Insect Cover Art

ここでは、音楽アルバムのジャケットで扱われた昆虫類の紹介をします。

Coelho(2004)の調査によると、当時のデータベースに登録されているロック・ミュージックのアルバム総数(50万枚)のうち、昆虫のカバーアートを合計しても392枚と、0.1%にも満たないことが報告されています。内訳の詳細は、昆虫には分類学上16目あるが、最も多く登場するのはチョウ目(36%)、次いでハチ目(17%)、コウチュウ目(11%)、ハエ目(9%)、トンボ目(8%)と続いた。一般種(抽象的描写、特定困難)は7%。数が少なかったのは、バッタ目、カマキリ目、ゴキブリ目が3%、ノミ目が2%。カメムシ目ヨコバイ亜目(セミ等)が1%であり、シラミ目、ハサミムシ目、カゲロウ目、カメムシ目カメムシ亜目(カメムシ等)、シロアリ目、カワゲラ目は、1点ずつしか確認できず、合計でも全体の0.2%でした。

ここでは、ロックに限らず、クラシックやジャズから映画のサウンドトラックまで幅広く紹介したいと思います。

Butterflies and Moths - Lepidoptera(チョウ目)

蝶は蛾とともに鱗翅目(りんしもく)と呼ばれる昆虫の一種である。この2つのグループは、翅に鱗粉を持つ唯一の昆虫として知られている。スミソニアン協会によると、地球上には6つの科に分類される推定17,500種が生息している。蝶の翅の色には構造的なものと色素的なものの2種類がある。

チョウ目を扱ったカバーアートが多いのは、美的、実用的、否定的、隠喩的など、さまざまな態度を示したり、メッセージを伝える意図があるからであろう。

Barclay James Harvest / Barclay James Harvest XII

Big Mountain / Unity

Buckcherry / Black Butterfly

2009年。

クロアゲハが彼らの音楽性に合っている。日本ならナガサキアゲハ(Papilio memnon)のオスの形態に近いが少し違っている。海外なら、パラワンアゲアハ(Papilio lowi)の無尾型に近いだろうか。あるいは、Papilio deiphobusだろうか。

Earth223 / Yellow butterfly

Enigma / Love Sensuality Devotion:  The Greatest Hits 

2001年。Enigmaはドイツを活動拠点とするヨーロッパの音楽プロジェクト。映画『硝子の塔(Sliver)』(主演=シャロン・ストーン)に3曲提供する。グレゴリオ聖歌とダンスミュージックの「聖と俗」の融合で一世を風靡する。

ジャケットの中心部分にいるのは、クジャクチョウだろうか。妖艶な雰囲気を駆り立てる。このチョウは、名の通り翅の表側にクジャクの飾り羽のような大きな目玉模様(眼状紋)を持つ。

Dead Can Dance / A Passage in Time

Fleetwood Mac / Shine '69

Green Day / Insomniac

Heart / Dog & Butterfly

1978年。アメリカのロックバンド。アンとナンシーのウィルソン姉妹率いるユニット。女性ロック・ミュージシャンを核とした先駆的存在。

ビクトリアトリバネアゲハ(Ornithoptera (Aetheoptera) victoriae rubianus)のオス(緑色)とメス(白黒)を足して2で割ったようなデザイン。ちなみに、アゲハチョウ科のトリバネアゲハの仲間は世界で最も大きく、美しい。「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(略称:ワシントン条約、CITES)」によって保護されている。

Hollies / Butterfly

1967年。イギリスのロックバンド。

ジャケットの蝶は、ヒョウモンチョウ(豹紋蝶、 Brenthis daphne)だろうか。ユーラシア大陸北部。日本では、珍しい蝶で、北海道内陸部および、東北地方・中部地方の山地に生息する。

Howard Shore / Film ST: The Silence Of The Lambs

映画「羊たちの沈黙」のサントラ。ジャケットのガは、メンガタスズメ。チョウやガの完全変態昆虫が蛹から羽化して羽ばたく様子は、「変化への渇望」を秘めた犯罪者の深層心理の表れとして語られた。

Iron Butterfly / In-A-Gadda-Da-Vida

1968年。アメリカ合衆国出身のサイケデリック・ロック・バンド。

バンド名から他のアルバムでも数点で蝶のデザインが使われている。本作は、累計3000万枚という記録的なセールスを挙げたことでも有名で、そのジャケットには、オオカバマダラ(Danaus plexippus )だろうか。色調をサイケデリックに変化させている。

Jade Novah / Butterfly

Kate Bush / Never for Ever

KurTza / Yellow Butterfly

L'Arc-en-Ciel / Butterfly

2012年。日本のロックバンド。

Lily Meola / Butterfly

Mariah Carey / Butterfly

2022年。

こちらの作品の蝶は、オオカバマダラ(Monarch butterfly)でしょうか。北米ではとても人気のある蝶で、ペットとして、また教材として飼育されることもあり、結婚式で成虫を大量に放たれたりもする。

Mariah Carey / Greatest Hits

2001年。

マライアの手に乗る黄色い蝶は、アゲハチョウ科のGiant Swallowtailでしょうか。Papilio cresphontesかPapilio homerusあたりに見えます。黄色い蝶は、昆虫の皮膚に含まれる色素によって生じる天然の色素を持っている。欧米では、黄色い蝶は幸福、祝福、幸運を象徴するとのこと。スピリチュアル的には、黄色い蝶は暖かく晴れた天気が近づいていることの象徴であり、希望を意味し、その人の人生に創造性を刺激する喜びをもたらすとされる。

Moonspell / The Butterfly Effect

1999年。ポルトガル出身のゴシックメタルバンド。

ジャケットの片方の羽だけ残された蝶が退廃的なムードを引き立てる。種は、オナシアゲハ(学名:Papilio demoleus)だろうか。オナシアゲハは、アラビア半島、バルチスタン、インド半島、セイロン島、インドシナ半島、中国大陸南部、マレー半島及び小スンダ列島周辺、台湾、フィリピン、ニューギニア、オーストラリアなど広範囲に分布。ポルトガルのあるイベリア半島には分布していないが、迷蝶として確認はあるのだろうか。

Nine Inch Nails / Downward Spiral

Penny Layn / Butterfly

Phatt Freddy / Heracles

PornoGraffitti / Ageha-cho

Rodan / Rusty

アゲハチョウ科のWestern Giant Swallowtailだろうか。

Santana / Borboletta

Sheryl Crow / Wildflower

ShinEast / Yellow Butterfly

Shucheng Shi / The Yellow River Piano Concerto - The Butterfly Lovers Piano Concerto

Sody / butterfly

Soilwork / Natural Born Chaos

Special EFX / Butterfly

カナダやアメリカで見ることのできる最大のチョウGaint Swallowtail(Papilio cresphontes)だろうか。

Suzette Guerrero / Butterfly

Large tree nymph(オオゴマダラ:Idea leuconoe)だろうか。東南アジアに広く分布し、日本では喜界島、与論島以南の南西諸島に分布する。

T.UTU / Butterfly

1993年。TMNのヴォーカリストのソロアルバム。

ジャケットの蝶は、色合いはモルフォチョウに似るが、羽根の形態が違う種にも見える。モルフォチョウ(学名:Morpho)は、北アメリカ南部から南アメリカにかけて80種ほどが生息する大型のチョウの仲間のことを指す。モルフォチョウの特徴はなんと言っても、羽の光沢である。このグループのほとんどの種類で青に発色する。これは色素ではなく翅の表面にある櫛形の鱗粉で光の干渉が起きるため、光沢のある青みが現れる。この現象のことを構造色という。

Wasps and Bees - Hymenoptera(ハチ目)

Wasp(カリバチ)とBee(ハナバチ)。英語のWaspの範囲と厳密に対応する日本語はないが、ここでは便宜的にwasp=カリバチとする。waspの代表をスズメバチ、beeの代表をミツバチとするなら、両者は対照的である。獲物をハンティングする狩猟民族的なスズメバチ、一方、せっせと花粉を集めて巣に持ち帰り女王蜂に滅私奉公する農耕民族的なハナバチ類。ただし、両者ともに社会性の昆虫である。実はスズメバチもせっせと滅私奉公しているといえる。ただし、遺伝学的には、包括的適応度の考え方もあり、完全な滅私奉公は昆虫界ではありえないのかもしれないが。

Beeは慣用的に、働き者、忙しない人、羽音のごとくよく喋る人という意味でも使われます。キラービーというのは、アフリカナイズドミツバチ(アフリカ化ミツバチ)のことで、アフリカミツバチ(Apis mellifera scutellata)とセイヨウミツバチ(A. m. ligustica 及び A. m. iberiensis)の交雑種であり、攻撃性が強く、人間の死亡例も多いために恐れられている。地域によっては生命力の強さが買われて養蜂に使われている。

Anthrax / Attack Of The Killer B's

The Beach Boys / Wild Honey

Big Horns Bee / Big Horns Bee Best

ミツバチにビッグホーン(ヒツジ)のツノを生やしたデザイン。

Feeder / All Bright Electric

Paradise Lost / Believe In Nothing

Rage / Welcome To The Other Side

Sonic Syndicate / Only Inhuman

Tyler, The Creator / Flower Boy

Williams / The Waps

Ants - Formicidae(ハチ目アリ科)

Dickerd N Sons / Ants

Michael Wilbur / Ants

Sara Costa / Ants in Pants

Negatron / Voivod

Beetles - Coleoptera(コウチュウ目)

甲虫目は、他の目に比べて最も種数の多いグループである。カブトムシ、クワガタから、スカラベ、カミキリムシ、テントウムシも含まれる。The Beatlesのバンド名が、Beetle(カブトムシ)に由来するくらいなので、ロック界で甲虫はシンボル的な響きのある昆虫なのかもしれない。

Acidupdub / Longhorn Beetle EP

カミキリムシ(Longhorn Beetle)だろう。

Anayna Pena / Beetle

Beetle Mode / Beetle

Cazador / Stag Beetle 

Delerium / Euphoric

The Devil Makes Three / Longjohns, Boots and a Belt

テナガカミキリ(Acrocinus longimanus)だろうか。カミキリムシ科に属するカミキリムシの一種。メキシコからアルゼンチン北部にかけて生息する。

Emilie Simon / ES

Emilie Simon / Desert

Emilie Simon / Flower

Journey / Arrival

2001年。アメリカのハードロックバンド。スカラベのアートワークが印象的であるが、音楽性は爽やかなロック。

ちなみに、1978年発表の「Infinity」からアートワークとしてスカラベがデザインされるようになった。このモチーフは当初ジミ・ヘンドリックスのアルバムに使われる予定だったものがジミの死によってお蔵入りとなり、ジャーニーのエンブレムとして変形させたものである。スカラベは生まれ変わり、再生、輪廻、などを象徴しているとメンバーは語っている。こちらのジャケットアートは、ツタンカーメンの即位名を表象した護符スカラベを元にデザインをしたのだろうか。

King's X / Ear Candy 

Louie Zong / The Beetles

Massive Attack / Mezzanine

1998年。イギリス・ブリストル出身の音楽ユニット。ヒップ・ホップ、レゲエを中心に、ジャズ、ソウル、ロックなど様々なサウンドをミックスした独自の音楽性を持つ。

写真のクワガタは、ヨーロッパ最大の昆虫ヨーロッパミヤマクワガタ (Lucanus cervus) だろうか。ノコギリクワガタの一種だろうか。いずれにせよ、細部はデフォルメされており、実際の種の形態とは異なっている。ジャケットを開いてみると、胸部、腹部あたりは、装置のようなものと画像がミックスされている。

Mihare / Beetle

Regio Kei / Stag Beatle Type BT

slono / Stag Beetle EP

Sound Cave Studios / Entrance of the Beetle King

Willow Milton / Beetle

Flies - Diptera(ハエ目)

ハエ目は、ハエ、ウジ、蚊を含むのだが、生活の中でも不快な存在であるため、ネガティブな連想を狙ったものが多い。

生ごみなどにたかるハエはおそらくどこの国でも嫌われ者で、不潔で不快な害虫であろう。日本でも横浜銀蝿というバンドがあるが、五月蝿い(うるさい)音や、ストリートでも図太く生き抜いているのもロックのイメージと重なる。ウィリアム・ゴールディングの小説『蠅の王』(原題:Lord of the Flies)1954年があり、同タイトルの映画も1963年、1990年に公開された。

一方、映画『グラディエイター』では、傷口にハエの幼虫(ウジ虫)を摂取しているシーンがあります。現代でも、この方法はウジ虫治療(マゴットデブリーメント治療:MDT)と呼ばれ治療法として存在しているようです。その方法では、ヒロズキンバエの無菌ウジを感染性潰瘍部に置き、壊死組織を食べさせ患部を清浄化し、正常な肉芽組織の再生を促す方法です。詳細な機序は不明とされていますが、ウジ虫が多量の分泌液で患部を洗浄し、アルカリ性にすることによって殺菌作用を表し、壊死組織のみを食べることなどが考えられています。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)など抗生物質が効かない細菌にも有効と考えられている一方で、悪化例もないわけではないようです。古代ローマでは、抗生物質や薬草がすぐに手に入らなかった状況下での苦肉の策だったのかもしれない。

AC/DC / Fly On the Wall

Alice In Chains / Jar Of Flies

The Chicks / Fly

Geezer Butler / Plastic Planet

Green Day / Dookie

Linkin Park / Hybrid Theory

Linkin Park / Reanimation

Montrose / The Very Best Of Montrose

No Doubt / Tragic Kingdom

Dragonflies - Odonata(トンボ目)

日本では、トンボは、「縁起のいい虫」として考えられてきました。飛び方が「一直線に前に進んでいくように見える」ことと、基本的に肉食で田畑の害虫を食べるところなどから、縁起が良いとして「勝虫」などとも呼ばれていました。この名称は勝負事にこだわる武士たちの間で、かなり流行したようで、トンボをモチーフにした兜などが多く作られたのです。

一方、西洋においてはトンボは基本ヨーロッパでは「魔女の針」などとも呼ばれたり、その翅はカミソリになっていて触れると切り裂かれるとか、嘘をつく人の口を縫いつけてしまう、あるいは耳を縫いつけるという迷信もありました。魔女の針という名称はこの「縫いつける」という迷信と関連づけられた事によってつけられたらしいです。ヤンマ科の英名は Dragonfly というが、ドラゴンはその文化において不吉なものということを考えると得心がいきます。

7and5 / Dragonfly

Dvořák: Violin Concerto / Anne-Sophie Mutter, Berliner Philharmoniker, Manfred Honeck

Gerry Mulligan Quartet / Dragonfly

James Carr Band / Dragonfly

Kevin Kern / Endless Blue Sky

Michael Franks / Dragonfly Summer

Mattew Parker / Dragonfly

Naragonia / Tandem

Mozart: Quatuors K 499 & K 589 / Quatuor Mosaïques 

Strawbs / Dragonfly

Yes / House of Yes:  Live from Live from House of Blues

Cicada -  Homoptera(カメムシ目ヨコバイ亜目)

Cicadas / cicadas

Gina Nemo / Cicada

Hazmat Modine / Cicada

Jimanica / Entomophonic

John Sammers / The Cicada That Ate Five Dock

Rodan / Fifteen Quiet Years

Tres Puentes / Cicada

Universalize / Cicada

waterweed / Cicada

Cicada -  Hemiptera(カメムシ目カメムシ亜目)

David Rothenberg / Big Music

Motherhead Bug / Zambodia

Cicada Dream Band / Pauline Oliveros

Grasshopper - Orthoptera(バッタ目)

Agent Steel / Mad Locust Rising

Cocobat / Return OF Grasshopper

Praying Mantis - Mantodea(カマキリ目)

Dinosaur Jr.  / Bug

The Garden / U Want The Scoop?

Praying Mantis / Time Tells No Lies

Rodan / Hat Factory '93

The Trouble With The Girls / Killer

Leaf Insects and Stick Insects - Phasmatodea(ナナフシ目)

Kantyze / Insidious EP

オオコノハムシかコノハムシだろうか。

Mozart:  Les Quatuors Dediés À Haydn / Quatuor Mosaïques

オオトビナナフシの一種だろうか。

Cockroach - Blattodea(ゴキブリ目) 

Danger Danger / Cockroach, Vol. 1

Danger Danger / Cockroach, Vol. 2

The Offspring / Americana

ブランコに乗った男の子が抱えているのは、巨大に描かれたワモンゴキブリだろうか。それともノミ目のスナノミだろうか。ワモンゴキブリの学名が、Periplaneta americanaなので、アルバムタイトルを文字った可能性はあります。

このアートを手がけたのは、アメリカ人グラフィック・アーティストのフランク・コジック。アニメ映画『風の谷のナウシカ』のヒロインが幼き頃に王蟲の子どもを抱える様子も想起させる。

Papa Roach / Infest

Flea - Siphonaptera(ノミ目)

Flea(ノミ)を描いたジャケットはあまり多くなさそうである。Fleaと言えば、Red Hot Chili Peppersのベーシストを思い出す。彼の跳ねまくる彼のパフォーマンスに由来している。

The Offspring / Americana

ブランコに乗った男の子が抱えているのは、巨大に描かれたワモンゴキブリだろうか。それともノミ目のスナノミだろうか。一部のファンの間では、これはスナノミだという意見もあります。

Plecoptera(カワゲラ目)

Collin Mulvany / Stonefly

Dermaptera(ハサミムシ目)

Pegboy / Earwig

Net-winged insects - Neuroptera(アミメカゲロウ目)

Mozart: Les Quatuors Dediés À Haydn & "Les Dissonances" / Quatuor Mosaïques

ギリシアで見られるリボンカゲロウだろうか。

Several Species

Alice Cooper / Welcome to My Nightmare

Cathedral / The Guessing Game

Led Zeppelin / III

Monfungo / Bugged

Paradise Lost / Draconian Times

Holly Warburtonによるアート。表紙ではないが、スリーヴスにカブトムシらしき甲虫が使われている。

The Rolling Stones / Metamorphosis

Syd Barrett / Barrett

Tablet / Pinned

Demons and Wizards / Uriah Heep

General

Aerosmith / Nine Lives

Jordana B. / Gente Corriente

サソリなどで昆虫綱ではないが。

Scorpions / Longsome Crow

ドイツのメタルバンド。

スコーピオンズ(サソリ)というバンド名だけに他にもサソリをフィーチュアしたジャケット多し。

Comments(所感)

少年時代からロックやメタルが好きな私にとってCDやレコードのジャケットは音とともに「見て楽しむ」芸術作品であり、コレクションの対象でした。

Coelho(2000; 2004)の論文を読んだとき、膨大な音楽アルバム数から昆虫がモチーフになったものを探すという、まさに「しらみ潰し」の調査が実施されており、驚愕しました。

マイ・ベスト昆虫カバーアートは、Massive Attackの「Mezzanine」、Paradise Lostの「Believe in Nothing」、Linkin Parkの「Hybrid Theory」、Emilie Simon「Desert」、Syd Barrettの「Barrett」、映画サントラの「羊たちの沈黙」です。これらの共通点は、中身の音楽や物語が好きというのもありますが、そこに、アーティストからのシニカルで大人目線でのメッセージが込められているように感じられるところです。

一方で、現代の科学的なエッセンスを持ち込むために昆虫を使ったアートも興味を惹きます。人間と昆虫のハイブリッドというのは、ターミネーターのような完全プログラム制御で感情のないロボットではなく、昆虫本来が持つ生存本能(食欲、繁殖、闘争)が人間にプラスアルファされたキメラ型のキャラを想起させます。映画「ミミック」(1997)では遺伝子操作された新種の昆虫との闘いが描かれたり、映画「蝿の王」(1989年)では、極限の状態に追い込まれた漂流した少年たちの理性と感情の葛藤が描かれています。

理論的な話では、昆虫のバタフライ効果(英語: butterfly effect)という複雑系科学のカオス理論があり、これは気象学者のエドワード・ローレンツが1972年にアメリカ科学振興協会で行った講演のタイトル Predictability: Does the Flap of a Butterfly's Wings in Brazil Set Off a Tornado in Texas?(予測可能性:ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?)に由来すると考えられています。この理論をモチーフにした映画「ジュラシック・パーク」(1993年)では登場人物が説明したり、「バタフライ・エフェクト」(2004年)はこの理論をテーマに製作されるなど、ポップカルチャーにも浸透しました。

このように、ポップカルチャーで昆虫が、あるいは一般人の間での昆虫のイメージが、音楽のカバーアートや映画の題材、会話のくだりに登場すると、なんとも言えず、嬉しい気持ちになります。

References

Coelho, J. R. (2004) Insects in rock and roll cover art. Am. Entomol. 50:3 142-151.

Coelho, J. R. (2000) Insects in rock and roll music. Am. Entomol. 46: 186-200.

小池啓一(執筆・企画構成)(2019)昆虫 2. 地球編. 小学館.