アラタと鳥
アラタの家の裏手は切り立った崖になっており、岩場に作られた簡易的な階段を下りていくと崖の下の小さな小道に行きつく。えぐられた崖が物語るように、強い波が小道を荒々しくぶつかる。幼いアラタはごくりとつばを飲み込みながらも、先に進む父親の背を追いかけた。
しばらく進むと小道は終わり行き止まりになった。父親は入り組んだ崖下の入り組んだ岩場の中から板を取り外してこちらに向き直り手招きをしている。その顔がどこかいたずらをする子供のような人懐っこい顔で、このあまり見られない表情にアラタは少し高揚した。
「ここだ、足切るなよ」
岩場の中に隠されていたのは小さな洞窟だった。アラタがぎりぎり立ってはいれるほどの小さな穴は人工的なものではなく自然とできた亀裂のようだった。中からひんやりとした風が断続的に吹いている。
「先に入れ」
父親に促されて、アラタが先に進むと波の音がだんだん小さくなっていく。
こんな狭いところに入ることにアラタは抵抗したが父親の手前恥ずかしい姿を見せたくなかった。