220922 植田譲先生

22/09/22 東京理科大学工学部電気工学科 植田譲教授 研究室HP

東京理科大学 植田先生に学ぶ家づくり!『脱炭素の鍵は太陽光』編~変わりゆく電力事情、脱炭素化と太陽光発電~ Youtube

住宅用太陽光発電の現状と課題に関するまとめ

  • 太陽光発電はプロダクトとして完成している。いまや一番安価な発電方法なっており、使わない手はない

  • 太陽光の大容量化が進んでいる 今後は家電込みのリアルZEHやEV充電までカバーする容量が求められる

  • 工務店が積極的に自社設計・施工とすることで、低コスト化を図るとともに、メンテにも責任を持つべき

  • 中国製パネルに伴う人権問題の懸念は、米中の貿易摩擦から問題化した面がある 国がトラッキングできる仕組みや認証制度を整えるべき


太陽光の経済性やLCA(Life Cycle Accessment)評価について

(前)太陽光発電について、「発電の余剰分の売電単価が下がっているので採算がとれない」という意見をよく聞きますが、太陽光発電の経済性に関してご教授願います。

(植田教授)住宅用では太陽光発電はすでに最も安い発電方式になっています。5年前は初期コストがまだ高かったのでFIT(固定価格買取制度)による支援が必須でしたが、いまやFITなしでも採算がとれるほど初期コストが低下しています。初期コストを発電量で割った電気単価としては20円/kWhを切ってきているので、普通の電気よりずっと安価です。今や一番安い発電手段となった太陽光発電を使わない手はないと考えます。

(前)経済性の前提となる太陽光の発電量は妥当に推定されているのでしょうか。

(植田教授)日本では、太陽光発電の発電量は「JIS C 8907 太陽光発電システムの発電電力量推定方法」に基づいて算出されますが、特に大きな問題はないと考えています。むしろ、算出において一般に用いられているNEDOの日射量のデーターはMONSOLA-11など少し古いバージョンだと1990-2009年の統計期間となっていますが、最近は日射量が増加傾向にあります。なので、以前のNEDOの日射量データから推定した発電量より、実際の発電量は多くなる傾向にありました。

NEDO 日射に関するデータベース

NEDO 日射量データベースの解説書

太陽光発電については、pveducationのサイトがよくまとまっているので、詳しく知りたい人はそちらを参考にするとよいと思います。特に、パネル温度は発電効率に影響が大きいです。

pveducation

Nominal Operating Cell Temperature


(前)「太陽光発電は製造時のCO2やエネルギー消費を回収できない」という意見も聞きます。

(植田教授)数十年前に人工衛星に搭載されていた太陽光発電は製造時のエネルギー消費が非常に大きかったのは事実です。しかし今では、2年程度の発電で製造時のCO2・エネルギー消費を償却できるとされています。広く普及している結晶シリコン系の太陽電池のLCA評価はすでに結論が出た話なので、最近では研究事例も少なく、新しいタイプの太陽電池に研究対象も移ってきていると思います。

産総研 太陽光発電のエネルギー収支

産総研 [Q&A]太陽光発電のEPT/EPRについて

NEDO 太陽光発電システムのライフサイクル評価に関する調査研究報告書

Life cycle assessment and cost analysis of very large-scale PV systems and suitable locations in the world

(前)大昔の情報に惑わされてはいけないということですね。

植田教授)技術の進歩が速い分野では、常に最新の情報にアップデートすることが、非常に重要です。


住宅用太陽光発電の歴史について

(前)住宅における太陽光発電の歴史について、ご教示願います。

植田教授)2000年以前までは、太陽光発電の設置に関する補助金はありましたが、決して儲かるものではありませんでした。太陽光発電は環境にはやさしい電源として、環境に関心が高い人が自己負担で導入する「エコな電源」でした。設置の補助も2005年に終了し、再度のテコ入れとして余剰電力の高額での買取制度が2009年からはじまると、自分で使いきれなかった余剰電力をどんどん売って収入を得る「売って儲かる電源」に変わりました。その後は余剰電力の売電単価が下がるに従い、自分で自家消費することがメインとなり「自分で使う分を賄う電源」に変わってきています。

(前)太陽光発電も大きく変わってきたのですね。太陽光発電の品質はどうだったのでしょうか。

(植田教授)日本で設置補助金が終わった2004以降、欧州での急激な導入拡大により、中国を含む海外企業により太陽光発電の増産が世界的に本格化します。日本企業もコストダウンに取り組みますが、一部の企業で品質低下に伴うトラブルが起きたという話は聞いたことがあります。もちろん一貫して品質確保に努めてきた企業もありますし、現在ではこうした品質上のトラブルはほとんどないと考えています。結晶シリコン系の太陽光発電は「プロダクトとしては完成している」のです。

(前)太陽光発電も長い経緯を経て品質が確立しているのですね。

植田教授)太陽光発電の火災は現状でもPPM(百万に1)レベルほどわずかです。さらにゼロに近づけるべく、さらに検討を進めているところです。

消費者庁 住宅用太陽光発電システムから発生した火災事故等

出展:エコハウスのウソ2(日経BP)

太陽光発電の適切な容量

(前)住宅用の太陽光発電のトレンドはどうなっているでしょうか。

(植田教授)大きな流れは大容量化ですね。以前は発電容量が3~4kWくらいだったのが、最近では5~6kWが主流となり、さらに7~8kW設置する事例も増えてきています。経産省のゼロエネルギー住宅(ZEH)は家電を除いた消費エネルギーを太陽光発電で賄えばよいことになっていますが、7~8kWの太陽光発電を載せれば家電分も含めた家全体のエネルギーを賄える「リアルZEH」を実現できます。さらに8~9kWの太陽光にすれば、使い方によっては電気自動車(EV)の充電までまかなうことが可能です。太陽光パネルの発電効率も向上しているので、以前よりも大容量化が容易になっています。


太陽光の普及に向けた課題

(前)さらに多くの住宅に太陽光発電を普及させるためには、何が課題でしょうか。

(植田教授)家を施工して販売する工務店が、太陽光発電についても設計・施工、そしてメンテナンスを自社で行ってほしいと考えています。専門業者に外注するのではなく、工務店が自社で設計・施工することでコストダウンができますし、その後の品質保証とメンテナンスにも責任を持てるようになります。せっかく屋根の防水を丁寧に施工しても、他の設置業者が太陽光を施工するのであれば、雨仕舞に不安が残るのは理解できます。工務店の人たちには、太陽光発電を住宅の重要な部位として、責任をもてる形で取り組んでいただければと思います。


蓄電池について

(前)蓄電池はいかがでしょうか。

(植田教授)蓄電池に昼の太陽光の電気を貯めて夜使えば、系統からの買電を減らすことができます。こうした使い方で蓄電池がペイできるようになる初期コストを「ストレージ・パリティ」といいますが、一般的な使い方ではまだそこまで蓄電池の単価は下がっていないと考えています。ただ、だいぶ安くはなっているので、停電時にも使える電源として一部ハウスメーカーではほぼ標準で搭載されるようになっているとも聞きます。


太陽光パネルの国際的な課題について

(前)太陽光パネルの多くは中国製で、一部で問いただされている人権問題などの課題はどうお考えでしょうか。

(植田教授)トランプ政権により、米中の貿易摩擦が激化する中で、中国のウイグルの人権問題などがクローズアップされました。バイデン政権になり、問題が懸念される中国リストがエンティティ・リスト(EL Wikipedia)に掲載され、輸入が制限される事例も出てきています。アメリカでは、太陽光発電に関する自国企業(SUNPOWER,
First Solar)を積極的に支援する動きもあるようです。


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(前)日本は太陽光パネルの人権問題にどのように対応するべきでしょうか。東京都も太陽光発電の解体新書で取り上げています。

植田教授)こうした国際問題については、国がしっかり取り組むべきでしょう。製造までトラッキングでき、フェアな労働条件であることを確認できる仕組みを作る必要があるでしょうね。

太陽光発電設置 「解体新書」人権問題について

(前)先ほど先生は「結晶シリコン系の太陽光発電はプロダクトとしては完成している」とおっしゃっていました。今後は国内の産業や経済・エネルギーセキュリティーの面からも改善が必要なのですね。

(植田教授)先日、3年ぶりの国際会議で、ミラノで太陽光発電の学会に出てきました。先進国ではメガソーラの適地の減少、建物設置の重要性が高まり、デザインなどでも工夫を凝らしたものが色々と出てきました。世界の導入量は今年、1TWを超えますが、2002年頃からの普及拡大としても20年。ただし、次の1TWは向こう3年で導入されるような勢いで、人権問題のみならず、安全保障の面でもサプライチェーンの中国一国集中の危なさは皆認識しており、欧州でもサプライチェーン再構築の動きがかなり出てきています。日本も諦めずに頑張らねば、と感じますね。