建築文化をつくるひと #01
地域へ開かれた神社へ
2023.10.22|齋藤和哉(建築家)|金蛇水神社外苑 SandoTerrace
建築文化をつくるひと #01
地域へ開かれた神社へ
2023.10.22|齋藤和哉(建築家)|金蛇水神社外苑 SandoTerrace
仙台・宮城にゆかりのある建築家が自作の建築について語り、ともに空間を体験しながら対話することができる「建築文化をつくるひと」。第一回目は、齋藤和哉建築設計事務所の齋藤和哉氏が「金蛇水神社外苑 SandoTerrace」をガイド。設計プロセスから空間づくりの機微まで建築家自らの言葉で語られ、建築学生を中心とした参加者はみな、その妙に見入るばかりだった。
人々に開かれた場所へ
宮城県岩沼市に鎮座する金蛇水神社。水に関わる神、そして商売・金運の大神として古くから信仰され、人々の生活に長く寄り添ってきた神社だ。また敷地内には庭園があり、豊かな自然美まで愛でることができることから多くの人に親しまれてきた場所である。晴天に恵まれたこの日。「金蛇水神社外苑 SandoTerrace」は参拝客だけでなく、食事処「IKoMiKi」を訪れた人などでおおいに賑わいを見せていた。
冒頭に行われたのは齋藤氏と金蛇水神社宮司・髙橋 以都紀氏によるクロストーク。金蛇水神社の歴史に触れつつ、築30年の休憩所を改修するというきっかけから設計プロジェクトがスタートしたという内容が語られた。特に印象的だったのはこのプロジェクトの核となるコンセプトについての話が語られた時。宮司は、「休憩所にはカフェ機能を持たせるなどして、より人々に開かれた場にしたかった」という改修の原点を振り返る。
元来神社は氏子による支援があって成り立つもの。そうしたコミュニティがあるため、自然とクローズドな場所になりやすいのだという。しかし金蛇水神社はこれまで氏子を持たず、崇敬神社という特性や外部から訪れる参拝客で歴史を紡いできた経緯がある。だからこそもともとオープンな場所であり、開かれた神社の特性をそのまま現代に活かした場所にしたいと考えていたのだという。
齋藤氏も「先代の宮司から、“神社はもともと24時間、誰にでも開かれた場所である”という話を聞いていました。本来神社は公共性が高い施設だという話は現代的でとても興味深いなと感じましたし、これは近寄り難い印象の神社を開かせることができる可能性のあるプロジェクトになると思いました」と振り返る。さらに「神社の特性である“俗と聖”をつなぐ役割、そして古来性と現代性を合わせ持つことでの“古きと新しき”をつなぐという意味を持たせたかった」という印象的な言葉が語られた。
設計の工夫については、「駐車場からそのまま参道に向けて人の流れをつくり出し、空間的にも精神的にも神社に繋げる提案をしました」と語る齋藤氏。「カフェ機能を持つ休憩棟と売店や事務室がある牡丹棟との間に弧を描くようにテラスを沿わせて配置することで建物をぐるりと回遊させ、内と外が連続するような形を提案しました」と振り返った。
神社の世界観を感じるデザインに
こうしたレクチャーを踏まえて、参加者は建物内の見学へ。齋藤氏による建物の解説に耳を傾けながら空間を捉え、建物のディテールに目を凝らしていく。冒頭のレクチャーで齋藤氏や宮司から語られた設計プロセスやデザインの妙を体感する時間を過ごした。
金蛇水神社を訪れた人々は、敷地の東側に位置する駐車場からアプローチを進んでいく。休憩棟と牡丹棟の間に配された円弧状の参道へ誘われたのち、西側にある境内へと自然と足を進めたくなる構成だ。参道のレベル差は2.2m。「平場とスロープと階段を使い、なるべく既存の土地のレベルを活かしながらも、車椅子の方でも利用できるスロープ勾配になるよう配慮しました」と齋藤氏は語る。
次いで、周囲の自然を取り入れた空間構成にも言及。「この参道は入り口が広く開かれていますが、途中で天井と床との間が狭まることで空間が一旦閉じ、庭園の方へさらに歩みを進めることでもう一度空間が広がるような構成にしました。明るい場所から暗い場所へ至るという意図的な操作には、神社という場所らしく“俗と聖をつなぐ空間を表現したい”という思いがありました」
解説はこの建物を大きく印象付ける大屋根へシフト。トラスを形成する大屋根はどっしりとした堅固な印象がありながら、空間全体を包む大らかさを感じさせる。
「断面的にはひとつの大きな屋根なのですが、ふたつの切妻屋根を組み合わせています。これがひとつの大屋根にしてしまうと、かなり大型のボリュームになり威圧感のある建物になってしまいます。また木のトラスで強い構造体を採用することで、参道の中央に柱を落とすことがないようにと考えました」と切り出す齋藤氏。意識したのは、利用者に自然の光や風、そして神社の世界を感じてもらうこと。その世界観を損なうことがないように、デザインと構造の両面から熟考を重ねたことがうかがえた。時折、雨の処理や照明の配線といった専門的な質問が齋藤氏へ投げかけられた。こうした話に耳を傾けつつ、参加者は柱や床材に触れたり天井の緻密な構造をじっと見つめたりしながら、思い思いに空間を感じ取っていた。
屋根を支える白木の柱や細い鋼材で設えたブレース。陽の光を受けて映えるガルバリウム鋼板のファサードや、周囲の景観を映す大きなガラス窓。こうした敷地内のあちこちに見られる軽やかさのあるデザインも、「金蛇水神社外苑 SandoTerrace」の大きな特徴だ。しかし快さが伝わるデザインの根底には、構造体の絶妙なバランスがあるという。広場が見渡せる参道に至ったところで、齋藤氏はこう語った。
「すべて鉄骨造での建築も考えたものの、“できるだけ木の力強さを出したい”という金蛇水神社からの依頼があり、木をふんだんに使用した建物となりました。しかしすべてを木造にしてしまうと、遠くまで見通せるようなクリアな雰囲気が損なわれてしまいます。そこで構造家の方と相談して、“木造だけど鉄骨造”というハイブリッドな構造にしました。こうした構造のおもしろさは、境内の外にある建物だったからこそできました」
続いて、建物を見下ろすことができる見晴らし台へ移動。高い位置から建物を眺めると、大屋根は周囲の山並みや景観に馴染んでいるのが感じられた。神事や祭りといった“ハレ”の場にも相応しい建築でありながら、近隣の人々の生活やローカルな景色に溶け合うような日常との親和性、そして「多くの人に開かれた場所であるべき」と考えた齋藤氏が描く公共性の意義を強く伝えていた。
ここに、新たな価値を生み出せたはず
陽が傾きはじめた頃、Local Placesのメンバーでもある市川紘司氏(東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻助教)と齋藤氏によるクロストークへ。参加者は前半のレクチャーや見学を経て感じたことや疑問を、この日のために用意されたLINEのオープンチャットに投稿。そこから話の種を拾い上げることで対話が展開された。
チャットのタイムラインには、「どんな種類の木を使っていますか?」という素材についての質問や、「切妻が重なる“谷”の部分のメンテナンスはどう考えていますか?」という保全に関する質問のほか、「宮司さんの希望を取り入れる上で技術的に難しかったところは?」「ガラスを用いる際にどんな苦労がありましたか?」「省エネの工夫はしていますか?」といった様々な角度から建築を捉えた質問が投げかけられた。中でも、この建物を象徴する参道について多くの興味が向けられていた。
例えば、2つの切妻屋根を合わせたような大屋根を支える木の構造体がクロスしていることから「千木(神社建築に見られる、本殿の屋根に設けられた部材のこと)をイメージしているのか」という質問。神社のアイコンを取り入れたのかという問いに対して齋藤氏は「そういう考えもありますね。今度使ってみようかな」と笑いを交えながら、「ただ、何かがリズムを持って連続するものに人は神聖なものを感じると考え、それをこの建築に取り込みました」と答えた。
このほか、神社が式年遷宮に象徴されるように建て替えを前提にしてきた歴史を踏まえ「この建物がなくなったとして、残り続けるものは何だと思いますか?」という質問も。この問いには「どんな建物を設計する時でも、“何を残すことができるか”は考えているかもしれません。そして常に“何かと何かをつなぐことで別の価値が生まれるのではないか”と思いながら設計しているところはありますね。今回は俗と聖をつなぐことによって何か新しい価値を生み出せるはずだと考えて設計していますが、この建築がなくなったとしても、ここにはそういった文化が残り得るのではないかなと思います。もしこれが東京だったら、立派な神社や大規模な社務所をつくるのかもしれません。これは地方ならではの建築のあり方や考え方といえるかもしれませんね」と、時折じっくりと考えを巡らせるように語った。質問を投げかけた参加者とはその後、時代の変化の中で求められる宗教建築の役割についても意見を交わしていた。
最後は参加者から「宮城で一番好きな建築は?」という質問が投げかけられた。「宮城スタジアムが好きですね」と答える齋藤氏。その理由を「ハレの日でも日常でも利用できるように設計されているから」と付け加え、「それって、この場所にも通じる部分がありますね」と笑顔を見せた。
こうした建築家の人となりも垣間見えるのが、「建築文化をつくるひと」の醍醐味だ。参加者は建築家がつくりあげた作品に触れ、宮城の地に生まれた建築の歴史の最前に触れ、さらに建築家の人柄とバックボーンにも触れることができる。次は建築家自らが語る言葉で、どんな濃密な話を聞くことができるのか。そして、どれほど稀有な空間体験ができるのか。今後は建築を学ぶ学生や建築を生業にする人々だけでなく、現地に身を置かなければ感じることのできない有意義な建築体験の入り口として多くの人へと届いていくはずだ。
齋藤 和哉|Kazuya Saito
建築家。1979年宮城県仙台市生まれ。東北工業大学大学院修了後、阿部仁史アトリエ、ティーハウス建築設計事務所を経て、2010年齋藤和哉建築設計事務所を設立。主な作品は、金蛇水神社外苑SandoTerrace、浦和のハウスなど。主な受賞は、第42回東北建築賞作品賞、2021年度グッドデザイン賞など。
聞き手:市川紘司 文:及川恵子 写真:齋藤太一