昨年度に続き、自然地理研究会で野鳥観察の実習を行いました。今回は宝が池公園と京都府立植物園において、水鳥や森林性の小鳥を観察しました。双眼鏡の使い方や種の識別方法を学ぶことで、観察技術を向上させることができました。さらに、府立植物園では温室にて植物の観察も実施し、世界各地の植物に関する知識も深めました。
前畑晃也(総合地球環境学研究所 研究員)
2025年2月15日(土)9時~
京都府京都市左京区 宝が池公園および京都府立植物園
15名(学部生5名[文1, 法1, 農2, 同志社大学-理工1]院生3名[文2, ハンブルク大学地理学研究所1] 研究員1名 元教員2名 社会人2 中学生2名)
9:00 叡山電車宝ケ池駅で集合
9:00~ 宝が池公園で野鳥観察
11:40 徒歩で移動
12:40 昼食
13:00 府立植物園で野鳥観察
13:40 府立植物園温室で植物を観察
まずは、双眼鏡のレクチャーです。姿勢や調節方法を前畑さんから教わりました。足を肩幅に開き、脇をしめることで、双眼鏡がぐらぐら揺れないようにすることがポイントです。レクチャー中にカワセミがいるとの指摘が。いきなり実践です。報告者は、以前参加した際にはうまく双眼鏡を使うことができなかったのですが、今回は双眼鏡の視野にカワセミを捉える(導入)ことができて感動しました。
今回の実習では「似ている鳥、紛らわしい鳥」を区別することをテーマのひとつとしていました。ここでは、その中から2つを紹介します。
1つめは、コサギとダイサギの区別です。上の写真はどちらなのでしょうか?
答えはコサギです。鳥の足指<専門用語では「趾(あしゆび)」といいます>に着目すると、この2種では色が異なることが分かります。
コサギは黄色で、ダイサギは黒色です。参加者は、各自双眼鏡を用いて足指の色を確認し、鳥の識別の仕方と双眼鏡の使い方に慣れていきました。
2つめの「似ている鳥、紛らわしい鳥」は、トビとそれ以外のタカ(ハイタカ・オオタカなど)との区別です。今度は、尾に着目します。トビの尾は内側にへこんだ形(凹尾:おうび)をしています。一方で、トビ以外のタカの尾は内側にへこんでおらず、例えばハイタカでは角型(角尾:かくび)、オオタカでは円弧型(円尾:えんび)となっています。したがって、上の写真の鳥は、尾がへこんでいるのでトビだと分かります。この話の続きで、タカと同じく狩りをするハヤブサへ移り、ここで案内者から衝撃の事実が告げられました。
なんと現在では、ハヤブサはタカの仲間ではなく、インコの仲間に近いそうです。DNA分析の結果わかったそうです。参加者の中からは、収斂進化(しゅうれんしんか)ではないかという鋭い指摘があり、案内者も首肯していました。収斂進化とは、異なる祖先から類似の機能が進化することです。則ち、異なる祖先から、狩りをする機能に適した形質に収斂した結果として、形質が似てきます。収斂進化の他の例として、北米のムササビとオーストラリアのフクロモモンガがあります。
上の写真の鳥はエナガです。日本で見られるエナガ(種)の亜種の中には、本州以南で主に見られるエナガと、北海道で見られるシマエナガが含まれています。シマエナガが本州以南に生息していないことは、ブラキストン線と関連づけて考察できます。
ブラキストン線とは、北海道と本州の間の動物境界線のことで、この線を境に動物相が大きく異なります。これは、氷河期に津軽海峡が完全には陸化しなかったことが要因です。宗谷海峡(水深45~50m)など他の海峡は比較的水深が浅く、氷河期に陸化し、動物が陸峡を横断することが可能でした。一方で津軽海峡は、水深が120~140mと比較的深く、氷河期にも陸地がつながらなかったので、動物の横断が困難だったというのです。
宝が池越しに比叡山を望む位置から集合写真を撮影しました。
京都府立植物園に移動し、昼食後、野鳥観察を再開しました。
カモの観察が、今回の実習のもう一つのテーマでした。カモは、餌の採り方によって大きく2種類に分けられます。水面採餌(さいじ)ガモと潜水採餌ガモです。前者は水面で餌を採るカモで、マガモ・カルガモなどが代表例です。後者は潜水して餌を採るカモで、ミコアイサなどが代表例です。上の写真のカモ(カルガモ)は、首を水に付けて、水面付近の餌を採っているため水面採餌ガモだとわかります。
その後、京都府立植物園の観覧温室に入りました。
自然地理研究会 第123回 で紹介された仏教三霊樹(無憂樹・菩提樹・沙羅双樹)の本物を見ることができました(左上:ムユウジュ、真ん中上:インドボダイジュ、右上:サラノキ)。これらは本来日本では自生していない植物であり、比叡山で見ることができたものは見立ての樹木でした。
こちらは、アングレクム属の1種、アングレクム・レオニス(学名:Angraecum leonis)です。このなかまに、通称ダーウィンのランとよばれる、アングレクム・セスクイペダレ(学名:Angraecum sesquipedale)があります。
アングレクム属には距(きょ)とよばれる筒状の器官があります。この植物の距は、とても長いことが特徴です。距の奥には、蜜線があります。
ダーウィン(ウォレスという説も)は、この植物の長い距から蜜を吸いやすいように長いストロー状の口吻(こうふん)を持つ進化した蛾(ガ)が存在すると予測しました。その後、そのような蛾が実際に発見されたそうです。これは、種間で相互作用してともに進化するという共進化の例です。
こちらは、チョウノスケソウの変種(学名:Dryas octopetala var. asitica)です。完新世に突入する直前(約1万3000年前)にヨーロッパが寒冷化した時期である「ヤンガー・ドリアス期」はチョウノスケソウの学名にちなんで名付けられました。
観覧温室を出たのち、その場で解散される方もいらっしゃいましたが、多くの方は植物園の入口まで向かい、そこで解散となりました。みなさまお疲れ様でした。
【観察できた鳥のリスト(全38種)】
カルガモ、マガモ、コガモ、ホシハジロ、キンクロハジロ、ミコアイサ、キジバト、オオバン、カイツブリ、カンムリカイツブリ、イソシギ、カワウ、アオサギ、コサギ、ハイタカ、トビ、カワセミ、コゲラ、ハシボソガラス、ハシブトガラス、ヤマガラ、シジュウカラ、ヒヨドリ、ウグイス、エナガ、メジロ、ムクドリ、シロハラ、ツグミ、ジョウビタキ、イソヒヨドリ、スズメ、キセキレイ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、イカル、アオジ、カワラバト