野生絶滅した不稔植物・コブシモドキの謎
野生絶滅した植物の起源は、元の個体群の記録が限られているため、必ずしも十分に理解されているわけではありません。モクレン科のコブシモドキ(Magnolia pseudokobus C.Abe & Akas.)は、日本における数少ないそのような木本植物の一つです。コブシモドキは、1954年に四国で発見された個体に基づいて記載されましたが、その後、この株は現地から消失しました。現在では、その個体からクローン繁殖で増やされた苗が植物園などで栽培されているのみで、野生絶滅状態となっています。
コブシモドキには不可解な点があります。ひとつは、最初に発見された株以外に野生個体が見つからないこと。二つ目は、樹木には珍しい3倍体の種であり、ほとんど結実しないことです。そこで私たちは、コブシモドキの系統分類学的な取り扱いを明らかにすることを目的として、葉緑体ゲノムの遺伝的変異、核SNP(単一塩基多型)、およびマイクロサテライト遺伝子座の変異を調査しました。
葉緑体ゲノムおよび核SNPマーカーに基づき系統樹を推定したところ、コブシモドキがコブシのサンプルからなるクレードに包含されることが分かりました。また、コブシと隣り合って植えられたコブシモドキから得られた実生を遺伝分析した結果、その実生がコブシとの雑種であることが示されました。これらの結果は、コブシモドキがコブシからごく最近生じた植物であることを示しています。
コブシは国内に広く分布する樹木ですが、四国にはコブシの野生個体群が知られていません。このことを考慮すると、コブシモドキは園芸目的で四国に植栽されたコブシから、偶発的に生じた倍数体変異個体であると考えられます。以上から、コブシモドキはコブシと同種であり、コブシの品種に位置付けるのがふさわしいと考え、2020年に学名・Magnolia kobus f. pseudokobus (C.Abe & Akas.) S. Sakaguchiを提案しました。
・種の特徴:落葉性の亜高木~高木。コブシに似ているが、花の直径が15cmに達するほど大きい。
・生育環境:徳島県の森林で地を這うように生育していたとの記録がある。
・分布域:徳島県の1か所。現在では野生絶滅している。
・タイプ産地:徳島県。
・記載論文:https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/13416979.2020.1767268