プロの音声

物真似音声の生成

顔がひとりひとり違うように,声道 (のど,口,鼻) の形も人それぞれです.その違いはひとりひとりの声の違いを生み出す1つの要因です.物真似タレントは声道の形を変えて他の人そっくりの声を作り出すことができます.テレビ番組の企画で,MRIという人体内部を撮像できる装置を使って物真似タレント (男性) が物真似する時の声道の形を調べる機会を得ました.このタレントさんにMRI装置の中で女性を含む12名の物真似で「えー」と言っていただいた時のMRIデータを下に示します.

これをご覧いただくと,同じ「えー」の音であるにもかかわらず,のどや口の形を複雑に変えていることがわかります.特に変化が大きいのは声帯のある喉頭の高さで,高い声を持つ人を真似する時には高い位置になり,低い声を持つ人を真似する時には低い位置になっています.

図をよく見比べていただくと,喉頭の高さ以外にも声道のさまざまな部分を変形させていることがわかります.物真似タレントは自分の耳を頼りにどのように声道を変形させたらよいのかを見つけ出して物真似を完成させるのでしょう.これには相当な努力が必要だと考えられます.

プロの物真似音声の研究については以下の論文にて報告しています.

下のリンクから夢ナビライブにて高校生向けに講演したときの動画をご覧いただけます.

声優のアニメ声の生成

物真似タレントと同じく声優も1人でさまざまな声質を使い分けることができます.声優が使う声質の1つとしてアニメ声と呼ばれるものがあります.アニメ声は,幼児音化させた (幼児の音声の性質を持たせた) 音声の一種と考えられます.ところで,幼児の音声では硬口蓋化という,舌が硬口蓋に接近する現象が見られます.例えば,「ツ」が「チュ」になったり,「ズ」が「ジュ」となったりします.

私たちは,声優がアニメ声を出す時にも硬口蓋化しているのではないか?と考えました.そこで,リアルタイムMRIという動画を撮像できるMRI技術を用いて声優 (女性) がアニメ声 (いわゆる萌え声) で話すようすを観測しました.この技術では,1秒間に13.8フレームの動画を撮像することができます.

結果の1つを以下に示します.これは,「買った」の/t/のタイミングのMRIデータです.アニメ声では舌が上方向に押し上げられ,硬口蓋と舌の接触範囲 (両矢印) が広くなっていることがわかります.つまり,硬口蓋化しているということが確認できました.これは幼児音化の1つの表現と考えられます.

私たちはアニメ声における幼さの表現はuncontrolledness(つたなさ)という概念で説明できるのではないかというアイディアを提案しています.つまり,発話運動の制御がうまくできないということが幼さの表現になっているということです.アニメ声や幼児の声における鼻音化や声の高さも,このuncontrollednessの現れだと考えています.コントロールできるということが幼児でなくなるということなのでしょう.

アニメ声の研究については以下の論文にて報告しています.

謝辞 本研究の一部はJSPS科研費の支援により行われました.