DNAから読み解く植物の歴史
植物の多様性は,地球環境の変化や地理的隔離の歴史の中で形づくられてきました。例えば,植物集団が海峡や山脈などによって隔てられると,種子や花粉の移動が制限され,集団間の遺伝的交流が低下します。その状態が長期間続くと,それぞれの集団は独自の進化を遂げ,地域ごとに異なる遺伝的特徴を持つ集団へと分化していきます。
系統地理学(phylogeography)は,生物のDNA変異がどのように地理的に分布しているのかを調べることで,過去の分布変遷や集団分化の歴史を解明する研究分野です。植物では,葉緑体DNAや核ITSなどの遺伝マーカーを用いた研究から始まり,近年では次世代シーケンスによって得られる大量のSNP情報を活用することで,より詳細な集団の歴史を明らかにできるようになりました。
系統地理学では,DNAタイプ(ハプロタイプ)や遺伝的構造を地理情報と組み合わせて解析し,集団の分布拡大や隔離の過程を推定します。さらに,集団遺伝学に基づく人口動態解析,過去の分岐モデル,古環境情報,化石記録などを統合することで,植物がどのような歴史を経て現在の分布や多様性を形成したのかを復元します。
主な研究テーマは以下の通りです。
・広域分布型植物の分布形成史の解明(ユーラシア温帯,アジア熱帯山地林から東アジアの温帯林など)
・比較群集系統地理から探る過去の環境変動史(多雪地帯の植物群集,太平洋側の温帯植物群集など)
・大陸と島嶼での系統分化(小笠原諸島,琉球列島など)