始諳くんとParallax
ずっと、月が好きだった。
暗い世界の中で黄金に輝くそれが、自分の心のように見えたから。
日毎に形を変えるのもまるで揺れ動いて留まることのない、感情のようで。
青から紫へ移り変わる空は眩しくて、時々早めに顔を出す月もとても好きだった。
プリズムが煌めくのを背に、ひとり泣くこともあった。
それはあまりの美しさに息を飲んだだけでは無い。こんなに美しいのに、こんなにやるせなくて空っぽな自分が嫌になってしまったからだろうか。
ああ、出会ってしまったんだ。最初の印象はそれだった。
生きてきた中で、たくさんの音楽と出会って心を揺さぶられ、文字通り愛してきた。
風のように目まぐるしく揺れ動く音。
初めの一振のギターで、ハッとした。
今までこんなに胸が熱くなるギターは聴いたことない!
ギターを演奏してきた身としても、音楽を愛している人としても。
こんな風にギターが演奏できるようになったら、どれほど幸せなことだろう。
救われてしまった。たった、1分48秒で。
今まで抱えていた重苦しいものを、全て手放せたような気さえする。
自分の中にくすぶって、鎖のようにのしかかるものさえも吹き飛ばし、燃やし尽くしてしまう光。いや、この勢いは嵐と言ってもいいかもしれない。
僕にとって、「一生を誓いたいと言える」という感情が溢れるのは、これが初めてだった。
そう、これが分岐点。
僕が愛してやまない奇跡との出会い。
そして、いつか出会う星との、始まりの物語でもある。
「これは...」
あっという間の、1分48秒。
あまりの衝撃に、手が震える。
この音は。炎のように湧き上がって、剣のように真っ直ぐで貫く音は。
とんでもないものに、僕は出会ってしまった。
「Parallax......HuΣeRさんとあとは...零さん。知らない方だ...調べてみよう」
無我夢中で、その曲を何度も聴きながら指を動かす。
「...ギタリストなんだ...」
初めて知った、ギタリストの彼。
僕はふと自分のギターに目をやっていた。
もし、彼のような熱いギターが弾けたなら。
今の自分のように、誰かの心を射止められたら。
今まで、父さんに誘われて始めたギター。
のらりくらりと続けていても、部活などに所属して演奏する気はなくて。
でも、この前にもとあるギタリストとの出会いで、少しづつ動き始めた思い。
その火がつき始めたそれが、風を受けて燃え上がる。
「...僕も、この人みたいに」
向き合いたい。僕の心を掴んで離さないそれと。
僕が愛してやまない音楽と、それに込めた自分の気持ちを、ちゃんと証明できたら。
僕は、思うがままにギターを掻き鳴らす。
「全てを覆すような、熱い熱い音を─!」
初めて僕が音楽と向き合った日。
永遠に消えることのない、炎が宿った。