市民に聞いた「好きな場所・建築・空間」
インタビュー・リサーチから考える、仙台のまちの魅力
2025.11.30|プログラム D|トークセッション
市民に聞いた「好きな場所・建築・空間」
インタビュー・リサーチから考える、仙台のまちの魅力
2025.11.30|プログラム D|トークセッション
仙台で建築文化を考える・話し合う日をつくろうと、2025年度からはじまった「せんだい建築文化DAYS」。
今年のテーマは、−記憶と風景の間にある、まちの奥行き−です。
2日目最後のプログラムDはトークセッションを行いました。Local Placesが仙台の建築学生と取り組んできた、仙台市民に聞いた「好きな場所・建築・空間」をまとめたリサーチブックの報告や、建築家・冨塚崇氏、デザイナー・渡邉武海氏を交えたレクチャーから、仙台への愛着について問う多角的な議論が行われ、個人の体験に根ざした「好きな場所」を起点に、仙台という都市の構造や特性を読み解く時間にもなりました。フリーライターで編集者の及川恵子さんによるレポートをご覧ください。
仙台市民へのインタビューから見えてきた、街と自然との距離感
「せんだい建築文化DAYS 2025」に合わせて配布されたリサーチブック。これは仙台で建築を学ぶ学生たちが市民に「好きな場所・建築・空間」を聞いた街頭インタビューの内容をブックレットとしてまとめたもの。100件以上の回答を「自然」「文化/歴史」「商業」「インフラ」のジャンルに分け、コメントと共にそれぞれのスポットを紹介している。
インタビューの背景を教えてくれたのは、星友也氏(宮城大学大学院修士1年)と佐藤勇晏氏(東北工業大学3年)。定禅寺通や仙台駅のペデストリアンデッキ、広瀬川、西公園など、回答に多く上がったスポットやエリアをピックアップしながら、実際にアンケートを行ったときの経験とヒアリング結果から仙台の街を読み解いた。
話題が展開したのは、広瀬川と青葉山公園へ話が進んだ時。
「ここ数年で新しく建てられた仙臺緑彩館をはじめ、仙台城址や西公園、青葉山公園などから、皆さん広瀬川をいろんな角度から見ているようでした。橋の上や橋越しだけでなく、河川敷まで降りて広瀬川を感じているという人もいました。今後、建築家・藤本壮介氏が設計する音楽ホールが誕生したら、またこのエリアに人々の思い出が増えると思います」と星氏が振り返ったのをきっかけに、広瀬川を中心としたエリアについて議論が広がっていく。
「皆さん、青葉城址につながる大橋を渡る機会はありますか? 最近では仙臺緑彩館の芝生でピクニックをしている家族の姿も増えましたよね」と問いかける友渕氏に対して、「仙臺緑彩館が完成した時にはあの一帯の印象がすごく変わったなと思いました。仙台駅からも青葉山の自然からも近い場所だし、仙台の街を俯瞰できる場所だなという印象があります」と応える渡邉氏。
さらに友渕氏は「大橋に立つと、広瀬川が境界になってエッジラインが際立つから仙台の街が見えているような気持ちになります。ペデストリアンデッキから見る仙台のイメージとはまた違いますよね。砂漠から遠い場所に街が見えてくる映画のワンシーンのよう。日本では珍しい場所だと思います」と仙台市民にとって見慣れている風景に新しい視点をもたらした。
また、仙台市の蒲生干潟や荒井などの沿岸部エリアについても展開。
「東日本大震災で大きな被害を受けた場所だから、ここ数年は海の思い出が薄くなってしまったのでは?遊びに行く場所というより、波を眺めたり、元旦に初日の出を見に行く場所ですね」という菅原氏の問いに、
「友人たちに聞いても、仙台の海で泳いだ経験は少ないようです。やはり震災の影響が大きいと思います」と答える星氏。
仙台で暮らす人々にとって海や川は“眺める場所である”という認識で、自然との距離にいくらかの隔たりがあること、そして震災以降の生活圏の変化を改めて感じられた。
いま、目の前にある街をどう捉え直すか
後半は、冨塚氏のレクチャーからスタート。
冨塚氏は建築家としてだけでなく、宮城県丸森町の地域おこし協力隊としても活動。限界集落と呼ばれる地方で自邸兼設計事務所を構えながら、建築を通して町の魅力を生み出し、町の循環を推し進める活動を行っている。
レクチャーの中で語られたのは、冨塚氏の取り組みとこれからの展望。まず事例として紹介されたのが、市営住宅の建て替えを通して、住宅・公園・オフィスエリアがゆるやかにつながり、人々の交流を生み出すことを目指した大阪府大東市の「morinekiプロジェクト」。飯盛山の豊かな自然を背景に、敷地内に多くの植栽や住居前のベンチの設置、多方面からのアプローチなど、様々な仕掛けを設けることで曖昧な境界を生み出し、人々の交流をもたらした公民連携型プロジェクトだ。冨塚氏は前職の設計事務所で携わっていたという。
現在進められている丸森町での活動にも話がシフトしていく。古民家で熟成肉を提供するレストランの改修、自宅のひと部屋を改修した古材・古道具のアトリエ。そして、丸森町の観光スポットである齋理屋敷周辺の魅力向上・活性化を目指す取り組みが紹介された。
「さまざまな形で資源の循環を感じ取ることができ、次の世代に引き継いでいけるような活動をしていきたい」という言葉で締めた冨塚氏。既存資源を活用しながら新たな機能を付与する手法は、その地域の魅力を再編集し、街に開かれた場所を生み出す。建築が媒介となるコミュニティや求心力を持つ場所を生み出すことへの可能性も示されていた。
次は、デザイナーの渡邉氏にバトンタッチ。目的地に向かう途中の風景や、日常の中で何気なく目にしている風景にこそ個人の愛着が宿るという話を軸にレクチャーが展開された。
印象的だったのは松島町のプロジェクトで、シャッターが閉まっていた空き物件で展示に向けた改装作業をしている中、小学生の女の子から「ここはどんなお店になるんですか?」と声をかけられたエピソード。
「彼女の毎日の目線ではシャッターが閉まった建物として映っていたけれど、その日はシャッターが開いていることに気が付いた。何が起こるのだろうと思える視点がいいなと思ったんです。自分の生活圏の中で景色の変化を感じ取れるのもいいことですよね。また、彼女が見ている景色と、展示作業のためにその場所にいた私たちが見ている景色はまったく違うということを、改めて感じることもできました」
また、そのエピソードに付随して、仙台市・南蒲生の住民たちと制作した地図の話に。その地図は裏面が白地図。地図を手にした人それぞれが、私だけのスポットを書き込めるという仕掛けを盛り込んだ。花が好きな人なら季節ごとに咲く花を場所ごとに書き込む。その人だけの目線で作り上げることができるのだという。
「こうした視点は、シャッターが開いたお店で声をかけてくれた女の子と同じだと思うんです。あなたは知らないけど、私は知っている。そしてマップにすることで、私が知っていることをあなたに知らせることができる。この考え方は、今日のせんだい建築文化DAYSの企画とも親和性があるかなと思いました」
この他、個人と景色が連なって表現された映画作品をピックアップしたり、失われた建物への記憶や震災後の地域の再編集にも触れたりと話題を展開した渡邉氏。最後には心象風景と物理的風景が重なり合う中で、街の個性は一人ひとりの視点の積み重ねによって形づくられるとレクチャーをまとめた。
仙台の個性はどこにあるのか
後半のクロストークでは、前半のレクチャーを踏まえた自らの生活を街へ開くことや日常風景の捉え方を問う話題が展開した。
「人は日々の風景を無意識に“モノクロ化”しているのではないか」と指摘する友渕氏に対して、「自分が愛着を持つ風景や空間体験を共有できる機会は街中に少ない。そうした文化を、時間をかけてつくっていかなければ」と語る菅原氏。それに対して渡邉氏は「インタビューで多くの人が愛着をもっていた広瀬川は、景色として誰もが共有しているのかもしれませんね」と新たな視点をもたらす。自然を享受して美しい風景を見出そうとするのは仙台人の気質なのでは、という問いにも発展していた。
会場からの質疑では「仙台らしさ」の捉えにくさについて投げかけがあった。東京と仙台を行き来しているという男性は、仙台にしかない“らしさ”が見つかりにくいと指摘する。その話題に対して、仙台で学生生活を送る女性が「私の地元は福島。仙台は栄えていて賑わいもあって住みやすい街だと言われることが多いけれど、“福島も負けていないぞ!”と思うようになりました。ふたつの場所を行き来することで、それぞれの場所の魅力を考え続けています」と語る。
「地域を見つめ直すきっかけになったのなら、このイベントを企画した意味がありました」と笑顔で答えた後、「でも、住みやすい街ってすごいことですよね。それは生活に豊かさがあるということですから。ただ、仙台らしい特徴がないことも事実。“らしさ”が集まり、際立つ街であってほしいですね」と続けた菅原氏。
今後も建築や風景、地域をテーマにした対話を継続していく意向が示され、2日間のイベントは締めくくられた。
冨塚崇|Takashi Tomizuka
1986年仙台市生まれ。建築家。国内外の設計事務所を経て、2021年に設計事務所 "yeto" を東京で設立。2022年より宮城県伊具郡丸森町の地域おこし協力隊に着任し、古民家をラボと見立て、改修工事を行いながらまちの循環をつくる事業を推進中。
渡邉武海|Takemi Watanabe
1973年栃木県生まれ。デザイナー。インテリアデザイン、展示、アートプロジェクトなどの分野において、空間設計、什器設計、編集、グラフィックデザインなど、領域を横断しながら取り組んでいる。
モデレーター:菅原麻衣子、友渕貴之 文:及川恵子 写真:齋藤太一
助成:(公財)仙台市市民文化事業団