220823 構造塾

株式会社 M's 構造設計 URL

参加者:佐藤様 堤様

太陽光発電の屋根載せにおける戸建住宅の構造に関するまとめ

  • 最近の住宅は高性能化により重くなっているため、実際の荷重を考慮した耐震設計が求められる

  • 太陽光発電を載せる場合は、荷重の増加を考慮するとともに、重心と剛心のずれによる「偏荷重」を確認することが望ましい

  • きちんとした耐震設計を行っていれば、太陽光発電を載せても構造的に全く問題はない

  • 新築住宅に太陽光を屋根載せする場合の構造強化のコストアップは少ない

  • 既存住宅はもともと築年数等により条件が様々なので、太陽光後載せでは構造検討が望ましい


(前)戸建住宅の屋根に太陽光発電を載せる場合に、構造についてどのような配慮が必要かとお伺いできればと思います。そもそも太陽光発電を載せない場合において、戸建住宅で耐震設計はどの程度ちゃんと行われているのでしょうか?

(構造塾)大変残念なことに、木造2階建床面積500㎡までの木造住宅については、確認申請時に計算結果や関連図書を省略できることになっています。あくまで提出しなくてよいということで耐震設計をするのは必須なのですが、これを勘違いした設計者が耐震設計をきちんと行っていない場合があると懸念しています。

【構造塾#22】四号特例・木造住宅・耐震不明確な事実 動画


(前)地震が多い日本において、耐震設計の制度にあいまいな部分があるというのはちょっと心配ですね。

(構造塾)その通りです。これは建築基準法令や住宅建築業界全体の課題であり、国交省も現在、この四号特例の見直しを進めており、2階建て木造戸建て住宅についても構造審査が必須になる予定です。


(前)住宅において、日々の暮らしを快適で光熱費も安く済ませるための省エネは大事ですが、イザという時の耐震性も必須ですよね。耐震性が高いということは建物がしっかりしているわけだから、長寿命にもなりますし。

(構造塾)我々も、一般の方々に住宅の構造の大事さを広く理解していただきたいと考えています。住宅設計者に適切な耐震設計を普及させるとともに、住宅購入者にも耐震の重要性を動画サイトなども使いながら発信しています。

Youtube 「構造塾」チャンネル


(前)戸建住宅の屋根に太陽光発電を載せる場合、構造上はどのような注意事項があるのでしょうか。

(構造塾)地球環境を守るためにも、再エネの代表格である太陽光発電が普及することは我々も大事だと考えています。一方で、太陽光発電を載せる場合には構造的に考えておくべきところがいくつかあります。動画でも公開していますが、要点をご説明しましょう。

構造塾#3 大丈夫?太陽光パネル

構造塾#5 太陽光パネル間違った設計

(前)耐震設計と一言で言いますが、どのようなやり方があるのでしょうか。

(構造塾)大まかに分けて、①構造計算 ②性能表示計算 ③仕様規定 の3つがあります。①が建物条件を最も詳細に入力して計算するので最も信頼性が高い方法ですが、手間がかかるのであまり用いられません。②は長期優良住宅や性能表示制度で耐震性を表示するために計算するものです。①に比べると②は計算が簡便なので、ハウスメーカーなどが表示している耐震性能は、だいたい②で計算した方法です。③は最も簡単な方法で、工務店の多くはこのやり方でやっているはずですが、先の四号特例のために計算結果を提出してないので、実際は分かりません。

(前)耐震等級1・2・3というのを聞いたことがありますが、どのように計算するのでしょうか。

(構造塾)建築基準法で最低限の耐震性として定められている耐震等級1は、①②③のいずれのやり方でも評価できますが、ほとんどの木造2階建は③、木造3階建とかは①の場合が多いでしょう。耐震等級2・3については、①②のいずれかのやり方で評価します。

(前)計算方法は①②③と3つあるようですが、耐震等級1・2・3の強さ自体は同じなんですよね?

(構造塾)そこがややこしいところで、同じ耐震等級でも、計算方法によって実際の強度は違うんです。地震に強い家にするには耐力壁の量が重要なのですが、③の等級1は①に比べて必要な壁が少なく、地震に弱くなっています。等級2・3についても、①より②の方が求められる壁量はかなり少なくなっており、耐震性も低くなっています。

(前)普通は計算が簡単な方が安全率を大きくとって厳しめにする気がしますが、逆になっているのはおかしいですね。

(構造塾)最近は、住宅の高性能化に伴い複層ガラスや太陽光発電が増え、建物が重くなっています。建物が重くなるほど、耐力壁が多く必要になります。①ではこうした荷重を考慮して壁量を決めるので安心ですが、②では荷重にデフォルト値が定められており、必ずしも実際の重量が考慮されません。

(前)建物の高性能化は大事ですが、それに伴う重量増加に耐震設計が追い付いていないというのは心配ですね。

(構造塾)国交省は、住宅の従量が増している理由として、以下の3つを上げています。

  • 太陽光発電システムの設置

  • 断熱材使用量の増加

  • サッシの高性能化(トリプルガラス、2重サッシなど)

最近になって②の計算で用いる荷重について、複層ガラスの窓を考慮し、太陽光(PV)のありなしで屋根の荷重を変えるようになってきています。とりあえず②が実態に近づけて改善された後、③も修正されることを期待しています。

(前)太陽光発電を屋根に載せることを荷重に加算した上で、耐震設計をすることが重要なことは分かりました。他に気をつけることがあるでしょうか。

(構造塾)屋根に載せる荷重が増えること以外に、太陽光発電では「偏荷重」の問題があります。建物は、重さの中心である「重心」と、強さの中心である「剛心」があります。この重心と剛心がズレていると、地震の時にねじれが発生してしまい、建物が壊れやすくなります。

(前)日本の家は南側に大きな窓が並んでいる場合が多いから、構造のバランスが悪そうですね。

(構造塾)その通りです。もともと剛心が北側に寄りがちで構造のバランスが悪いところに、太陽光発電は南屋根だけに設置する場合が多いので、重心がさらに南に移動してしまい、偏荷重による建物の捻じれが起きやすくなります。

(前)太陽光発電による偏荷重の問題を解決するには、どうしたらよいのでしょうか。

(構造塾)偏荷重の程度は、先の耐震設計のうち①でしか検討できません。一番よいのは、①の許容応力度設計による構造計算により、太陽光発電を南屋根に設置しても偏荷重が起きないように耐力壁を配置することです。①の計算が困難な場合は、②でも安全側に工夫すれば偏荷重を防ぐことが可能です。きちんとした耐震設計をすれば、太陽光発電を載せても全く問題ありません。

(前)太陽光発電を載せるために構造の強化が必要として、どの程度のコストになるのでしょうか。

(構造塾)太陽光発電を載せることによる部材等のコストアップは、10~20万円程度ではないでしょうか。ちゃんとした構造設計を行っている限り、追加コストは大きくありません。

(前)新築住宅に太陽光発電を載せるには少しのコストアップで十分な耐震性が確保できるということですが、既存住宅に太陽光を後載せする場合はどうでしょうか。

(構造塾)既存の住宅は、築年数や維持管理状態等により条件が様々なので、事前に構造の検討をすることが望ましいです。耐震改修と太陽光発電の後載せを同時にできるといいですね。屋根を瓦葺から金属葺に替えると荷重が大幅に減少し、太陽光発電の荷重増加を十分カバーできます。屋根の葺き替えなら、住みながらでも工事ができるので住まい手の負担も少なくできます。