ゲノム解析が解き明かした“他人の空似” ―孤島で見つかったツツジは新種だった―
ウラジロヒカゲツツジは関東地方の岩山に稀産する常緑性のツツジです。このツツジは西日本に広く見られるヒカゲツツジの変種として記載され、長らく日本固有の植物だと考えられてきました。ところが2015年、朝鮮半島南方の無人島から本種が発見されたという報告が韓国からなされ、日本の植物研究者を驚かせました。1100kmも離れた孤島での発見だったからです。しかし報告論文に掲載された写真を見ると、生育環境や形態にウラジロヒカゲツツジと異なる点があったため、詳細な比較研究を行うこととなりました。
日韓の研究者が協力して「ウラジロヒカゲツツジ」の比較ゲノム解析を行った結果、韓国で見つかった植物は約260万年前に日本のウラジロヒカゲツツジと分かれた未知のツツジであることが明らかになりました。そこでこのツツジにチョウセンヒカゲツツジ(学名:Rhododendron tyaihyonii S.Sakag., H.J.Choi & S.C.Kim)(下図A)と名付け、2024年に新種報告しました。
いっぽうのウラジロヒカゲツツジ(下図B)は関東地方のチャートや石灰岩の岩場に自生し、ヒカゲツツジ(下図C)と側所的に分布します。ゲノム分析の結果、この2種間で遺伝的交流は途絶えており、生殖隔離が成立していることが判明しました。ウラジロヒカゲツツジはヒカゲツツジの変種として位置付けられてきましたが、本研究の結果に基づいて独立種として新名(Rhododendron kantoense S.Sakag. & Y.Watan.)を与えました。両種はともに白い花を咲かせ、厚くて裏面が白い葉を持つ点でよく似ていますが、進化的起源が異なることから「他人の空似」で形態が収斂進化したと考えられます。
ウラジロヒカゲツツジとチョウセンヒカゲツツジは日本と韓国でそれぞれ500個体未満しか分布しない絶滅危惧種です。遺伝的多様性も極めて低いことから、残された生育地をしっかり保護し、個体数と遺伝的多様性の維持・回復を図ることが望まれます。
・種の特徴:チョウセンヒカゲツツジは樹高50cmまで生長する常緑低木。葉の裏面に鱗片が密生して白く見える点、葉の先端が丸みを帯びる点でウラジロヒカゲツツジに似るが、花序当たりの花数が2-6個と多く(ウラジロヒカゲツツジは1-2個)、葉柄が4-7mmと長い(ウラジロヒカゲツツジは1-3mm)特徴などで区別できる。
・生育環境:海岸沿いの常緑低木林に200個体程度が確認されている。
・分布域:現在のところ朝鮮半島南方の巨文島近くの無人島(Daesambudo島)にのみ知られている。
・タイプ産地:Daesambudo島。
・記載論文:https://doi.org/10.1002/tax.13288
・プレスリリース:https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2024-12-03-1