京都市左京区の吉田山にて地形と植生の観察および地理学で一般的な測量方法を学習しました。地形断面図の作成まで行うことで京大周辺の身近な自然への理解を深めました。
水野一晴(京都大学文学研究科名誉教授)
髙原佳穂(京都大学文学研究科地理学専修M1)
福山一茂(京都大学文学研究科地理学専修M1)
矢島隼人(京都大学文学部地理学専修B3)
2024年11月30日(土) 10時~
京都府京都市左京区 吉田山
12名(学部生4名[文1, 法1, 農1, 同志社大学-理工1]院生3名[文2, AA研1] 研究員1名 元教員1名 社会人1名 中学生2名)
10:00 吉田神社石段下(今出川通り沿い)に集合
10:10 植生観察
12:00 測量実習
13:30 昼食
14:00 断層崖の観察・解説
15:00 京都大学構内にて地形断面図作成
16:30 解散
吉田神社北参道に集合後、植物観察をしながら測量をするポイントまでゆっくり登りました。今回の植物観察のテーマは「樹皮・冬芽」であり、落葉樹が葉を落としてからの季節でも植生観察を行うための基本的なスキルを学びました。樹皮は樹木の中でも一番観察しやすい部分であり、特徴的な樹皮を持つ樹木であれば樹皮だけでも同定することが可能です。しかし樹皮は同じ種でも樹齢によって別種にみえたりもすることや、地衣類や汚れによって本来とは異なる色をしていることもあるために注意が必要です。また、ほとんどの種では樹皮だけでは同定の決め手不足であり、「葉」「分布」「落ち葉」「樹形」「冬芽」など、下調べをしたうえで他の特徴と合わせて同定する必要があります。左の写真はどんぐりを落とすアラカシです。「平滑な暗い灰色の樹皮」「荒々しい樹形」から同定できました。樹皮だけではシラカシと迷いますが、樹形も含めて判断する必要があります。
左の写真は神事に使われることで有名なサカキです。赤っぽくて平滑な樹皮が特徴です。
左の写真は落葉樹のネジキで、樹皮がらせん状にねじれることから名前がつけられました。大文字山にはこれと似た樹皮を持つアセビがよく見られますが、吉田山にはほとんど見られません。
冬芽について、冬芽とは冬季に休眠状態にある葉やつぼみが折りたたまれた芽のことであり、樹皮よりも変異が少ないため冬の落葉樹の同定のメインの指標となります。詳しく観察するためには芽鱗の有無、芽鱗の枚数、毛の有無などをルーペで観察する必要がありますが、今回は特徴的な冬芽と似た葉を持つ種を冬芽によって見分ける方法を学びました。左の写真は先ほども紹介したサカキの葉です。写真の真ん中についている鎌形の頂芽(枝の先端にある枝を花を出す冬芽)から同定出来ます。
左の写真について、左側がサカキ科のヒサカキ、右側がハイノキ科のクロバイです。葉だけでは非常によく似ていますが、ヒサカキはサカキ科だけあってサカキとよく似た頂芽を持つ一方で、クロバイは赤い水滴のような頂芽を持ちます。このように似た葉を持つ植物の識別にも冬芽は役立つことが分かりました。
𠮷田山の山頂付近では前々回の朽木の実習以来の測量実習を行いました。3班に分かれてそれぞれハンドレベル係、メジャー係、植物同定係、記録係を交代しながら、約40m測量しました。対象地の地形と植生を適切に表現するためにはどこでどのような間隔で測量をすればいいのかを考えるのが一番難しいところでした。
測量を終え、山頂の広場でようやく昼ごはんです。イロハモミジやウルシ科の植物が綺麗に紅葉していました。例年であればだいぶ散っている時期です。
昼食後に、集合写真を撮りました。
これは現在の三等三角点と明治期に新政府によって京都に初めて設置された測量基準点です。参加者の多くが測量法の系譜を感じるとともに正確な地図を作るために国土を測量してきた人々に思いをはせたはずです。ここでは三角点は必ずしも山頂にはなく、見晴らしの良いところに設置されること、また、通りすがりの男性に三角点に書かれている「三角点」の文字はほとんどが南向きであることを教えてもらいました。
𠮷田山を大元宮の方向に下り、急坂になっている道の手前で吉田山の形成過程と花折断層の解説がありました。花折断層は右横ずれ断層であり、吉田山はその横ずれのひずみによって形成された末端膨隆丘とみなされています。花折断層は活断層でありもし地震が発生するとどうしようもありませんが、今回はこの断層のおかげで実習が行えたうえ、大原を通る鯖街道は断層とその後の川の流れによってできた道であり、断層への感謝の心も持ちました。
𠮷田山での4時間超の実習を終え大学に戻り、地形断面図の作成を行いました。今回は全員が手法を学ぶために一人一枚図を作成し、測量した場所の地形を適切に伝えられる図について各々が考えました。縦横のグリッドに対する単位の取り方や植物の表現には苦労しました。