今回は京大生にとって身近な山である比叡山を歩き、植生の観察を行います。中間温帯から冷温帯の移行帯に位置する比叡山で見られる代表的な樹木を観察し、この時期だけ観察できる発芽直後の幼木やシダ植物を観察します。また、1000年以上の歴史を持つ比叡山登山道への理解を深めます。
矢島 隼人(京都大学文学部地理学専修4回)
坂根 駿(京都大学農学部森林科学科2回)
小林 夕莉(京都大学大学院文学研究科地理学専修博士1回)
2025年4月20日(日)9時~
京都府京都市左京区 比叡山
計19名
学部生7名(文4 農1 法1 工1), 院生7名(文3 AA研3人環1), 社会人2名, 研究員1名, 元教員1名, 高校生1名
09:00 白川通北山交差点(イオン前)集合
09:30 登山開始
12:45 山頂付近で昼食
13:15 下山開始、交流会参加の場合は水野邸に移動
15:00 水野邸にて交流会(BBQ)
白川通北山に集合し軽く自己紹介を行ったのち、近世を中心とした山麓の歴史についての解説がありました。現在の京都市左京区に位置し1931年まで存在した修学院村や一乗寺村は扇状地であり、水はけがよく水田には不向きであったため、畑作が行われていました。その畑作に必要な肥料は、明治ころまでは市街地からし尿を購入していましたが、第一次大戦ごろからの都市住民の増加や生活改善に伴い、それまでの農村と都市のバランスが崩れてしまったため1923年から京都市がし尿処理費を支出するようになったそうです。また、100年ほど前の比叡山の京都側はハゲ山で、燃料は滋賀側や大原などから得る必要がありました。 高野村、修学院村、一乗寺村のうち高野村のみが比叡山の滋賀側にある柴の採集権を持っていたため、高野以北から町へ柴売りに来た女性が「大原女」と呼ばれていました。
ハゲ山であったころの比叡山の姿に思いを馳せながら、現在は深い緑とコナラの新緑、そしてヤマザクラのピンク色に彩られている比叡山の方向へ、ひとまず登山口を目指します。
京都側の最も主要な登山道である雲母坂の入り口、雲母橋付近では雲母坂(きららざか)という名前の由来、また比叡山の地質についての解説がありました。雲母坂の由来は案内人が調べたところ「雲が発生する坂であるから雲母坂」とする説と「多産する花崗岩に含まれる黒雲母のきらきらした輝きから」という説がありました。また、比叡山の地質について、京都盆地を取り囲んだ山々の地質は、今から二億年余り前に海底に堆積し、その後の地殻変動で山をなしている古生層(主に砂岩、頁岩、チャート)です。しかし例外的に比叡山と大文字山との間の数キロは花崗岩であり、この北白川花崗岩と呼ばれる花崗岩は風化しやすく、侵食されやすいので古生層のところよりも低くなっています。一方で比叡山や大文字山は花崗岩が古生層に貫入した時に接触変成を受けてホルンフェルスと呼ばれる固い岩石となっているので侵食されにくく、高い山が残されています。
いよいよ登山道に入ります。案内人が植物の解説をしながらゆっくりと登っていきます。雲母坂は最初の1㎞ほどは勾配がきつく足元も礫や花崗岩が風化したマサ土で状態が悪いため疲れやすいですが、植物の解説のたびに小休止となるので比較的余裕のあるペースでした。植物の同定については葉の常緑・落葉、互生・対生、単葉・複葉、全縁・鋸歯、分裂・不分裂など基本的なポイントを確認していきます。登山道周辺の樹木の種数は多くなく、アラカシ、コナラ、シラカシ、クヌギ、アベマキ、サカキ、ヒサカキ、アセビ、ネジキ、モチツツジ、ヤマザクラ、ソヨゴ、シキミ、スギ、モミ、ヒノキなどが多く見られたほかヤマハゼやアワブキ、イヌガヤが少数見られました。
案内人が手に持っているものはシダ植物のオオバノイノモトソウです。シダ植物には花や実はなくコケ植物と同じく胞子で増える隠花植物です。シダの生活史には胞子体と前葉体があり、普通に見られる「シダ」の状態は胞子を散布するための胞子体の時期です。前葉体とは配偶体とも呼ばれ、胞子が湿った地面に落ちて細胞分裂を繰り返してできる1cmほどのハート型のからだですが、今回見つけることはできませんでした。前葉体で卵子や精子が作られ受精し成長すると、胞子体に成長します。シダ植物を見分けるうえで重要なソーラス(胞子嚢群)を観察しました。
道中にはスミレ、アセビの花、満開のヤマザクラなど春を感じさせる植物が多く見られました。また、この時期にしか観察できない実生(発芽したばかりの稚樹)も見ることができました。天気は曇りのため直射日光もなく快適な気温でした。
左上はアセビ(馬酔木)の花、真ん中上はウリハダカエデの幼木、右上はウリカエデの実生(種子から発芽したばかりの植物)です。ウリハダカエデは雌雄異株ですが、オスが成長して種子をつける十分な栄養が確保できるとメスになったり、オスの栄養状態が悪くなるとメスになったりすることが知られています。
写真は登山道中に落ちていた花崗岩です。写真では分かりづらいですが黒光りしているのが黒雲母、半透明に見えるのが石英、白っぽいのが斜長石、ピンク色っぽいのがカリ長石です。花崗岩は深成岩なので等粒状組織を持っています。また、標高650m付近でホルンフェルスを観察しました。
登山道中には多くのスギが倒れているのが確認できました。スギは根が浅く、またシカの採食圧によって下草が壊滅していることから土壌が動きやすくなっていることもあり、台風などの強い風があると比較的簡単に倒木してしまうと考えられます。
イロハモミジの新緑はアオモミジとも呼ばれます。同時期にみられるのが花で、両性花と雄花が混在する満開のイロハモミジが見られました。
比叡山は双耳峰であり山頂は東の大比叡(848m)と西の四明ヶ岳(839m)の二つあります。昼食は四明ヶ岳の近くの無線中継所の前の展望広場で食べました。10時頃に雲母坂をスタートしてから3時間、無事に再びコンクリートの地面を踏むことができました。今回は予定では山頂(大比叡)まで向かうつもりでしたが、夕方から天気が崩れるという予報だったため昼食を食べ終わった後はそのまま水野邸へ向かいました。
下山前に、展望広場にて集合写真を撮りました!
春になり暖かくなったので恒例のBBQを行いました。途中強い雨に見舞われるハプニングもありましたが秘蔵のテントのおかげで雨をしのぎ、無事に終了することができました。お疲れさまでした!!