2024/10/1 Twitterから の再掲。
アイスダンスをするめぐヨウ。
ダンアラ世界に、期間限定でスケートリンクができたみたい。そこでパフォーマンスをするために、スケート未経験のめぐるちゃんががんばるお話。
「最初から上手くできる人なんていない」
「そうやって、楽しむことが出来るのがめぐるの凄いところなんだ。だからきっと、大丈夫」
寒くて晴れた日に、ちょっとした知らせがあった。
「スケートリンク!?」
「そうなんだよ〜、期間限定で広場にできたんだって」
そうやってアシスタントさんはスケートリンクのチラシを見せてくれた。
「へぇ、いいじゃん」
ヨウくんは珍しく乗り気らしい。
「で、今回2人にお願いしたいのは、そのスケートリンクでのパフォーマンスなんだ」
アイスダンス。1組の男女が氷場で踊るもの。
「面白そうだけど、私スケートってやったことなくて…」
私はスケートを始め、スキーやらのウィンタースポーツとは縁がない。冬は寒いからおうちでのんびりする派だ。
「確かヨウくんって、スケートやったことあるよね?」
「まぁ、そうです」
「じゃあ、めぐるちゃんに教えてもらえる?」
「え」
拒否権がない。
「わかりました」
「え、え!?」
アシスタントさんはヨウくんの返事を聞くと、嬉しそうに手続きを始めた。
「じゃあ2人とも、よろしくね〜」
「え、えええ!?私やったことないんだけど」
「いいじゃん。楽しいよ?」
そんなこんなで、私はヨウくんとアイスダンスをすることになった。
………
「うう、怖いよぉ…」
ついにやって来てしまった。
私が初めてリンクに降り立つ日。
リンクに入った私は、怖くてヨウくんにひっついている。
「ちょっと、動けないって」
「やだよぉ、離した拍子に転んじゃいそうだもん…」
ヨウくんはやれやれと息をつく。
「リンクの端に手置けばいいじゃん」
「それとこれは違う〜!!!」
嫌だという意志を伝えるために、頭を振る。
「そうだな…」
するとヨウくんは私の腕を掴む。
「そんぐらい騒げるならいけるだろ。まずは肩慣らしからだな。レッツゴー」
「へ?」
そのままヨウくんは走りだしてしまった。
「いやあああああああああ!!!!」
その後、ヨウくんに連れられて何周かリンクをグルグルしたんだけど…
「どうだった?」
「初めはちょっと怖かったけど、たのしかった……!!」
「そうか、ならよかった。これからちゃんと練習もするからな。俺たち遊びに来てるわけじゃないんだし…」
「そうだった、パフォーマンスしなきゃだった!!」
リンクの休憩所で息をつきながら苦笑いをする。
「おつかれ〜!2人とも調子どう?」
「差し入れ持ってきたぜ〜」
アシスタントさんから私たちの噂を聞きつけ、みんなが遊びに来てくれたみたい。
ロングちゃんから2本のドリンクを受け取る。
「ありがと〜」
「めぐる、初めは怖がってたけどなんとかなりそうだよ」
「そっかそっか、ちょっと意外かも。初めからノリノリでやりそうなのに…」
「そうなんだよ。それを忘れちゃいけない。これからしっかり体に叩き込むからな」
「ひぇ、よろしくお願いします………」
………
それから、ヨウくんとわたしのアイスダンスのレッスンがはじまった。
ダンスは経験してるとはいえ、なれないリンクと重いシューズ、氷上を滑るという感覚に振り回されている。
いまは一休みして、ヨウくんの自主練を眺めているところ。
いつものハキハキとした動きに、優雅さが合わさり、普段とはまた違った雰囲気を纏っている。
「キレイだなぁ…」
「そんなにじっとみてても何も出ないよ」
「わ!!びっくりした…!!」
「ずっと見られてたらさすがに気になるって」
どうやら、休憩中ずっとヨウくんのことを見てたみたい。
「ほら、再開するぞー」
「はーい!」
そんなヨウくんの隣に、私が立っていいのだろうか。
ヨウくんと一緒に踊れるくらい上手くなれるのだろうか。
そんな思いが、私の中で小さく渦巻きはじめた。
「もっとうまくならなくちゃ」
失敗するたびに、そう言い聞かせる。
強く伸びきった緊張の糸の行方も知らずに。
………
「めぐる!!!!」
はっきりと記憶がある時には、既に氷の上に体が触れていた。
私はバランスを崩し、大きく転んで滑ってしまったみたい。
「大丈夫…じゃないよな、ああ、捻挫してるかも……すぐに冷やさなきゃ…!!」
「ごめんね、ヨウくん、足引っ張っちゃった」
「めぐる……」
私の名前を呼んだ彼は、何だか寂しそうな、悲しそうな目をしていた。
事務所に戻って、手当をしてもらった。
みんなに心配されて、しばらく休むようにいわれたの。でも本当はもっと練習したかった。ヨウくんについていけるようになりたかった。
家に帰った途端、涙が止まらなかった。
私はどうすればいいんだろう。
みんなと踊ってた時は、あんなに楽しかったのに…。
今は苦しくて、怖くて、気がつけば息をするのも忘れるくらい急いでる。
アイスダンスの練習で楽しかったのは、初めの日にヨウくんが引っ張ってリンクを何周もしてくれた時。色んなことを知って、ちょっとだけでも踊れるようになった時だったかな。
今の気持ちは、考えたくもない。
溢れ出しそうな感情を何とか抑えて、布団に入る。
今まで何度も失敗して壁にぶつかってきたのに、どうしてだろう。
今は大丈夫だと思えなくて。
ため息だけが、増えていった。
………
しばらくして、少しづつ体の調子も戻ってきたある日のこと。
みんなに誘われて、広場で遊ぶことになった。
「めぐるー!こっちこっちー!」
短髪くんの声に導かれ、私はみんなの元へ向かう。
「あのねぇ、あんまり無理させちゃダメだからね?」
「わかってるって!」
いつものように心配しつつ、笑顔で接してくれるロングちゃんやみんなに、どこか安心している自分がいる。
公園にはすっかり雪が積もっていて、女の子組は雪玉を転がしたり、ほかの男子たちは楽しそうに雪玉を投げあっていた。
「めぐる!待ってたわよ〜」
「えへへ、心配させちゃってごめんね」
ツインテちゃんが不器用そうに笑う。
「これは?」
ツインテちゃんの足元には少し大きな雪玉があった。
「みんなで雪だるまを作ってたの。一緒にやりましょ!」
「いいのー!?やったあ!」
そんなこんなで、私はみんなと雪に触れながら、私がいない間のことや、いつも通りダンスの話をしたりして過ごした。
「めぐる、」
「あれ!?ヨウくん、いたの!?」
みんなで作った雪だるまなんかを写真にとってそろそろ撤収しようか、なんて話になっていた。今までヨウくんの姿はなくて、いつの間にか私に声をかけてきたのだ。
「うん。打ち合わせがあったからだいぶ遅くなったけど」
「なんですぐ言ってくれないのー!もう!」
「それは、」
私の声で彼の顔が少し曇っていく。そのままマフラーに顔を埋めて、何かを隠しているみたいだ。
「めぐるに、会うのが怖かったから」
「…へ?」
「だって、俺がアイスダンスをやるって決めて、めぐるにプレッシャーをかけてしまったから…めぐるが怪我をしたのは俺が元凶と言っても過言では無いだろ?だから、会ったらめぐるにまた重荷を背負わせることになって……ごめん…」
ヨウくんが、私にプレッシャー?
私に重荷を背負わせてる?
「…あはは!なにいってるの!へんなの!」
絶対、そんなことない。
だって私、ヨウくんと練習するの、すごく楽しかったんだよ。
一度も嫌だなんて思ったことない。
確かに失敗も沢山して、既に怪我もしちゃったけどさ。
でも、ヨウくんのせいだとか、私のせいだとか、なんにも考えたことないんだ。
「…は?」
「私がそんなこと、言うわけないじゃん!」
私は、ヨウくんのまえで今度のアイスダンスで使う技を披露した。
ひらひらと動く私と、それを見て少し涙を浮かべちゃうヨウくん。
「もう私はいつでも大丈夫だよ!」
「…ああ、やっぱり俺の悩みすぎだったみたいだ!」
ヨウくんは照れくさそうに頷く。
「ヨウくん、最高のパフォーマンスにしようね!」
………
それから、しばらくして。
私たちがアイスダンスを披露する日がやってきた。
ステージ前の一呼吸。
心臓の音が鳴り止まない。
私とヨウくんは、いつもとはひと味違うアイスブルーの衣装に身をまとい、その時を待つ。
「…やっぱり、すごいな」
「なにがー?」
ヨウくんが私の姿をじっと見て言う。
「そうやって、楽しむこと。ずっとニコニコ笑っててさ。なんか、いいなーって思った」
「なんか最近素直だ〜!!」
「う、うるさい!ほら、行くぞ」
ヨウくんは私に手を差し伸べる。
「うん!」
そして私は彼の手をとる。
ひたむきで、ずっと爽やかで。
どんなことが起きても、大丈夫。
それはきっと、ひとりじゃないから。
自分のことを信じて、手を離さないでいてくれるからかもしれないと思った、とある冬の日。