重要

まことに勝手ながら、未然形②と未然形③を逆転させました。混乱を招きかねぬ変更でありますが、東京式アクセントとの互換性向上のために行いました。

「ベータ版」を冠している間は、今後もこのような変更があるかもしれませんが、その都度おしらせいたします。

何卒、御理解くださいますようお願い申し上げます。

編者

・編纂の指針

本辞典は近畿圏の日本語におけるアクセント体系を示した辞典である。主に非母語話者を読者として想定しており、その学習に有用ならんことを期し、最低限の文法・用法の解説をも付す。

また、実用に堪えうる語学力の養成を支援するため、別シートに活用語のアクセント変化表を付録する。

・Iアクセント(第Ⅰ種アクセント)について

近畿日本語のアクセントは「第Ⅰ種アクセント」と称されているが、これは他のアクセントに対する優位性を含意しており、本辞典の志向する学術的平等性に著しく背馳する。また「京阪式-」は厳密性に乏しく、好ましくない。しかれども、急進的に新しい呼称を用いれば、誤解の発生が予想される。

そこで、「第Ⅰ種」の"I"を"imperial accent(朝廷アクセント)"の頭文字に見立て、現段階ではIアクセントと仮称するものとする。(読み方は「いちアクセント」「アイアクセント」「インペリアルアクセント」など)

・収録語彙について

生活、教育、ビジネスにとり重要な語彙に加え、「エモい」「ディスる」「何気に」などの俗語も収録した。

また、言語学研究にも活用できるよう、以下の語彙を網羅するよう努めた。

一、スワデシュ・リストに対応する語彙

一、「主の祈り」の試訳に有用と思われる語彙

一、日琉祖語の研究に有用と思われる語彙

一、人工言語トキポナに対応する語彙

しかしながら、現段階では実用に充分堪えうる語彙数を具備しているとは言い難く、想定しうるあらゆる用途に対応可能な辞典を実現すべく、更なる語彙の補填が要される。

本編

スクロールまたはスワイプで下に移動できます。読み込みには時間がかかることがあります。

「H」は高い音程、「L」は低い音程、「↘」は核を表します。一音節の単語のカッコ内は、伸ばして発音するときのアクセント型です。

枠の左下の「活用形とアクセント」タブを押すと、動詞や形容詞のアクセント型に関する詳しい解説が表示されます。

4782単語収録。随時更新予定。

近畿日本語アクセント辞典

用語解説

遅上がり

「からすLLH」+「がH」=「からすがLLLH」のように、次の単語の語頭がHである場合、その単語の語末のLHまたはHが、LLに変わる現象。

アクセントの核

「ここLH↘」+「がH」=「ここがLHL」のように、単語単体では表れぬが、後続する付属語を強制的にLに変化させる因子のこと。

ただし、自立語は変化させられぬ。つまり、助詞が省略される場合は遅上がりする。例:「そこ危ない!LL HHLL」

核の有無はあまり厳格ではなく、同地域であっても話者により少なからず異なる。

山型化現象

LLHやHLLから、LHLのような型に移行する大規模なアクセント変化。 1950年代生まれの世代から始まったと見られ、2000年代生まれの世代ではあらかた完了している。

2019年現在は世代によって山型化の進行の程度に差異が存するため、本辞典では両方を併記した。

例)「からす」LLH→LHL 「あたま」HLL→LHL 「テレビ」HLL→LHL など。

HHL型の崩壊

おおよそ団塊の世代以降に、名詞のHHL型がなくなり、別のアクセントに変化する現象が近畿圏広域でみられる。

現在、この変化はほぼ完了しており、HHLの名詞は派生語や強勢形に断片的に残る程度であるが、これらもやがて消滅するとみられる。

強勢形

強調する場合などに、特別なアクセント型をとる単語が多い。これを強勢形と呼ぶ。

LHの一般名詞の場合、特記なき限り、核をつけることで強勢形になる。

基本形「海LH」+「にH」+「行きたいなあHHLL HL」→「海に行きたいなあ LL L HHLL HL」

(「海」と「に」が共に遅上がりしている)

強勢形「海LH↘」+「にH」+「行きたいねんHHLL LL」→「海に行きたいねん LH L HHLL LL」

(「海」の核の影響で、「に」が強制的にLに変化)

その他、不規則な強勢形を持つ単語も少なくない。それらに関しては、備考欄に記した。

動名詞

動詞の連用形を、「ナイフ術の極意は『突き』や」のように、名詞として扱うもの。

動詞によって、連用形①をとるか、連用形②をとるかがある程度決まっている。本辞典では、動名詞形が特に重要と思われるものに関しては、独立した項目を設けた。

未然形②

否定の助動詞「へん」「ひん」に接続する未然形。通常の未然形(未然形①)とはアクセント型が異なる。連用形から派生したため「連用未然形」とも呼ぶ。

テ形

「て」「で」「た」「だ」を接続した形。「書いて」「刺して」「死んで」「戻って」など。

連用形②

東京式アクセントにも言えることだが、「て」や「た」を接続して、テ形や過去形を作る場合の連用形は、通常の連用形とアクセントが異なる。本辞典では、この場合のものを連用形②(または過去連体形)と呼び、その他を連用形①とする。

ところが、近畿日本語では、連用形①に接続したテ形と、連用形②に接続したテ形の二種類が存在し、使い分けられている。

連用形①+「てH」のテ形は、他の動詞や補助動詞に接続するときに用いる。例:「押して あげる HHH HHH」

連用形②+「てL」のテ形は、述語を並列するときに用いる。例:「押して、上げる HLL、HHH」

命令形

一般的には、「起きろ」「起きよ」のような形を命令形とみなされるが、本辞典では、「ろ」「よ」は終助詞とみなし、「起き」までを命令形とする。

活用形の分類

本辞典では、アクセント型に則って動詞の活用を更に詳しく分類した。

この分類の特徴は、東京式アクセントとの互換性がある点だ。これにより、比較研究が従来より容易になることが期待されよう。

「未然形②」は否定形を作る。近畿日本語では、助動詞「へん」などに接続する。

「未然形③」は、「書こう」や「起きよう」のような活用形だ。日本語教育では「意向形」と呼ばれる。他の未然形と異なるアクセントになったのは比較的最近で、高齢層や山間部では、未然形①と同じアクセントで発音されている。

こぼれ話:二つの「見い」

「見い」は、HHと発音されると軽い依頼を表し、HLと発音されると毅然とした命令を表す。

これらは、活用形が根本的に異なる。

「見いHH」は連用形であり、命令法的用法だ。「良かったらお饅頭でも食べ。お茶も飲み。」と同種の活用を、二拍に引き伸ばした形である。

一方、「見いHL」は命令形だ。

たとえば「見ろ」は、「見」までが命令形で、「ろ」は終助詞と見なすことができる(くわしくは「用語解説」参照)。

同様に「見い」もまた、命令形「見」+終助詞「い」なのである。