寒そうにするめぐるちゃんとそれをうかがうヨウくんのおはなし。
2023/11/5、Twitterからの再掲です。
「う〜〜やっぱり最近寒くなってきたな…」
季節は気づけば夏から秋、冬に差し変わり始めていた。
子供は風の子、というけれど季節の変わり目には逆らえないもので。
ちょっぴり自分の体を縮こませながら、じむしょの方へ向かっていく。
こうして相変らず風通しのいい服装をしているから、こんな風景は風物詩のようで、私のこうした姿を見てみんな「もうそんな季節なんだね〜」とか、「衣替えしなくちゃ」なんて言っていたっけ。
「はぁ、じむしょについたら暖かい飲み物でも買おうかな…さすがに寒いや」
寒さを忘れられるように、着いた先にある暖かさに思いを馳せていく。
イルミネーションの準備に勤しんでいる街並みを横目に、小走りをした。
……
「やっとついた〜!こんにちは!」
「やっほ〜めぐる。今日も元気そうだねぇ」
じむしょのドアを開いて、アシスタントさんと挨拶をかわす。
「今日の予定ってどんな感じだったっけ?」
「えーっと、今日はスタジオでヨウくんと撮影があるよ〜。まだ時間あるし、ゆっくりしてていいからね」
「はーい」
そう言って、私は自販機に向かう。
暖かい飲み物が置いてある自販機は、寒い季節にしか見ないから、なんとなく特別感を抱く。ちょっぴりワクワクするんだ。
「─くしゅんっ…」
窓のすきま風に当てられて、くしゃみが出る。
…やっぱりさむい。防寒をするべきだった。
とりあえず暖かいものを飲もうと、自販機のボタンに手を伸ばす。
…あれ?暖かい。
まだ飲み物を買っていないのに。
その違和感にふと辺りを見ると、自分の肩に黒いジャケットがかけられている。
このジャケットの持ち主は、間違いなく─
「ヨウくん!?」
「ちゃんと暖かくしろっていつも言ってるだろ、まったく…」
やれやれと彼は息を吐く。
「ご、ごめんって…」
「後でちゃんと返してくれよ」
「わかってるよー!借りパクなんてしないもん!」
もう!ヨウくんってば!なんてジタバタしていたら、ヨウくんに素通りされてしまった。
ヨウくんのジャケットを強く握りしめて、思わず笑顔がこぼれる。
「ヨウくん、ココア飲むかな」
私は両手にやさしい温もりをしっかりと握りしめて、また歩き出した。
……
「もー、ヨウくんも人のこと言えないんだから〜…」
ラウンジに向かうと、ヨウくんが半袖の姿でスマホをいじっている姿があった。
面倒くさそうなフリして、お人好しなんだよね。
それも、みんながびっくりしちゃうくらい。
「ヨウくーんっ!」
私はそのまま勢いよくヨウくんに後ろから抱きついた。
「うわあっつ!なにすんだよ!」
「ヨウくんも人のこと言えないねぇ、なーに半袖で過ごしてるのさ〜」
「はぁ…それはめぐるがいつもいつもこんな季節になっても暖かい格好をしないからで…!」
「ヨウくんが寒くなっちゃうのも、ヤダなぁ〜はい!これあげる!さっきのお礼!」
私はヨウくんにココアを渡す。
「お礼なんていいのに…まぁ、ありがとう…」
少し口元が緩んだヨウくんにつられて、私もにっこりと笑う。
「……ヨウくんと踊れないのは嫌だから」
「やっぱりみんなと踊るのも楽しいけど、ヨウくんと踊るのも大好きなんだよね」
たどたどしい口調で言う。ちょっと恥ずかしい。
「めぐる…」
ヨウくんと踊ることは、私の中でとっても大切だってことは、言わない。
恥ずかしくて仕方がないから。
こんな季節に吐き出しちゃったら、きっとこんな言葉は、霧に変わってしまう。そしたら、キミには届かないから。