「はくじょう」とよみます。見え方に不安があると、外出が億劫になってしまいます。段差が見えにくかったり、通行人や車や自転車がよけられない、何かにぶつかりそうで恐いと感じることがあるかたは、この道具の機能や役割を知ってお使いになることで、億劫さが軽減でき、外出も少し楽になると思います。
白杖には種類があり、身長に合わせたり、用途によって、その人にとって適切な白杖の選定が必要です。
白杖の部位に名前がついています。手で持つところを「グリップ」、白や赤の棒の部分を「シャフト」、地面に着く部分を「チップ・石突(いしづき)」と呼びます。
グリップから出ているゴムは手に通さないで持ちます。ゴムを手に巻いて持っている時に、万が一、車や自転車のタイヤに白杖が巻き込まれたり、電車のドアなどに白杖が挟まれた時、手を放してご自身が巻き込まれないようにするためです。
白杖を並べた写真
携帯用に折りたたみ式がよいのか?折りたたまない1本杖タイプ(直杖)がよいのか?身体を支える白い杖がよいのか?シンボルとしてだけ使う白い杖がよいのか?
まずは、ご自身の生活スタイルや歩行方法によって、形状を選びます。
車に乗るときや室内で必要ないときには、折りたたんで鞄にしまうこともできます。5段折が一般的ですが、長期に使っていると、つなぎ目に負荷がかかり、がたつきがでたり、杖の中のゴムが緩くなったりすることがあります。白杖には耐用年数があり、白杖の素材によって異なりますが、概ね2年以上経つと補装具として再申請することができます。
生活スタイルで、折りたたむ必要性がない方に良いと思います。折りたたみタイプに比べると、つなぎ目のがたつきもないので、安定してしっかり歩行することができます。
サポートケーンとも呼んでいます。杖の部分が白い色で視覚障害であることを周囲の人に知らせることができ、また、ステッキのような形をしていて、身体を支えるのに適した形状とゴム製の比較的大きなチップがついています。サポートケーンの長さは、調節できるものとできないものがあります。長さは理学療法士からのアドバイスを受けて決めるとよいです。
白杖で2歩先の情報をしっかり取ったり、ガイドラインを伝い歩きするなどの用途ではなく、ご自身が視覚障害があることを知らせ、周囲からの配慮を受けやすくするために持つものです。グリップやシャフトの径が細かったり、石突(チップ)がアルミでできていたり、長さが短く作られている白杖があります。
折りたたみタイプ
直杖タイプ
身体を支えるタイプ
シンボルタイプ
現在、おおよそ4種類の石突が一般的です。人によって表現の仕方に違いがありますが、小さな段差や溝もしっかりわかる感度の良いチップから、ひっかかりが少なく感度を抑えたチップがあります。
ご自身が歩く道の表面のコンクリートに凹凸があったり、砂利や草の多いところを歩くから感度を落としたい、逆に誘導ブロックや側溝の蓋の凹凸をガイドラインとしてしっかり伝いたいから感度が良いチップがよいなど、選択していきます。
スタンダードなチップ
ティアドロップ
ローラーチップ
パームチップ
ご自身の基本の長さはを簡単に知るには、ご自身が平らなところで立った状態で、『地面から脇の下までの長さ』『みぞおちから約3センチ上の長さ』です。
体験用の白杖がある場合は、折りたたみ杖は1本に伸ばして、グリップの先が脇の下に入る程度が、ご自身の基本の長さです。
とても速く歩くかたは、障害物に当って自分が止まるまでに距離が必要なので、少し長めにすると良いです。
また、今お使いの白杖だと、障害物に白杖が当たったらすぐ目の前に電柱があったりして「怖い・・」というかたは、もしかしたら、白杖の長さが短いのかもしれません。長くすると、ご自身と障害物までの距離に余裕が出るので、楽になるかもしれません。歩行訓練士に実際に確認してもらうことをお勧めします。
材質によって、重量感や地面から伝わる伝達性などに差があります。国内と海外のメーカーがあります。メーカーによっても製品の素材が異なります。できるだけ軽いものが良い、ある程度重さのある方がしっくりくる、金属性が好みなど、気に入った素材の白杖を見つけると良いです。
補装具として申請するとき、支給される限度額が決まっています。白杖の値段が限度額未満の場合、一般所得区分の方は、1割負担となりますが、限度額以上の価格だと、1割の自己負担額、プラス限度額を超えた金額が上乗せされます。見積もり書を事業所に依頼するときに、自己負担額を確認することができます。生活保護世帯と市町村民税非課税世帯のかたは、自己負担はなく無料です。
白杖は自費でも購入できますが、補装具の『盲人安全つえ』の分類で指定されているため、お住いの市役所で手続きすることで、費用が助成されます。申請するためには、購入する前に、選定された白杖の長さや種類などが書かれた見積書が必要です。ご自身にあった白杖を探すために、静岡県情報支援センターや歩行訓練士に相談するとよいです。
見積もり書を依頼できる事業所(参考)
基本的には、視覚を十分に使って歩行します。まぶしさがある場合は遮光眼鏡を利用したり、眼鏡で矯正視力を確保することが必要です。視野狭窄がある場合は、どの部分や場面で見えにくいのかを知ることは重要です。
また、視線を遠くにして先の情報を見ておき、足もとは白杖操作に慣れてカバーすると良いです。顔を上げると歩く姿勢もよくなり、さっそうとステキに歩けます。
視野が狭く信号機の位置が見つけにくい場合は、横断歩道の白黒線の縦線、また縦線が無い場合は、横棒の端を見つけ、手前から奥に顎を上げるようにして目線を上げていくと、見つけやすいです。
①シンボル
②バンパー
③センサー
3つの役割のうち、ロービジョンの程度や必要な場面によって、各機能や役割を使いこなしていきます。
また、白杖に何か当たったり、変化を感じた時には、「止まる」「次に足を出す地面を白杖で確認する」という新しい習慣をつけることも技術の一つです。
白杖を持っているだけで、周囲の人に知ってもらうことができます。前からきた人や自転車がよけてくれることもあります。交差点では、右左折してくる車によく見えるように、身体で抱え込むように持たず、少し身体から離しておくと、シンボル機能はより効果が高まります。
身体に障害物を当てないようにするために、杖先が1歩半から2歩先にくるように持ち、白杖を肩幅より少し広めに左右に振るとバンパー機能が高まります。来た車をよけようと、道の端による時には、先に白杖で側溝がないか、柱がないか、白杖を左右に振ってから移動するとよいです。
同じ色の階段や、段差の始まりがわかりにくい場合は、白杖の先を地面につけて左右に滑らせると、チップが段差の変化をとらえ、センサー機能を高めることができます。階段の手前には、黄色い凸上の点字ブロックが敷かれているので、チップから振動が伝わり、段差の1歩半から2歩手前で止まることができます。特に、電車のホーム上は、必ず白杖の先を床につけ注意深く移動することが必須です。また、電車に乗り込むときは、ホームの縁端と車体の床があることを白杖で確認する動作を省略しないようにして、視覚と白杖を併用して、転落事故につながらない歩行をしたいです。
「電車がいるように見える、ひとつ向うの番線かもしれないけれど・・・」「暗かったり眩しくてよく見えないけれど、多分そう・・・」
「あれ、おかしいな」と思ったとき、ご自身の安全確保を考えるタイミングだと思います。一度立ち止まって確認したり、駅員や近くの人に聞くなどすると良いです。
駅を利用する際は、有人改札や切符購入時に、駅員の誘導をお願いしすることもできます。乗り換える駅も伝えると、ホームや路線の違う乗り継ぎも可能です。
無人駅も多い県内では、どの駅にもホームドアの設置は必須です。しかし、すぐに達成することが難しいのも現状です。
ロービジョンのかたには、暗い所や夕方薄暗くなると、見え方が変わるかたがおられます。
勤務先や学校、外出先から帰宅する時など、見えにくい状況で歩く必要があるかもしれません。気を張って緊張しながら歩くのは本当に大変なことです。
夜間だけは白杖をお使いになり、歩き慣れたルートを選び、障害物に白杖が当たったらすぐ止まることができ、状況判断しやすい、ややゆっくりな速度で歩くと良いです。
日中に、夜間歩くルートを良く見ておき、白杖でガイドラインとなり、白杖をあてて歩ける壁や側溝の凹凸を見つけ感触を確かめたり、電柱や蓋のない側溝の位置などを確認しておくと良いです。
道路に街灯があるのか?等間隔に並んだ街灯で明るく見やすいルートを選ぶこともよいです。
車のドライバーや周囲の人にも、ご自身の存在がわかるように、反射板のついたタスキや、発光するライトなどを身に着けることをお勧めします。
また、懐中電灯を利用して、道路の白線を照らすと反射して見やすい場合があります。「見やすさを生む道具達」ページの外出用ライトを参考にしてみてください。
夜間歩行訓練もできます。白杖の基本的な操作方法を知り、学校に通う、就職するなど帰宅時間が夕方以降になるなどの環境変化があったり、現在の歩行の安全やポイントなどの確認に、是非、一度ご検討下さい。
LEDライト
手引き歩行とは、人と一緒に歩く方法です。駅員の誘導を受けたり、混雑しているところや狭い場所、いつもよりちょっと見えにくい時に、人の誘導を受けて歩くと楽な場合があります。
基本姿勢は、誘導する人の肘の少し上を軽くつかむ方法と、肩に手を置く方法があります。当事者の方は、誘導する人の半歩後ろに位置することがポイントです。誘導する人と同じ立ち位置にいると、段差の前でご自身だけ前に出てしまわないようにするためです。
親しい間柄であれば良いですが、手を繋いだり、腕を組んだり、抱えられるような恰好は、自然な見た目ではないですし、初めて手引きを受けるには抵抗があります。また、当事者ご自身が危ないと思った時には、ご自身から誘導者から離れることができます。
周囲の人が親切に「何かお手伝いしましょうか?」「手引きをしましょうか?」と声をかけてくれた時に、ご自身で、時には必要のない場合もありますよね。そのような時には、「今は大丈夫です」とお断りしてもよいのです。
静岡県内では県の事業として、白い杖を持っている方で困っている様子を見かけたら、声をかけることができるように、高校生を中心に「静岡県声かけサポーター」も養成されています。声を掛け合える優しい社会を、静岡県民みんなで作っていけたらいいですね。
また、障害福祉サービスに「同行援護事業」があります。研修を受け認定された従業者(ガイドヘルパー)が、手引き歩行などで、自宅から目的地までの公共交通機関の利用を含めた移動と、目的地での移動を安全に移動します。また、必要な視覚情報をお伝えし、外出先での活字の代読や、代筆なども行います。例えば、市役所での手続きや、通院、買い物、会議、レクリエーション活動などです。通学や通勤には利用できません。
利用するには、お住まいの市町村の窓口で利用の申し込みが必要です。
見えない見えにくい当事者の実際の生活には工夫がいっぱいです。それぞれのかたの工夫やアイディアをまとめ、誰でも共有でき、そして、ご自身の工夫も投稿できる『ロービジョン裏技まとめ』があります。是非、活用してみてください。
【管理・運営:静岡視覚障害者福祉推進協議会】
歩行訓練は、白杖の使い方や視覚の使い方、見えにくい状況で聴覚や足裏感覚も使って、安全な状況か判断をしたり、まっすぐ横断するための方向定位などの方法を練習します。そのほか、他の人の腕を借りて歩行する手引き歩行や、人に道を聞いたり案内をお願いするときの援助依頼方法、または、必要ない援助を上手に断ったり、背中を押されるなど、正しい手引き誘導でない援助を受けた場合に、安心して誘導してもらう方法に変えてもらうことも練習します。
ロービジョンの方の中には、白杖を持つことに強い抵抗感がある方がおられます。しかし、白杖は折りたたむことができ、バスや電車に乗るときや、横断歩道、暗い場所だけ広げて手に持つだけで、周囲に自分の存在をわかってもらい、周囲からの配慮を得ることで、ご自身の安全性が高まることや、ご自身も歩行が楽になるかもしれないと、お知らせください。
歩行訓練士とは、見えない、見えにくいことで歩行や移動が困難になった方へ支援を行う専門家ですが、多くの歩行訓練士は歩行だけでなく、コミュニケーション(PCや点字など)、日常生活動作(調理や掃除など)の支援も行っています。
現在、静岡県歩行訓練士会には14名の歩行訓練士が在籍しており、我々歩行訓練士がご自宅に訪問し、その方の生活の中でのお困りごとを一緒に考える在宅型の事業がありますので、少しでもお困りごとがありましたら「静岡県視覚障害者情報支援センター」までお申し付けください。