2022年度

2022年度 年間研究記事

 2022年度の年間研究は、21年度に引き続き、山梨県丹波山村、埼玉県三芳町、千葉県白井市の3つの地域で行いました。夏から秋にかけての現地調査は、まだコロナ禍のなかでの実施でしたので、私たちゼミ生も感染に注意しながら、関係機関や関係の皆様のご協力をいただきながら実施できました。その後、秋の学会発表、冬に報告書原稿をまとめました。

 改めまして、調査でお世話になりました次の皆様に感謝申し上げます。丹波山村役場(総務課・振興課)、丹波山村の現役・元地域おこし協力隊員の皆様、丹波山倶楽部とアットホームサポーターズ、キャンプ場、旅館や民宿、山小屋の経営者の皆様、大多摩観光連盟、三芳町役場(観光産業課)、上富地区のさつまいも生産農家の皆様、食品加工企業の皆様、白井市役所(商工振興課)、白井市民の皆様、ありがとうございました。


丹波山村地域づくり班

テーマ:山梨県丹波山村における地域おこし協力隊による地域づくりの実態と課題


近年、外部人材を活用した地域づくりに注目が集まっています。山梨県丹波山村では、2014年度から地域おこし協力隊の受け入れを始めました。これまで30名を超える協力隊員が丹波山村でさまざまな活動に取り組んでこられました。私たちは、2022年度に丹波山村で活動されている現役の協力隊員14名と任期後に村に定住されている元隊員6名の方にご協力をいただき、協力隊へ応募した理由や丹波山村で活動することを決めた経緯、現在の活動内容、今後の定住意向など、さまざまなお話を伺いました。研究を通して、今日の丹波山村において新旧の協力隊員の活動は、ご自身のスキルや経験を活かしながら村に新しい産業や社会的関係、雰囲気を生み出しているとともに、活動の継続にあたって隊員間や隊員と地域住民の皆さん、隊員と行政担当者の皆さんとの関係性のあり方について課題があることを学びました。 

丹波川沿いに広がる丹波山村の中心集落(2022)

現役隊員の皆様へのヒアリング風景(2022)

元隊員の方が開業させた古民家カフェ(2022)

丹波山村法人経営

テーマ:山梨県丹波山村における農業関連法人の多業経営の実態と地域的役割 

  丹波山村は山梨県の北東部に位置し、雲取山などの山々に囲まれている地域です。私たちは大規模農業経営が困難な中山間地域にある丹波山村において、法人設立を通した複合経営とその担い手に着目し、その特徴と地域的な役割を明らかにしました。

研究を通して、次のことが明らかになりました。①丹波山村で設立された農業関連法人は、農業生産とともにその加工品(舞茸・ジビエ)の生産と販売のみならずキャンプ場の経営、企業の研修や大学生の実習の受け入れ、体験型イベント等、多業の経営によって経営上のリスク分散や関係人口の創出につなげている。②法人設立によって I・U ターン者村内居住者の雇用の場(若手が中心)となっている。以上から、農業関連法人の設立は、地域特産品の創出のみならず若手の雇用の場、キャンプや体験型イベント等を通した関係人口の創出の場になっていると指摘できると結論づけました。


村役場でのヒアリングの様子(2022) 

日よけがかかっているまいたけ畑(2022) 

生産者からお話を伺うゼミ生(2022)


丹波山村観光

テーマ:山梨県丹波山村における観光関連産業の現状と課題 


山村自治体である山梨県丹波山村の産業別就業人口は、第3次産業に含まれるサービス業や宿泊・飲食業などが多くを占めています。私たちは、コロナ禍の近年、都市近郊の観光地(とくにキャンプ場)に再び注目が集まっていることを踏まえて、山梨県丹波山村におけるキャンプ場を中心とした宿泊業の経営実態を明らかにするとともに、その課題について考察しました。

研究を通して、次の点が明らかになりました。①村内の宿泊業は、キャンプ場でコロナ禍においても来客数が増加傾向にある事業者があった一方で、旅館や民宿のそれは減少傾向にある点である。前者は「キャンプブーム」が、後者はコロナウイルスの影響以外に少子化や後継者問題の影響も関わっている。②宿泊業の経営は、常連客の存在によって支えられている。③施設の老朽化やオーナーの高齢化、人手不足が顕在化している。観光事業の持続性を高めるうえで、希少性のある観光資源の発掘や事業者間や公的機関との連携などが課題となっている。


村内最大規模を誇る甲武キャンプ場(2022)


近年ブームになっているテントサウナ(2022)


「ヒロシのぼっちキャンプ」の舞台となった奥秋テント村(2022)


丹波山村在来種班


テーマ:山梨県丹波山村における在来種じゃがいもの生産実態と振興課題


日本農業は高齢化や生産の縮小が進んでいます。その一方で世界的に「小農」に対する再評価も進みつつあります。小規模零細を特徴とする日本農業は、価格競争力に乏しいため、地域の独自性をどのように構築できるかが問われることになります。そこで私たちが注目したのが在来種の栽培です。この研究は、山梨県丹波山村において継続されてきた在来種じゃがいも生産の実態と課題について明らかにすることを目的としました。

その結果、次のことが明らかになりました。丹波山村では、赤いも(落合いも)とつやいもと呼ばれる 2 つの在来種が継承されてきました。しかし、2009 年に 23 戸いた生産農家は 2022 年に8 戸へと減少し、その 8 割は 60 歳以上の農家となっています。しかし、地域おこし協力隊の任期終了後に起業した事業者が、大学生との連携や地域特産品の生産を通して種の継承を目指しています。若者や他地域との事業者との連携を通した特産品開発は、丹波山村における農業の存続に重要な取り組みであると考えられます。農産物のブランド化のみならず地域のブランド価値を高めることで、丹波山村の農産物をさらに価値づけることにつながるのではないかと考えました。


急傾斜地にひろがる農地と獣害防止の柵(2022)


在来種の赤いも(落合いも)(2022)


生産者からのヒアリングの様子(2022)


三芳町農商工連携


テーマ:都市近郊地域におけるさつまいもを通した農商工連携の構築とその要因 


埼玉県三芳町は東京から最も近い町で、「富の川越いも」というさつまいもが有名です。「富の川越いも」とは、日本農業遺産にも認定された落葉堆肥農法によって生産されているさつまいもを指しています。この研究では、富の川越いもを生産する農家と食品加工業者にどのような取引関係があるのかを明らかにしました。

さつまいも生産農家の多くは、生産物を直売所や直販で販売していますが、少なからず加工用へと仕向けています。私たちが確認した限りでも加工向けの取引業者は 10 社に及んでいました。これら業者との取引関係は、2010 年代に入ってから始まったものが多かったです。また、食品加工業者は埼玉県内に本社や生産工場を置く企業が多く、それら企業が地域連携事業の一環としてさつまいもの加工事業を位置づけていました。農家と加工業者との連携は、両者に次のメリットを生んでいます。農家は商品率の向上による売り上げの増加が、加工業者は新商品の開発効果とともに「地元企業」としての存立基盤を強化する意義をもっていると考えられます。

江戸時代に開拓された短冊状の地割となっている三芳町の農地と雑木林(2022)


「富の川越いも」を使ったアイス(2022) 

さつまいも農家と取引のある食品企業でのヒアリング調査(2022) 

埼玉県の食品展示会に参加した時の様子(2022)


三芳町6次産業化


テーマ:埼玉県三芳町におけるさつまいもを活用した6次産業化の実態と課題


埼玉県三芳町は、埼玉県入間郡の南部、武蔵野台地の北東部に位置しています。町内のとくに上富地区の農家は、300年続く「落ち葉堆肥農法」を受け継いできました。この農法は、2017年には世界農業遺産にも認定されました。この研究では、三芳町におけるさつまいもを活用した6次産業化事業を実践している農家の取り組みの実態やその経営効果、6次産業化の継続へ向けた課題について明らかにしました。 

「川越いも振興会」に加入する農家の内、3 戸の農家で 6 次産業化事業が取り組まれていました。それぞれの農家は、6 次産業化事業を始めたことで「売り上げの向上」、「規格外なものが使えるためロスが減るとともに商品化率があがる」ことを評価していました。カフェやレストランの開業は、この地域への来訪者の増加につながり、直売所での農産物販売にも好影響をもたらしています。その一方で、人手不足の問題や、土地利用規制の問題により、新たに施設を設置して新商品を製造・販売することができないなどの問題が指摘されていました。


さつまいもを生産する農家の圃場(2022)


上富地区の農家が大事にする落ち葉堆肥(2022)


賑わうOIMO cafe(2022)

※OIMO caféの皆様には、2022年12月に開催したコピス吉祥寺での虹色マルシェでも大変お世話になりました。


白井市商業


テーマ:白井駅前商店街の歴史的変遷からみた店舗構成の特徴と商店街の機能変化


 千葉県白井市は東京都市圏のベッドタウンとして、千葉ニュータウンとともに成長してきました。近年ニュータウン地域では大型店の立地が相次いだことにより、計画的に配置された近隣センターの商店が廃業を余儀なくされ、中心市街地の空洞化問題が生じています。この研究では、2021年度に引き続き千葉ニュータウンに位置する白井駅前商店街を事例に、商店構成の歴史的変遷を追いながら商店街の変化とその特徴を明らかにするとともに、商店街の機能変化について考察することを目的としました。

 白井市は、千葉県印旛地域の西部に位置し、隣接する印西市や鎌ヶ谷市などに立地した大型商業施設の商圏内にあります。こうしたなかで、白井駅前商店街では、商店街に存在していた生鮮食品などの小売機能が撤退している一方で、近年では理容・美容店や学習塾、保険業などサービス業を中心とした立地がみられます。このような変化を受けて、白井市は駅前商店街の新展開を目指してトライアル・サウンディング事業の一環として、キッチンカーの出店をとおした住民ニーズの把握を進めています。あわせて、白井駅前商店街は小売業集積地としての商店街から、企業誘致をも含めた事業所集積地の拠点地区としての役割を担い始めていると考えられます。


白井商店街の様子(2022)


白井商店街を調査するゼミ生と先生(2022)


トライアル・サウンディング事業で出店するキッチンカー(2022)