220822 東京消防庁

太陽光発電を載せた住宅における火災のまとめ

  • 東京消防庁管内での火災は年に4000件程度、そのうち太陽光発電が原因のものは年に0~3件程度しかない

  • 2012年から2021年までの10年間で、太陽光発電が原因で起きた火災は住宅において13件。そのうち12件はパワコンが原因で、パネルからの出火は1件

  • 太陽光発電の火災の多くはパワコンの内部基盤の焦げで延焼していない ごく稀なパネルの火災も屋根の一部を焼損するにとどまっている

  • 太陽光発電がある家についても、太陽光発電に対する活動上の対策を確立しており、確実に消火活動は行われる

<太陽光発電の出火状況と消火方法について>

場所:東京消防庁 本部庁舎(大手町)

出席者:東京消防庁 警防部警防課、予防部調査課、企画調整部企画課・広報課

東京都環境局 荒井様   建築知識ビルダーズ 山川様   東京大学 前

取材協力:建築知識ビルダーズ

太陽光発電が原因の火災について

(前)太陽光発電が原因で起きている火災はどの程度なのでしょうか?

(消防庁)東京消防庁管内においては、2012年から2021年までの10年間で、太陽光発電が原因で起きた火災は17件、うち住宅においては13件です。そのうち12件はパワコンが原因で、パネルからの出火は1件のみです。

(前)「令和4年版 火災の実態」によると、2021年の1年間における火災件数は3939件もあったのですね。そのうち、太陽光発電が原因の火災は年に0~3件程度と極めて少ないということですね。そのほとんどを占めるパワコンの火災というのはどのようなものでしょうか。

(消防庁)パワコンの中の基盤が焼損したというものです。ボックスの中で焦げただけで、ほとんどが延焼には至っていません。パワコンにも安全装置がついていますからね。1件だけあったパネルからの出火も、正確にはパネル間に付属する電気配線のスパークが原因で屋根の一部が燃えたというものです。炎は上に燃え移る傾向があるので、パネルが燃えたとしても屋内に燃え移るには時間がかかるのです。

(前)火事というと、テレビで見るような全焼のイメージがしてしまいますが、太陽光発電が原因の火災というのはせいぜい焦げとかボヤといった軽微なもののようですね。太陽光設備について、施工者やユーザーに知ってほしいことはありますか?

(消防庁)太陽光発電の火災は少なく、現在のところ件数が増えているという状況でもありません。ただし、火災がおきたケースを見ると、使用年数がある程度経過しているケースが多いので、定期点検を行うことをおすすめします。こうしたメンテナンスが必要なことは、太陽光限らず全ての設備で共通のことです。

火災全般について

(前)そもそも、出火原因は何が多いのでしょうか?

(消防庁)出火原因の上位は、「放火」「たばこ」「ガステーブル」の順になります。以前多かった「放火」は、減少傾向にあります。また、電気設備機器(コンセント、電気ストーブ、差込みプラグ、コード等)からの火災が増加しており、最近では、携帯電話向けのモバイルバッテリーやハンディ掃除機の電池など、リチウムイオン二次電池が原因となる場合も増えています。

令和4年版 火災の実態

(前)火災の予防には、こうした出火リスクに注意を払うのが第一なんですね。

(消防庁)住宅火災の出火原因として件数が多い「たばこ」「コンロ」「ストーブ」に気を付けていただくとともに、火災警報器や消火器などの防災機器のメンテナンスもお願いします。火災警報器は電池が10年程度で交換が必要になりますので、ご注意ください。以下の広報パンフレットもぜひご覧いただいて、火災が起きないようにご注意いただければ幸いです。

東京消防庁 STOP! 住宅火災

太陽光発電が搭載された住宅の火災時の消火活動について

(前)太陽光発電が屋根に載っている住宅の火災は、通常の住宅火災とは異なるのでしょうか。

(消防庁)太陽光発電は、パネルに太陽の日射等があたると電気が発生するので、感電防止などを念頭におき消防活動を実施します。しかし、太陽光発電が載せてある家は消火ができないなどということは全くありません。平成25年に総務省消防庁から「太陽光発電システムを設置した一般住宅の火災における消防活動上の留意点等について」という事務連絡が各都道府県消防防災主管課に出されており、東京消防庁として対策を行った上で消火活動を行っています。

(前)どのような対策をされているのでしょうか。主だったところをご説明ください。

(消防庁)消火に当たっては、対象からの離隔距離を確保するとともに、通常の棒状放水ではなく、水を伝わって感電するリスクが低い「噴霧放水」を行います。また、消火後にはパネルの上に「遮光カバー」をかぶせ、発電を防止し、再出火等の二次災害を防ぎます。もちろん、隊員が感電しない対策も行います。こちらは後ほど、訓練場の方でご覧いただきます。

(前)噴霧放水というのは初めて聞きますが、どの消防車にも備えられているのでしょうか。

消防庁)現在の当庁のポンプ車には、全て「ガンタイプノズル」と呼ばれるノズルが積載されており、棒状の放水と噴霧放水を自在に切り替えることができます。噴霧状の放水は架空電線の火災など感電の可能性がある場合の他に、延焼中の建物内を効果的に冷却する場合などに利用します。

(前)いずれにしろ、太陽光発電が載っていても、問題なく消火は行えるということですね。

(消防庁)確実に言えることは、太陽光が載っていようといまいと、我々は対策をとり確立された消火方法により、必ず消火活動を行って火災を消し止めるということです。

<太陽光発電搭載住宅の消火方法について>

場所:東京消防庁 即応対処部隊 第七消防方面訓練所

出席者:東京消防庁 警防部警防課・救助課、企画調整部企画課

東京都環境局 古舘様 荒井様   建築知識ビルダーズ 山川様   東京大学 前

取材協力:建築知識ビルダーズ

(消防庁)東京消防庁では、様々な火災に安全確実に対応するために、消火方法を確立しています。今回は太陽光発電の消火に関してご説明しましょう。

(消防庁)こちらは、「ガンタイプノズル」です。放水・停止の切り替え、放水量の調整、そして棒状放水と噴霧放水の切り替えが、手元でスピーディーに行うことができます。

(前)放水ノズルというと、もっとシンプルでストレートなものをイメージしていました。このガンタイプはいつから導入されたのでしょうか。

(消防庁)約20年前から配置が開始され、現在、当庁の全てのポンプ車に標準で積載されています。

(消防庁)あちらは訓練用の建物で、屋根には訓練用の模擬太陽光パネルが載せられています。これから放水をしてみましょう。

(消防庁)棒状放水は到達距離が長いのですが、離隔距離が短い場合は感電するリスクがあります。噴霧放水は感電リスクが少なく冷却効果も大きいのですが、到達距離が短くなります。棒状と噴霧の放水パターンを離隔距離とともに適切に切り替えることで、太陽光発電がある家でも安全確実に消火することができます。

(前)現場の状況に応じて、適切な消火活動を行うということですね。

(消防庁)火災が発生すると、電気・ガス事業者に連絡して電気やガスは止めてもらいます。また隊長は災害現場全体を見まわして、電気・ガスといった設備を含め状況をトータルで把握し、適切な対応を指示します。もちろん太陽光発電がある場合は、それに合わせて適切な消火活動を選択します。

(消防庁)火を消し終わった後は、必要に応じて屋根の太陽光パネルにこの「遮光カバー」をかけます。このカバーをかけることで、日射がさえぎられて発電しなくなり、再出火を防ぐことができます。平均的な大きさの太陽光パネルであれば、シート2枚で1軒分のパネルを覆うことができます。確実に日射を防ぎ、パネルにしっかりかかるように、特別なものを作成して、当庁では全ての指揮隊に載せています。

(前)火を消した後も安全確保のために、しっかり事後処理をするのですね。

(消防庁)鎮火後、再出火といったリスクをなくすこと。火災原因調査を終え、家を持主の方に引き継ぐまで何も起こらないよう、消火後の対策も考えておくことが重要なんです。

(前)太陽光発電がある場合も含めて、様々な火災のケースにも消火について万全の準備をされていることが良く理解できました。