希う少女にさよならを
希う少女にさよならを
某超感覚音ゲーとのクロスオーバー。
・1
「ここは…」
少年が目を覚ますと、そこは知らない世界だった。
目の前には、大きな城がそびえ立っている。
それにもかかわらず、自分以外は誰一人見当たらない。
「剣の国での決闘に負けて、それで…ダメだ、何も思い出せない…」
思い出せるのは、目の前が真っ暗になる直前のことだけだった。
無謀な戦いに巻き込まれ、挙句の果てに負けてしまったこと。それだけ。
自分自身の姿を見ると、服が変わっていることに気がつく。
「やっぱり、ここは違う所なんだ」
今は訪れる場所に習って服が変わるという不思議な力に感謝した。
白いレースが幻想的なローブに、シャツには青いバラとリボンタイが添えてある。
「城も立っているのに、誰もいないだなんて…荒廃した街なのかな」
きっとここが、僕の次の旅先なんだと、己の足を動かし始めた。
どこかで、リンリンと綺麗な音が鳴いていた。
・2
過負荷した世界と離された手
何も無い、美しい世界に佇む2人。
それを夢で見るようになったのはいつからだろう。
素敵な記憶に見出された白い少女。
残酷な記憶に囚われた黒い少女。
そのふたりの行く末を、ページをめくるかのように見ていた。
現実の時間が進むほど、彼女達の旅路もさらなる展開へと進む。
白い少女は、ひとりぼっちだった世界で見つけた黒い少女に手を伸ばす。
この世界の孤独を明かすため。
それとも、単純な好奇心かもしれない。
白い少女はよく僕に似ていた。
誰にでも手を伸ばして、にっこりと笑う。
大丈夫だよ、と声を放つ。
黒い少女はそれを拒んだ。
冷たい目でそれを見ていた。
ずきり。
僕は胸が痛くなった。
まだ知らなかったんだ。
この世界には様々な人がいて、全員とは分かり合えないこと。
そして、関わりたくない人もいるということ。
白い少女は寂しそうにこちらを見ていた。
「あなたも、1人なの?」
「...僕は」
僕のことをよく思ってくれる人はいる。
でも、心の奥底の穴は埋まることは無い。
ずっと、心の中では独りだ。
白い少女は傷つき、悲しんだ。
黒い少女との激しい戦いは、やがて世界を巻き込む事態となってしまう。
「いやだ、いやだよ...」
白い少女の壊れそうな声に、僕はただ何も出来なくて。
「ごめんね」
彼女の涙を拭いて、そう言った。
キミが、あまりにもやるせない自分に似ているから。
自分すら救えない、どうしようも無い僕に。
「そんなことないよ。むしろ、こんなものを見せてしまってごめんなさい。」
彼女は僕の手を取り、優しく笑った。
お願いだから、そんな顔をしないでくれ。
苦しいんだろう。逃げ出したいだろう。
キミは強い。だから、行くんだね。
「キミと話せる理由は、よく分からない。でも、きっと意味があると思うんだ。」
「そうだね。少し、楽になったよ。ありがとう。」
その言葉が、僕と彼女の最後の会話だった。
次にこの世界に来た時。世界が壊れてしまった。
あまりにも美しく、息を飲むほどに。
きっと、2人の力に耐えきれなかったんだろう。
儚い夢だった。そうだ、所詮は夢だったんだ。
それなのに、どうしてこんなに胸が痛くて苦しいんだ。
目が覚めて、無性に流れる涙を拭いた。
離された手を何度も伸ばす様に、僕もそんな底の尽きない希望を見い出せる時が来るのだろうか。
今はただ、そう願うことしか出来なかった。
・3
希う少女にさよならを
いつか見た、夢の続き。
白い少女と、黒い少女の物語。
そんな夢を見ていたこともいつしか忘れていた。
久しぶりに訪れた憂鬱な気持ち。
それはもうどうしようもないくらいで。
ああ、今日はもう全て忘れて寝てしまった方がいいだろう、そうしよう。そんなふうに言い聞かせて、布団に潜り込んだ。
カラン、カラン…と綺麗な音が聞こえる。
「…ねえ…」
その声で意識が覚めた。目の前にいたのは、いつかの夢で見た白い少女だった。
「キミは、あの時の…大丈夫だった!?」
彼女のいた世界が壊れてしまったのを最後に見たのだ。僕は心配で声をかけると、彼女は静かな声で呟いた。
「私は、大丈夫なの。でも…あの子を…」
「…そうだったんだね…。」
どうやら、助かったのは白い少女だけだったようだ。彼女はその場に崩れ落ちて、そのまま泣き出してしまった。無理もない、自分一人だけ取り残されて、この世界でひとりぼっちだなんて。
「でも、どうして僕はここに…?」
「謝りたくて。貴方を巻き込んでしまったから。ごめんなさい。」
彼女は涙を拭いながら、頭を下げた。
「そんな!キミは悪くないよ。どうやってこの世界に来たのかも分からないし…」
「いいえ、私はわかるの。貴方は、来るべきじゃなかった」
「…どういうこと…?」
「ここは、来るべき人が導かれる場所。
貴方はたまたま、その"来るべき人"の条件を一時的に満たしてしまったみたい。つまりは…事故みたいなものかも」
「そう、なんだ…」
「貴方はこのまま見つけた"希望"を失わずにいて。お願い。貴方は…ここではずっと辛い思いをしてしまうと思うの。」
そうやって、彼女が祈ると、小さな扉が現れた。
「このドアを抜ければ、貴方は元の世界へ帰れるよ。…ねぇ、可愛い妹ちゃんのためにも、帰ってあげて?」
「…流諳のことを知っているの?どうして…」
「早くしないと扉が消えちゃう。本当は、色々話したいけど。それでさえも貴方を傷つけてしまうから」
彼女はそのままドアを開き、僕の背中を強く押す。
「ごめんなさい。見届けてくれてありがとう。……始諳くん。また、どこかで」
「わ、うん、またね!」
悲しそうに手を振る彼女に答える。
─貴方には、生きていて欲しいの。お願い。
まだ、ここには来ちゃダメなの。
本当に、不思議な夢だった。
でもきっと、明日からは前を向いて生きていける。
そんな気がするんだ。もう二度と、僕のせいで流諳にあんな悲しい顔をさせたくないから。