ぬんの物語

MushtopiaEXにつながるあらすじなのでネタバレ注意。

それなりにわかりやすくするためゲームの順番が前後します。



【はじまり】


 ある研究団体が、南米の奥地にて洞窟に自生するキノコと特殊な鉱石を発見する。

 なんとその特殊なキノコには知性があった。

 研究を進めるうちに、そのキノコは言葉を覚え感情のようなものまで生まれていく。研究者たちはその奇跡に我を忘れた。

 知性の宿る人間以外の存在、そんなものに敬意など存在しない。大切なのは発見、ノルマ、好奇心。

 度重なる卑劣な実験によって、あるキノコに宿った最初の感情は憎悪であった――。


 キノコの中でも唯一、言語と憎悪をたっぷり盛られた個体があった。

 彼が心の奥底で望むのは復讐。

 研究によって分かったことだが、彼らキノコは冬虫夏草の如く生物に寄生することができるらしい。

 自らの能力を人間に教えられたキノコは一人ほくそ笑む。


「お前らをボクの奴隷にしてやるぞ」

 「ぬん」は見知らぬ屋敷で目を覚ます。

  なんと頭にはキノコが生え、彼女に語りかけてくる。


「君は誘拐されたんだ、一刻も早くこの屋敷から脱出しよう」


 訝しみながらも強く言えないぬんは、屋敷から脱出するためキノコと協力して探索を開始する。

 だが、歩けば歩くほどキノコは大きくなっていく。それと共にぬんの苦痛と疲労は増大する。それほど歩けないうちにぬんは気絶してしまった。

「やあ、じゃあまた探索しようか」


 そしてまた屋敷で目が覚めるぬん。何もかもが最初からやり直し。ある程度歩くとキノコが成長し、痛みでぬんは気絶してしまう。

 脱出などできるはずがない。

 次第にわかってきたことだが、キノコの目的はぬんをただ歩かせることだけ。そしてぬんが苦しむことを楽しんでいるのだった。屋敷に鍵を掛けたのも、ややこしいパズルもすべてキノコに仕組まれていた。


定期的にくるキノコの成長の痛み、何度挑戦しても失敗する屋敷からの脱出。ぬんは次第に病んでいった。

四度目の気絶の後、彼女はやっと解放される。


「ありがとう、ぬんちゃん。これでやっと準備が整った」


キノコがぬんに作らせていたキノコは爆弾だった。日の光に弱いキノコを守るため、胞子の雲で空を覆い、そして多くの人間にキノコを感染させる爆弾。

ぬんと一緒に作った三つの爆弾を彼女の住む町に投下した。

胞子がまき散らされ、雲が覆われキノコたちの楽園が顕現していく。

ぬんは、それをただ茫然と見ていることしかできなかった。

 世界はキノコの胞子に包まれた。

 人間はキノコに操られ、気力を失っていく。世界は混乱し、元には戻らぬ日々が続く。

 そんな世界で、胞子の影響を受けない少女がいた。

 「ぬん」。彼女は度重なるキノコの生産によって、既に人間とは違う身体となっていた。


 彼女の生きる世界は、驚くことに彼女の知る世界から100年経った世界だった。

 彼女にとってたった数時間でしかなった屋敷の探索の間に、それだけの年月が過ぎていたというのだ。

 彼女は絶望する。

 死を望んだこともあった。しかし、同じく屋敷内で見つけた自分と同じ胞子の影響を受けないか弱い幼女「こぬ」を見つける。

 こぬに「お母さん」と呼ばれ頼られるぬんは、いつしか彼女を助けるために生きることを決意した。

 そんな日々の中で彼女は、100年前になにが起きたのかを知りたくなった。

 何が原因で自分がこんな状況に至ったのか、知りたくなるのは当然だ。

 唯一の手掛かりはあの屋敷。戻るのは気が引けたが勇気を出してぬんは屋敷へ再び訪れた。


 必死の探索の結果、わかったのはこの屋敷は研究所だということ。ぬんはキノコの復讐のために偶然選ばれただけの存在だったこと……そして彼女自身一部の記憶を封印されているということだった。

 屋敷内で出会ったメガネキノコ(元人間、研究所の責任者)の協力を得て失われた記憶を取り戻そうとした。


 しかし、その記憶は思い出してはいけないものだった。


 ぬんの探索のさなかに起きたキノコの大いなる気まぐれはエスカレートし、彼女の精神を壊すほどの苦痛や恐怖、そして大きな憎悪を抱かせるに十分な拷問だった。

 だから封印していた「もの」、それを取り戻そうなんてイカレている。

 だが、彼女は思い出してしまった。

 感情の本流を受けて彼女は深い眠りに落ちた。


 ぬんを母と慕うこぬは一人残された。


 「こぬ」は「ぬん」から産まれた。研究所である屋敷にぬんを誘拐したキノコは、世界を征服するためにキノコの爆弾を作っていたが、やがてぬんに感情移入してしまう。しかし、ぬんに疎まれていることに気が付いたキノコはその代替品を作ろうと決心する。

 それが「こぬ」。

 研究所にはもともと所長の娘が住んでいた。キノコが決起し、屋敷全体を掌握した際に娘は死んだ。キノコはその娘の遺体を再利用しようと考える。

 遺体をぬんに移植し、その再生を図った。人一人を新しく作ることは、単純な胞子の爆弾を作るのとはわけが違う。

 そのため今まで以上の歩数を彼女に歩かせるため、幻覚剤を使い、ぬんをひたすら歩かせる。時には苦痛、時には恐怖、時には憎悪、多種多様な感情を揺さぶり彼女を歩かせる。

 そしてこぬは誕生した。ぬんは壊れてしまったので記憶を封印した。


 こぬを手に入れたキノコは、「父親ごっこ」を始める。

 そして、父性と愛を手に入れた。

 それらは彼を一変させてしまった、感情移入しているぬんへの大きな後悔をも生んだ。

 何もかもが変わってしまった。人間への復讐などやめようと思った。


 だが、生まれてしまった娘のため。自分と同じ日の光で死滅してしまう娘が生きていける世界を作るため。太陽を胞子で覆い、新たな世界を作るため爆弾は投下された。

 キノコは霧散した。



 絶望の世界でキノコやぬんを失い一人になったこぬは空っぽだった。

 自分は何なのか。何のために生まれてきたのか。ぬんはどうやったら目を覚ますのか。

 それを知るため、キノコの女王として世界を征服していくと決めた。

 非凡な才能を持つ協力者のキノコ(工場長)と共に彼女は世界を隅々まで支配していく。

 やがて、すべてを掌握した彼女は、ぬんを覚醒させることにも成功した。


 しかし目が覚めたぬんは何もかもが違っていた。

 母だと慕っていた優しい彼女はそこにはなく、憎悪にまみれた歪み切った女の子がいるだけだった。

 そして、すべての真相を知り、彼女は自分……自分たちの種族が取り返しのつかないことをしたのだと知った。

 贖罪のため、発明されたばかりの不安定なタイムマシンでこぬはぬんを過去へ送る。


「さようなら、おかあさん」


 幸せな日常へ帰してあげるために……。

 何も知らず目を覚ました「ぬん」はまたあの屋敷の中にいた。

 100年前のあの始まりの日そのもののようだった。

 何故このような状況になったかはわからないが、ぬんはチャンスだと思った。

 ここで脱出できれば家族のもとに帰ることができる。ついでにこんな屋敷燃やしてやろう。

 大丈夫だ。自分はあの100年後の世界で必死に考えた。今度こそ脱出できる!


 失敗した。


 気絶ののち、ぬんは目を覚ます。今度こそ脱出すると意気込んだのもつかの間、周りの風景が変わっている。


「君は誰だい?」


 現れたキノコから語られた事実にぬんは愕然とする。


 この世界にはぬんは二人いる。今のぬんを捕まえた後にもう一人のぬんも捕まえた。

 一回の気絶で25年、もう一人のぬんが先ほど二回目の気絶をした。

 これでキノコの爆弾は三本完成している。あとは拡散させるため、キノコは羽の形態に成長するだけ、それを今のぬんが育てている最中。

 未来からやってきたぬんのせいで計画が速まってしまったのだろうか……。

 絶望の中、キノコは去っていた。


 次に目が覚めると、ぬんはまだ出口のない迷路にいる。だがどこか雰囲気が違うのだ。

 幻覚剤によって、認識を歪ませた世界ではなく。厚いコンクリートに覆われた密閉された空間。どう頑張っても脱出は不可能。

 途方に暮れるぬんのもとにキノコの声が響く。


 ぬんの生み出した爆弾キノコは毒性を持っていてほかの仲間のキノコが大勢死んだ。このぬんは危険と判断され、コンクリートの壁の中に封印した、もともとの計画は予定通りもう一人のぬんだけで行うことになった。

 そんなことをキノコは淡々と語り、去っていく。


「殺して……」


 ぬんは死ぬこともできないまま、ここに取り残される。

 憎悪だけが彼女の中に溜まり、やがて動かぬキノコとなった。

 

 どれだけの時間がたったのか……。

 ある日、その菌糸の中から一人の人間が生れ落ちる。


「任せて、オカアサン。ボクが必ずキノコを根絶やしにしてあげる!」


MushtopiaEXへ続く