし、花崗岩の風化されやすさの度合いはエリアにより異なることには注意が必要です。
さらに話は花崗岩の下に露出している土壌にも及びました。土壌の表面に積もった枯葉は、徐々に分解されて行き、腐植になっていきます。土の上部の黒色は、腐植の色です。逆に、熱帯雨林が生育する地域は、腐植がすぐに分解されてしまいます。降水量が多いことに加えて、高温で微生物の活動が活発になるからです。したがって、熱帯雨林の土壌の厚さは薄いです。薄い土壌であるにもかかわらず、熱帯雨林がおいしげっていることは、熱帯雨林が常緑樹であることで、1年中光合成が可能であることと関係しています。
京都では、クチクラ層が厚い照葉樹林がよく見られます。巡検中には様々な樹木が紹介されました。例えば、手前の樹木はネジキで、後ろ側の木はリョウブです。他にもサカキ・ヒサカキ・ウリハダカエデやヤブツバキなどを観察できました。
水野先生によれば、木の名前を覚えると感情の入り方が違ってくるそうです。少しずつ樹木の名前を覚えていくことで、森の中を散歩する際により深く感動できるかもしれません。
より多くの太陽光が地面まであたる場所に出ました。十分な光が地面まで届く場所では、コナラなどの、弱い光では芽生えが生育できない樹木(陽樹)が生育しています。若干の環境の違いで植生が異なることの実例を観察できました。
京都では、アカマツやコナラなどの二次林が多くみられます。しかし、近年ナラ枯れやマツ枯れが問題となっています。今回の巡検では、ナラ枯れに焦点があてられました。
炭焼きが行われなくなったことで、放置されたナラは自然に倒木します。そして、その倒木がカシノナガキクイムシというナラ枯れに寄与する生物の住処になります。ナラ枯れへは、カシノナガキクイムシがあけた穴をプラスチックのつまようじで防ぐことや、伐採した木をビニールシートで覆うことなどで対応しています。
巡検中につまようじで穴を防いでいる実例を見ることができました。白いつまようじが見えます。
火床から山頂に向かう途中で、ビニールシートで倒木を覆っている実例も見ることができました。
大文字山は、花崗岩・頁岩・ホルンフェルスによって主に構成されています。大まかな説明が、登っている途中でなされました。話は火成岩と噴火の形態の関係にも及び、火成岩の語呂合わせで話が盛り上がりました。
火床に到着しました。写真の右奥から、花折断層が走っています。花折断層は吉田山まで続いています。
ここで、紙を用いて吉田山のでき方の再現がありました。花折断層は右横ずれ断層です。右にずれた際に、末端が盛り上がります。これが吉田山です。写真では、中央の盛り上がっている部分が吉田山にあたります。
中央部分の小山では、林冠が黄色いシイが見られます。この黄色は、シイの葉ではなく花の色です。
火床で集合写真を撮りました。
火床から山頂へ向かう途中では、ホルンフェルスを観察しました。ホルンフェルスは、堆積岩がマグマと接触することで、硬くなった岩石です。東山の場合は、比叡山と大文字山の間の部分にマグマが入り込みました。そして、比叡山と大文字山の砂岩や頁岩の一部がマグマと接触しました。現在では、貫入したマグマは花崗岩となっており、比較的硬いホルンフェルスの部分は比叡山と大文字山の山頂部を形づくっています。
下山中にスギの倒木を見ました。なぜ、この場所ではスギの倒木が多いのかについて参加者から様々な見解が示されました。まずスギは根が比較的浅いため、倒れやすいです。さらに、この場所は急斜面であり土壌が薄くなっていることが倒れやすさを助長します。
頁岩も観察できました。頁(ページ)のように薄くはがれる特徴を持つ堆積岩です。水平に泥が堆積した後に岩石になりました。
下山後は恒例のバーベキューを行いました。 みなさま、お疲れ様でした!